パンドラ

須桜蛍夜

文字の大きさ
上 下
93 / 158
盈月

84

しおりを挟む

*****

『それではPTA会議を開始させていただきます』

議長の声が響き、役員達が体勢を立て直す気配がする。いつもと同じように滞りなく始まる会議。しかし、その日常を壊すようにーー

『その前に一ついいかな?』

男が立ち上がった。

『会長……どうぞ』

萎縮する空気を彼は悠々と支配する。

『時間を設けていただきありがとうございます。しかし、先生方にどうしても聞いておかなければならない事がありましたので』

優雅な男声。芝居がかった口調は楽しさを孕みながら言葉を紡いだ。

『西山さんだったかな。あの万引きで騒ぎになっている子。あの子の扱いはどうなっているのですかね? 退学とかにしたりはしないのでしょうか。私としましては、娘と同じクラスに犯罪者なんて居て欲しくはないんですが』

空気が凍る音がする。多分、同調の視線が教師達を容赦なく刺し、彼らの思考を硬直させている。そこはきっと一人の男の独壇場だ。


「ふぅ」

機械から流れる静けさに逆らうように息を吐いた。つくづくあの子は敵しか作っていかないらしい。

「まぁ、仕方ないとは思いますが」

彼女が育ったあの闇は、協調性など養う隙を与えなかった。そもそも団長がただの道具にそんな物を付与するとは考えられない。

『でも流石に……万引き程度で退学は…………』

盗聴器の反論。

ーー万引きだけで退学なんて外聞が悪い。

しかし、本心はだだ漏れしている。そこには彼の意思など存在しない。保身の為のただの言い訳。

「しかしまぁ、頼りのない光明ではありますが、瑠璃さんの助けにはなるかもしれませんね」

他人事のように呟く。私はただの校務員で、今はまだ一介の傍観者。少女が助かろうが退学になろうが行動は起こさないつもりだ。

「まぁ、今のところは……ですけど」

虚空を見つめ、自分でも怪しいと思う笑みを浮かべた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~

呑兵衛和尚
ファンタジー
調理師・宇堂優也。 彼は、交通事故に巻き込まれて異世界へと旅立った。 彼が異世界に向かった理由、それは『運命の女神の干渉外で起きた事故』に巻き込まれたから。 神々でも判らない事故に巻き込まれ、死亡したという事で、優也は『異世界で第二の人生』を送ることが許された。 そして、仕事にまつわるいくつかのチート能力を得た優也は、異世界でも天職である料理に身をやつすことになるのだが。 始めてみる食材、初めて味わう異世界の味。 そこは、優也にとっては、まさに天国ともいえる世界であった。 そして様々な食材や人々と出会い、この異世界でのライフスタイルを謳歌し始めるのであった。

異世界でのんびり暮らしたい!?

日向墨虎
ファンタジー
前世は孫もいるおばちゃんが剣と魔法の異世界に転生した。しかも男の子。侯爵家の三男として成長していく。家族や周りの人たちが大好きでとても大切に思っている。家族も彼を溺愛している。なんにでも興味を持ち、改造したり創造したり、貴族社会の陰謀や事件に巻き込まれたりとやたらと忙しい。学校で仲間ができたり、冒険したりと本人はゆっくり暮らしたいのに・・・無理なのかなぁ?

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

処理中です...