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盈月
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「なんでここが分かったの?」
身体をずらして、パラソルの陰から少年を見上げる。昇。そう呼ばれていたはずのいじめられっ子がそこに立っていた。
「たま子先生に聞いたんだ。そしたら、屋上の方に行ったのを見たって言うから」
「そう」
担任に見られていた? そうか。まぁ、別にそれはいい。
「ちょっとついて来て」
酷く名残惜しさを感じながら身体を起こす。少年は躊躇いながらも、扉の方へと向かうわたしについてくる。
そのまま屋上を後にして鍵を閉めた。
「あの、西山さん、その……」
状況を読めていない彼は、どもりながら何かを言っている。
「ねぇ」
顔がこちらを向く。大きな丸眼鏡に自信なさそうな表情。こちらを見つめた双眸にわたしはチカラを作用させた。
わたしが居たのはこの屋上前の踊り場。開かずの扉は開いてなどいない。
巴とわたしの秘密基地の邪魔はさせない。
額に手を当て、適合を待つ。ゆっくりとした時間の中、少年の瞳の焦点が合った。
「……あ、西山さん。えっと、僕」
二度目の出会いが始まった。
俯く。オドオドする。目を合わせない。
ぐちぐちと進まない言葉達がひたすらに繰り返され、時間だけが経つ。
「用事が無いなら帰るよ」
問題は無さそうだ。なら、付き合う必要はない。
背を向ける。彼は慌てながらもごもごと何かを言っている。歩みを進める。少しずつ遠ざかっていく声。段々と聞こえなくなっていく。
「西山さん!」
突然、その中に一つの言葉が混ざった。
「西山さん……僕と付き合ってください」
真剣に紡ぎ出された台詞。多くの覚悟を含んでいる。
「やだ」
だけどわたしは受け流す。
「なんで……」
「あなたに興味が無いから」
足も止めず、真実を告げる。後ろで崩れ落ちる音がする。
わたしを好きになるなんて物好きだ。
巴も彼も、わたしの何が良いのだろう?
天井を見上げ、自分の長所を考えてみる。
「賢太郎が居るからか?」
そこに昏い声が降りかかった。ゆっくりと歩みを止めて振り返る。彼は地面にしゃがみ込みながら、力むように全身を震わせていた。さっきまでとは様子が違う。
「なに?」
「賢太郎が居るから、僕と付き合えないんだろ? なんでだよ。あんな奴のどこが良いんだよ!」
そして、突然爆発した。喚き散らす事が正義だとでも言うように、支離滅裂な言葉を撒き散らす。血走っているようにも見える瞳は虚空を睨んで、何かを殴りつけるかのように拳を振り回す。
「あいつは僕をいじめた。西山さんもいじめた。なのになんであんな奴と一緒に居るんだよ。僕を選べよ。僕はエリートだ。あんなクズとは違う。僕は東大に行く。絶対に僕を選ぶべきだ」
憎しみ、嫉妬、自意識、怒り。怒り。怒り。
叫びは感情のみで紡ぎだされる。
「あなたは勘違いしてる。あの子にだってわたしは興味ない」
そんな言葉を受け止める事はわたしにはできない。
「言いたいことがあるなら、後は当事者同士で話して」
矛先を失い、言葉を無くす彼を残して、わたしはその場を立ち去った。
身体をずらして、パラソルの陰から少年を見上げる。昇。そう呼ばれていたはずのいじめられっ子がそこに立っていた。
「たま子先生に聞いたんだ。そしたら、屋上の方に行ったのを見たって言うから」
「そう」
担任に見られていた? そうか。まぁ、別にそれはいい。
「ちょっとついて来て」
酷く名残惜しさを感じながら身体を起こす。少年は躊躇いながらも、扉の方へと向かうわたしについてくる。
そのまま屋上を後にして鍵を閉めた。
「あの、西山さん、その……」
状況を読めていない彼は、どもりながら何かを言っている。
「ねぇ」
顔がこちらを向く。大きな丸眼鏡に自信なさそうな表情。こちらを見つめた双眸にわたしはチカラを作用させた。
わたしが居たのはこの屋上前の踊り場。開かずの扉は開いてなどいない。
巴とわたしの秘密基地の邪魔はさせない。
額に手を当て、適合を待つ。ゆっくりとした時間の中、少年の瞳の焦点が合った。
「……あ、西山さん。えっと、僕」
二度目の出会いが始まった。
俯く。オドオドする。目を合わせない。
ぐちぐちと進まない言葉達がひたすらに繰り返され、時間だけが経つ。
「用事が無いなら帰るよ」
問題は無さそうだ。なら、付き合う必要はない。
背を向ける。彼は慌てながらもごもごと何かを言っている。歩みを進める。少しずつ遠ざかっていく声。段々と聞こえなくなっていく。
「西山さん!」
突然、その中に一つの言葉が混ざった。
「西山さん……僕と付き合ってください」
真剣に紡ぎ出された台詞。多くの覚悟を含んでいる。
「やだ」
だけどわたしは受け流す。
「なんで……」
「あなたに興味が無いから」
足も止めず、真実を告げる。後ろで崩れ落ちる音がする。
わたしを好きになるなんて物好きだ。
巴も彼も、わたしの何が良いのだろう?
天井を見上げ、自分の長所を考えてみる。
「賢太郎が居るからか?」
そこに昏い声が降りかかった。ゆっくりと歩みを止めて振り返る。彼は地面にしゃがみ込みながら、力むように全身を震わせていた。さっきまでとは様子が違う。
「なに?」
「賢太郎が居るから、僕と付き合えないんだろ? なんでだよ。あんな奴のどこが良いんだよ!」
そして、突然爆発した。喚き散らす事が正義だとでも言うように、支離滅裂な言葉を撒き散らす。血走っているようにも見える瞳は虚空を睨んで、何かを殴りつけるかのように拳を振り回す。
「あいつは僕をいじめた。西山さんもいじめた。なのになんであんな奴と一緒に居るんだよ。僕を選べよ。僕はエリートだ。あんなクズとは違う。僕は東大に行く。絶対に僕を選ぶべきだ」
憎しみ、嫉妬、自意識、怒り。怒り。怒り。
叫びは感情のみで紡ぎだされる。
「あなたは勘違いしてる。あの子にだってわたしは興味ない」
そんな言葉を受け止める事はわたしにはできない。
「言いたいことがあるなら、後は当事者同士で話して」
矛先を失い、言葉を無くす彼を残して、わたしはその場を立ち去った。
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