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盈月
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*
暗い。目の前は真っ暗だ。
ーー何してたんだっけ?
ひどくぼんやりとした頭を抱え、わたしは身体を起こした。
じゃら……。
途端、全身が凍った。頭が一気にはっきりして、息ができなくなる。
「わたし……」
ゆっくりと右手を上げ、左手首、両足、首を順番に触っていく。
「あ、あぁ……」
そこにはきちんと枷が嵌まっていた。
わたしはまた、この檻に戻ってきてしまった。
認識した途端、周りの様子が分かるようになる。馴染み深い、血と、肉が焼き焦げた臭いが混ざった空気、容赦のない寒さ、無機質な硬さを持つ壁……。
目隠しに覆い隠された視界がわたしを昔に戻していく。
チカラを使う時以外使われることのない瞳は、他の全てを敏感にした。見えなくても分かってしまう、見えない方が分かってしまう。やはりわたしはどんなに光で過ごそうと、闇の住人でしかないのだ。
「ひっ」
そして闇の中、だからこそ気づいてしまった。逃れられない靴音に。
強さが一気に瓦解する。
光に出てみて、一人になって、あの人から離れて、わたしは変わったはずなのに、震える身体は制御不能な程に怯えている。
「やだ……」
枷につながる鎖が壁の方へと巻き取られ始める。抵抗する余裕も無い。
わたしにあるのは諦めと恐怖。
あの人から逃げることなんて不可能だった。
じりじりと身体は壁に引かれていく。枷にかかる力は強く、骨や筋が軋んで、激痛が全身を駆け抜ける。息が詰まって、身体が壊れる。だけど無慈悲に鎖は巻かれる。痛みが止むはずなんてない。これは、抵抗を見せるわたしへのお仕置きだから。
「っ」
そして、背中が壁へ叩きつけられた。腕、足、首が固定される。磔となったわたしはもう動けない。解放されるのは、全てが終わった後だ。
「…………」
抵抗できなくなった身体は、更に震え始める。もう恐怖を紛らわせられない。
ーーやだよ。
なんでこんなことになってしまったのか。嫌だった。恐かった。逃げたいのに、どうすることもできない。
吐いた息が白く昇っていく。涙が頬を伝う。靴音は大きくなっていく。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
そんな事を思っても、現実が変わる訳がない。靴音は牢の前で止まる。鍵が回る音がする。
そしてーー。
「瑠璃 、久しぶりだね」
二度と聞きたくない声がした。
暗い。目の前は真っ暗だ。
ーー何してたんだっけ?
ひどくぼんやりとした頭を抱え、わたしは身体を起こした。
じゃら……。
途端、全身が凍った。頭が一気にはっきりして、息ができなくなる。
「わたし……」
ゆっくりと右手を上げ、左手首、両足、首を順番に触っていく。
「あ、あぁ……」
そこにはきちんと枷が嵌まっていた。
わたしはまた、この檻に戻ってきてしまった。
認識した途端、周りの様子が分かるようになる。馴染み深い、血と、肉が焼き焦げた臭いが混ざった空気、容赦のない寒さ、無機質な硬さを持つ壁……。
目隠しに覆い隠された視界がわたしを昔に戻していく。
チカラを使う時以外使われることのない瞳は、他の全てを敏感にした。見えなくても分かってしまう、見えない方が分かってしまう。やはりわたしはどんなに光で過ごそうと、闇の住人でしかないのだ。
「ひっ」
そして闇の中、だからこそ気づいてしまった。逃れられない靴音に。
強さが一気に瓦解する。
光に出てみて、一人になって、あの人から離れて、わたしは変わったはずなのに、震える身体は制御不能な程に怯えている。
「やだ……」
枷につながる鎖が壁の方へと巻き取られ始める。抵抗する余裕も無い。
わたしにあるのは諦めと恐怖。
あの人から逃げることなんて不可能だった。
じりじりと身体は壁に引かれていく。枷にかかる力は強く、骨や筋が軋んで、激痛が全身を駆け抜ける。息が詰まって、身体が壊れる。だけど無慈悲に鎖は巻かれる。痛みが止むはずなんてない。これは、抵抗を見せるわたしへのお仕置きだから。
「っ」
そして、背中が壁へ叩きつけられた。腕、足、首が固定される。磔となったわたしはもう動けない。解放されるのは、全てが終わった後だ。
「…………」
抵抗できなくなった身体は、更に震え始める。もう恐怖を紛らわせられない。
ーーやだよ。
なんでこんなことになってしまったのか。嫌だった。恐かった。逃げたいのに、どうすることもできない。
吐いた息が白く昇っていく。涙が頬を伝う。靴音は大きくなっていく。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。
そんな事を思っても、現実が変わる訳がない。靴音は牢の前で止まる。鍵が回る音がする。
そしてーー。
「瑠璃 、久しぶりだね」
二度と聞きたくない声がした。
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