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盈月
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「ねぇ、瑠璃」
巴が深刻そうな顔で声をかけて来たのは、体育祭から一週間ほどが経った日の昼休みだった。
「なに?」
わたしは、横目で彼女を見てから、本に目を戻す。今日は天気が良い最高の屋上日和で、読書日和だ。邪魔しないで欲しい。
「打ち上げとしてどこか行かない? 三人で。体育祭の」
「行かない」
深刻そうに見えた顔は一転、楽しげに提案をしてくる。
「なんでさ」
「別に、理由は無いけど。行く必要も無いかな」
「いいじゃん、行こうよ」
巴が、わたしの身体をゆすろうとする。
その手を振り払ったのは、無意識だった。
「え」
巴が固まる。多分、それほどには強い拒否だった。ふざけに本気で返された彼女は、驚きを隠せないままこちらを見ている。
だけど、驚いたのはわたしの方もだった。
「……ごめん」
拒絶なんてするつもりはなかった。巴がじゃれあってくるのはいつものことだし、わたしはそれを諦めるように受け入れていたはずだ。なのにーー。
薄々は感じていた。わたしは体育祭の日から、あの人を想起させるものを受け入れられなくなっている。
背筋に走った寒さを無理やり無視する。
「別に巴が嫌だった訳じゃない。ごめん、ちゃんと打ち上げ行くから」
本を置き、巴の方を見た。
「ほんと? 打ち上げ来る?」
「うん、行く」
「なら許す」
彼女が浮かべた笑みには、少しの迷いが見えた。そんな顔をさせてしまうほど、わたしは嫌悪感を巴にぶつけてしまったのだろう。
「……ありがと」
答えて目を逸らした。
恐がるな。
自分に言い聞かせる。
夢とは思えなかった夢。負けてはいけない。負ける訳にはいかない。わたしはあの人から解放されるのだから。
空に向かって決意を新たにする。
西山瑠璃をこんな所で壊す訳にはいかなかった。
巴が深刻そうな顔で声をかけて来たのは、体育祭から一週間ほどが経った日の昼休みだった。
「なに?」
わたしは、横目で彼女を見てから、本に目を戻す。今日は天気が良い最高の屋上日和で、読書日和だ。邪魔しないで欲しい。
「打ち上げとしてどこか行かない? 三人で。体育祭の」
「行かない」
深刻そうに見えた顔は一転、楽しげに提案をしてくる。
「なんでさ」
「別に、理由は無いけど。行く必要も無いかな」
「いいじゃん、行こうよ」
巴が、わたしの身体をゆすろうとする。
その手を振り払ったのは、無意識だった。
「え」
巴が固まる。多分、それほどには強い拒否だった。ふざけに本気で返された彼女は、驚きを隠せないままこちらを見ている。
だけど、驚いたのはわたしの方もだった。
「……ごめん」
拒絶なんてするつもりはなかった。巴がじゃれあってくるのはいつものことだし、わたしはそれを諦めるように受け入れていたはずだ。なのにーー。
薄々は感じていた。わたしは体育祭の日から、あの人を想起させるものを受け入れられなくなっている。
背筋に走った寒さを無理やり無視する。
「別に巴が嫌だった訳じゃない。ごめん、ちゃんと打ち上げ行くから」
本を置き、巴の方を見た。
「ほんと? 打ち上げ来る?」
「うん、行く」
「なら許す」
彼女が浮かべた笑みには、少しの迷いが見えた。そんな顔をさせてしまうほど、わたしは嫌悪感を巴にぶつけてしまったのだろう。
「……ありがと」
答えて目を逸らした。
恐がるな。
自分に言い聞かせる。
夢とは思えなかった夢。負けてはいけない。負ける訳にはいかない。わたしはあの人から解放されるのだから。
空に向かって決意を新たにする。
西山瑠璃をこんな所で壊す訳にはいかなかった。
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