パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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「言いたいことがあるなら、後は当事者同士で話して」

西山が横を通り過ぎていった。彼女は俺を見もしない。いつものように自分の世界を歩いてゆく。

ーー俺は……どうすればいいんだ?

階段の陰でそう自問した。

巴に「試合をサボった怠け者を連れて来い」と命じられ、西山が居そうな場所リストを辿り、屋上へと来た。そうしたらこの修羅場のような状況。

俺はどうするべきか。

これはチャンスだ。昇に謝るための。

気づいてはいた。本当に罪滅ぼしをしなくてはならないのは巴にでも、西山にでもなく、昇になのだと。

あいつの事は中学の頃からいじめていた。弱いくせに傲慢で、俺達を見下してくる。最高にムカつくいい獲物だった。

なんでもやった。いじめと言われて思いつくような嫌がらせは全てやったと思う。殴る蹴るは当たり前で、私立高校の受験失敗も散々ネタにした。自殺を強要したことも、女子に無理やり告白させたこともあった。

今思うとかなり残酷なことをしたと思う。あいつがおれを憎むのは当然で、おれは罪を償わなくてはいけないと分かっている。

でも、一歩は踏み出せない。俺はまだ、昇を下だと見てしまっているから。

弱者に頭を下げたくない。

そんな自分勝手なプライドが俺の決意を鈍らせている。

ーー俺は……。

ジリリリリリリ!

突然、黒電話が鳴り響く。

「ちっ」

慌ててスマホを取り出す。それだけの動作なのに何度もスマホを落としそうになる。

「もしもし」

『どこに居るの! 瑠璃もう帰ってきたよ。だから早く応援に来なさい。分かった?』

一方的にまくし立てられ通話は切れる。

「ったく、なんなんだよ」

わざわざこんな所まで行ってやったのに、なんで怒られなきゃーー。

「賢太郎」

背筋にぞくっと寒気が走る。後ろから聞こえた声。聞き覚えはある。

「昇……」

振り返る。血走ったような目。別人かと思うような声。そこには、俺の知っているいじめられっ子は居なかった。




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