パンドラ

須桜蛍夜

文字の大きさ
上 下
114 / 158
盈月

105

しおりを挟む
「なんでここが分かったの?」

身体をずらして、パラソルの陰から少年を見上げる。昇。そう呼ばれていたはずのいじめられっ子がそこに立っていた。

「たま子先生に聞いたんだ。そしたら、屋上の方に行ったのを見たって言うから」

「そう」

担任に見られていた? そうか。まぁ、別にそれはいい。

「ちょっとついて来て」

酷く名残惜しさを感じながら身体を起こす。少年は躊躇いながらも、扉の方へと向かうわたしについてくる。

そのまま屋上を後にして鍵を閉めた。

「あの、西山さん、その……」

状況を読めていない彼は、どもりながら何かを言っている。

「ねぇ」

顔がこちらを向く。大きな丸眼鏡に自信なさそうな表情。こちらを見つめた双眸にわたしはチカラを作用させた。

わたしが居たのはこの屋上前の踊り場。開かずの扉は開いてなどいない。
巴とわたしの秘密基地の邪魔はさせない。

額に手を当て、適合を待つ。ゆっくりとした時間の中、少年の瞳の焦点が合った。

「……あ、西山さん。えっと、僕」

二度目の出会いが始まった。

俯く。オドオドする。目を合わせない。
ぐちぐちと進まない言葉達がひたすらに繰り返され、時間だけが経つ。

「用事が無いなら帰るよ」

問題は無さそうだ。なら、付き合う必要はない。

背を向ける。彼は慌てながらもごもごと何かを言っている。歩みを進める。少しずつ遠ざかっていく声。段々と聞こえなくなっていく。

「西山さん!」

突然、その中に一つの言葉が混ざった。

「西山さん……僕と付き合ってください」

真剣に紡ぎ出された台詞。多くの覚悟を含んでいる。

「やだ」

だけどわたしは受け流す。

「なんで……」

「あなたに興味が無いから」

足も止めず、真実を告げる。後ろで崩れ落ちる音がする。

わたしを好きになるなんて物好きだ。
巴も彼も、わたしの何が良いのだろう?

天井を見上げ、自分の長所を考えてみる。

「賢太郎が居るからか?」

そこに昏い声が降りかかった。ゆっくりと歩みを止めて振り返る。彼は地面にしゃがみ込みながら、力むように全身を震わせていた。さっきまでとは様子が違う。

「なに?」

「賢太郎が居るから、僕と付き合えないんだろ? なんでだよ。あんな奴のどこが良いんだよ!」

そして、突然爆発した。喚き散らす事が正義だとでも言うように、支離滅裂な言葉を撒き散らす。血走っているようにも見える瞳は虚空を睨んで、何かを殴りつけるかのように拳を振り回す。

「あいつは僕をいじめた。西山さんもいじめた。なのになんであんな奴と一緒に居るんだよ。僕を選べよ。僕はエリートだ。あんなクズとは違う。僕は東大に行く。絶対に僕を選ぶべきだ」

憎しみ、嫉妬、自意識、怒り。怒り。怒り。
叫びは感情のみで紡ぎだされる。

「あなたは勘違いしてる。あの子にだってわたしは興味ない」

そんな言葉を受け止める事はわたしにはできない。

「言いたいことがあるなら、後は当事者同士で話して」

矛先を失い、言葉を無くす彼を残して、わたしはその場を立ち去った。










しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

婚約者の恋人

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
 王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。  何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。  そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。  いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。  しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……

転生者、有名な辺境貴族の元に転生。筋肉こそ、力こそ正義な一家に生まれた良い意味な異端児……三世代ぶりに学園に放り込まれる。

Gai
ファンタジー
不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

処理中です...