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Day by day
保健室(1)
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真っ白い。それだけが分かった。
――なんだろう、すごく重い。
身体がピクリとも動かなかった。大変な事なのに、頭がぼんやりとしていてどうでもよく感じられた。
「目覚めたらしいね」
――目覚めた?
サクは言葉を反芻する。
ピントが合ってくる。白が天井だったと分かった。そして、そこに金髪の眼鏡の男が入り込んでいた。
“Drルート”
呼んだつもりだったが、口からは空気しか漏れなかった。
「飲み物をあげようか。喉が渇いているだろう」
口の中にストローを差し込まれる。サクはおとなしくそこから水をすすった。
喉を冷たさが伝って行き、全身にそれが染みこんでいく。
貪るように水を飲む。飲めば飲む程意識がはっきりとして、身体が軽くなる気がした。
「落ち着いたかな。じゃあ状況を説明しようか。君は全身に大火傷を負っていて動く事もままならない。このままだと壊死して身体は使い物にならなくなるだろう」
「そぅ」
サクはそれを聞き流す。
彼の生徒間での呼び名は“変態”。腕自体は破格な程に優秀なのに、行動が異常者のそれなのである。今更この程度で取り乱したりはしない。
「あれ、驚かないね。僕としてはもっと泣き叫んで欲しいんだけどな……。まぁいいや、今はそんな趣味よりも君への興味の方が強いからね」
「私への興味?」
気持ち悪い程に笑みを浮かべた変態医者は、勿体つけるようにサクの頭に手を置くと、そこから身体をなぞるように胸の辺りまでそれを滑らせた。
「君の、この異常な程の魔力量」
「!?」
咄嗟に身体を起こそうとするが、それはぴくりとも動かない。それをいい事に、Drはゆっくりと彼女の身体を撫で回す。
「僕は特異な能力を持っていてね、こうしているとその人の魔力を感じられるんだ。でも初めてだよ、こんな魔力は」
楽しそうな彼とは裏腹に、サクからは表情が消えていく。瞳が色を無くしていき、普段の彼女を知る人が見たら、別人だと思う程、何も映さなくなる。
「最初に不思議に思ったのは、傷が少なすぎた事。僕も試合を見てたけど、普通なら最初に撃ち落とされた時に君は瀕死だったはずなんだよ。その手ごたえがあったから対戦相手の彼女も隙を見せたのだろうしね。そんな状態であんな大技を打つ事なんて、本来ならあり得ない」
「なんとか逃げのびたの。ラキの攻撃は狙いが散漫だったから避けられない事は無かった」
「僕は君の傷を診た医者だよ。言い逃れできると思う?」
「…………」
「でもまぁ、そういう事にしておこうか。他のみんなはそう思ってるだろうしね。最後の炎上で君が生きていた事も深く追求しないでいてあげる」
低くなっていく少女の声。それに気づいているのかいないのか、彼は饒舌に語り続ける。
「だからね――」
「なんのつもりなの。私の魔力が多いからなに? 私をどうしたいの?」
それに、サクのダムが崩壊した。荒い口調は冷静でいられない事をはっきりと示している。
「そんな焦ってどうしたんだい? ……あぁなんだ、そっか、気になっているのか」
Drは芝居かかった仕草でそう言うと、今までで一番いい笑顔になる。そして、宝箱を開くようにその言葉を口にした。
「君が“聖なる民”である事を知っているかどうか」
サクは反射的に魔力に手をかけた。おぞましい殺気の中、男を抹殺する呪文を口にする。
――なんだろう、すごく重い。
身体がピクリとも動かなかった。大変な事なのに、頭がぼんやりとしていてどうでもよく感じられた。
「目覚めたらしいね」
――目覚めた?
サクは言葉を反芻する。
ピントが合ってくる。白が天井だったと分かった。そして、そこに金髪の眼鏡の男が入り込んでいた。
“Drルート”
呼んだつもりだったが、口からは空気しか漏れなかった。
「飲み物をあげようか。喉が渇いているだろう」
口の中にストローを差し込まれる。サクはおとなしくそこから水をすすった。
喉を冷たさが伝って行き、全身にそれが染みこんでいく。
貪るように水を飲む。飲めば飲む程意識がはっきりとして、身体が軽くなる気がした。
「落ち着いたかな。じゃあ状況を説明しようか。君は全身に大火傷を負っていて動く事もままならない。このままだと壊死して身体は使い物にならなくなるだろう」
「そぅ」
サクはそれを聞き流す。
彼の生徒間での呼び名は“変態”。腕自体は破格な程に優秀なのに、行動が異常者のそれなのである。今更この程度で取り乱したりはしない。
「あれ、驚かないね。僕としてはもっと泣き叫んで欲しいんだけどな……。まぁいいや、今はそんな趣味よりも君への興味の方が強いからね」
「私への興味?」
気持ち悪い程に笑みを浮かべた変態医者は、勿体つけるようにサクの頭に手を置くと、そこから身体をなぞるように胸の辺りまでそれを滑らせた。
「君の、この異常な程の魔力量」
「!?」
咄嗟に身体を起こそうとするが、それはぴくりとも動かない。それをいい事に、Drはゆっくりと彼女の身体を撫で回す。
「僕は特異な能力を持っていてね、こうしているとその人の魔力を感じられるんだ。でも初めてだよ、こんな魔力は」
楽しそうな彼とは裏腹に、サクからは表情が消えていく。瞳が色を無くしていき、普段の彼女を知る人が見たら、別人だと思う程、何も映さなくなる。
「最初に不思議に思ったのは、傷が少なすぎた事。僕も試合を見てたけど、普通なら最初に撃ち落とされた時に君は瀕死だったはずなんだよ。その手ごたえがあったから対戦相手の彼女も隙を見せたのだろうしね。そんな状態であんな大技を打つ事なんて、本来ならあり得ない」
「なんとか逃げのびたの。ラキの攻撃は狙いが散漫だったから避けられない事は無かった」
「僕は君の傷を診た医者だよ。言い逃れできると思う?」
「…………」
「でもまぁ、そういう事にしておこうか。他のみんなはそう思ってるだろうしね。最後の炎上で君が生きていた事も深く追求しないでいてあげる」
低くなっていく少女の声。それに気づいているのかいないのか、彼は饒舌に語り続ける。
「だからね――」
「なんのつもりなの。私の魔力が多いからなに? 私をどうしたいの?」
それに、サクのダムが崩壊した。荒い口調は冷静でいられない事をはっきりと示している。
「そんな焦ってどうしたんだい? ……あぁなんだ、そっか、気になっているのか」
Drは芝居かかった仕草でそう言うと、今までで一番いい笑顔になる。そして、宝箱を開くようにその言葉を口にした。
「君が“聖なる民”である事を知っているかどうか」
サクは反射的に魔力に手をかけた。おぞましい殺気の中、男を抹殺する呪文を口にする。
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