パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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瑠璃は夕陽が沈みかけた頃になってようやく目覚めた。最初はぼんやりとした目で周りを見渡し、確かめるように両手を見つめてから、状況を理解したようにおれの方を向いた。

「ごめん、体育祭にちゃんと取り組めなかった」

そして、そんなことを言う。





「もう、寝不足ってなにさ、心配したんだから」

「……ごめん」

「お陰で優勝できなかったし」

目の前を歩く瑠璃と巴ちゃんは、じゃれるように会話している。そんな様子を見ると、二人は本当に友達なんだなと実感できる。

「じゃあね瑠璃、きちんと寝るんだよ。西山さんもさようなら」

「じゃあね」

「また今度」

巴ちゃんと別れる。陽が沈んで空が夕闇に染まっていく。瑠璃と並んで歩き始めた。会話はあまり続かない。心底、巴ちゃんは凄いと思う。

ーーだけど今日、話題が出てこないのはそれだけじゃないよな。

「瑠璃」

名前を呼ぶ。長引かせる必要はないと心を決める。娘が振り返った。

「お前、悪夢に魘されてるのか?」

黒い瞳がおれを真っ直ぐ捉えた。それは静かで感情を読ませない。

「保健室の先生に聞いた。今日、一回目覚めて取り乱してたって。酷く怯えていたって。それに魘されてるのから、寝不足なんかで倒れたりしたのか?」

瑠璃はまだ答えない。一心にこちらを見つめているだけ。

「それに……聞いた。服を緩めた時に見ちゃったって瑠璃の身体の傷。お腹とかに最近のものらしいものもあったって。それは蛇目教に居た時のものか? 最近も怪我するようなことしてるのか? まだ、いじめられているのか? 答えろよ」

最後は、ドスの効いた声になってしまった。この子に負けてはいけない。流されてはいけない。おれは瑠璃の親なんだ。

根比べ。ゆっくりと空は黒に呑まれる。

「悪夢は、見てる。ほとんど毎日。多分、寝不足もそれが原因だとは思う。傷は教団に居た時のもの。弘さんなら見たでしょ、わたしの扱い。なら不思議も無いはず。お腹の傷はバスケの時とか、倒れた時にぶつけたかも。覚えてない」

単調な声はすらすらと回答を述べる。

「疑問は晴れた? ならいいでしょ」

視線が逸らされ、瑠璃が歩き出す。こともなしげだが、早く切り上げたいのだろう。

だけど、それは許さない。

「瑠璃、お前、何をしている?」

足が止まる。振り向く瞳が微かに銀に見えた。













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