パンドラ

須桜蛍夜

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盈月

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「で、いつまで着いてくる気?」

薄暗い路地で振り返る小さな人影。

ーーほんと、嫌な奴。

分かってはいるのだろうという気はしていた。でも、ずっと尾行していたのに、気づく素振りも見せないなんて本当に沙羅達を馬鹿にしている。

ーー後悔させてやるんだから。

「このタイミングを待ってたの。あんたと巴ちゃんが離れる絶好の機会をね」

建物の影から出ていく。対峙するのは無表情。これからそれは苦痛に歪む。

「今回は大所帯なんだ」

「そ、あんたを泣かすために来てもらったの」

今回は沙羅とミカとユウコの他にお金で雇った男が五人。こいつらは金の為ならなんでもやる。使い勝手の良いゴロツキ達だ。

「こんだけ長く待たされたんだから、その分楽しませてくれんだろ?」

「ゆーさん。折角だからこないだのゲームの続きとかやりましょうよ。あの、獲物が発狂して逃げちゃったやつ。俺、不完全燃焼なんすよ」

ケタケタとした下品な笑い。最高に気持ち悪いけど、そのくらいが丁度いい。

「なんでもいいけど早くして。わたし、うなぴょんショップに行かなきゃいけないから。あんまり構ってる暇無いの」

これだけの人数にも動じない少女に憎らしさが募っていく。

「いいよ。そこまで言うなら始めてあげる。そっちの方があんたを長くいたぶれるしね」

言って、沙羅は鞄から出したベルトをその場で振るった。ピシッとした良い音に西山瑠璃の顔は少し強張る。

「大好きでしょこの音。優しい沙羅が好きなだけ聴かせてあげる」

声を覆い隠すように空気を裂く音は鳴り始める。総勢八人で奏でるハーモニー。絶え間なく鳴る音。西山瑠璃は相変わらずに涼しい顔だが、その身体は小刻みに震え始めた。

ーーふふ。

楽しくなって、沙羅はどんどんと振るペースを上げていく。震えは呼応するように大きくなって、彼女の顔に微かに怯えを滲ませ始める。何かに耐えるように奥歯を噛み締めるその顔をもっと恐怖に染め上げたい。そんな欲望が鎌首をもたげる。

だからーー奥の手を使うことにした。

「瑠璃、恐いならもっと恐がらなきゃ。僕に隠し事なんてしていいと思ってるの?」

「えっ……」

西山瑠璃の顔が一瞬で驚きと怯えに染まる。見たことのない表情が彼女を支配した。







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