パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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「瑠璃自身……?」

「わたしのチカラは記憶を読んで書き換える。でも、そんな生易しいもんじゃない。わたしのチカラは、対象者の記憶を全て読む。生まれてから今までを全部、体験したかのように鮮明に。だから、矛盾なく記憶を書き換えられるの」

初耳だった。でも考えてみれば、確かにそうかもしれない。記憶は繋がっているのだ。部分だけでは、何も分からない。

「でも、わたしの頭はそんなに記憶を貯められる訳じゃない。今は上手く整理できるようになったけど、昔はそうじゃなかった。だからーーわたしは記憶を失った」

「…………」

「教団に囚われる前……もしかしたら後のことまで何一つ分からない。教団でチカラを乱用したせいで、他の記憶に塗りつぶされちゃったから。だから、わたしはわたしが分からない。どこで生まれたのかも、なんで教団に居るのかも、両親の顔も名前も、誕生日も、苗字も、瑠璃って名前が本物かすら分からない。だから知りたいの、わたしが何者か。それを探してる」

語り終わったのか、瑠璃は視線を外して歩き出す。おれを置き去りに進んでいく。
おれは動けない。こんなことを聞かされて、普通でいられるはずがない。だけどーー。

「瑠璃」

「なに?」

小さな身体を思い切り抱きしめた。

「瑠璃、ありがとう。大変だったな」

事実をすぐには受け止められないけれど、固まっているだけではいられない。

「同情される気は無いよ」

「そうだとしても、労わせてくれよ」

瑠璃の頭を優しく撫でた。この子は、小さな身体にどれだけのものを抱えているのか。どれだけの苦しみを乗り越えてきたのか。

どうか、これからは安らかに過ごして欲しい。

ーー蛇目教はおれが潰してやるから。

我が子を守るため、全てを賭けてもいいと思えた。




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