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Day by day
居残り練I(5)
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「ごめんね、いきなり黙り込んじゃって」
「別にいいよ。そういう時もあるだろ」
ずいぶん経って、サクは戻ってきた。笑顔も普通で、元気を取り戻したようだ。
「いや、なんか悪いからさ。お詫びにとっておきを教えるよ」
彼女は唐突に立ち上がり、「剣貸して」とタルクからそれを受け取る。
そして、「ちょっと離れててね、危ないかもしれないし」と前置きをして詠唱を始めた。
「木々はそよぎ 人は笑う 愛が繋ぎし円環 和平を目指した聖なる形 邪悪は滅びて現れぬ 世界は光に満ちている」
少しずつ流れていく魔力。その度に剣は光を放ち、輝きを増していく。
そして、彼女が呪文を唱え終わると、八十㎝程の長さだったはずの刀身は倍近くに伸びていた。
「は? それ……どうなっているんだよ」
理解が追いつかつない。剣が伸びた事も、身長と同じ程の刀身を少女が軽々と持っている事も、何か悪い夢のようだ。
「予想以上の反応だね」
サクはくすくすと笑って剣を軽く振る。すると刀身は砕け散り、長さは元に戻った。
「これ、タルクの魔術と相性が良いと思ってさ」
呆けた彼を面白がるようにサクは剣を返す。触ってみても、貸す前と何一つ変わらない普通の剣だ。
「おま……これ、どうやって」
心臓がバクバクと言っている。まだ興奮が冷めない。あの夢みたいな事を自分がやる。タルクはそれが信じられない。
「理論としては強化とそう変わらないかな。強化で物体の強度を高める時は、物体を作る粒子の間に魔力を通して密度を上げるけど、この“伸長”は粒子を移動させて、大きいけどスカスカの状態にした所に魔力を通して強化する。粒子の総量が変わらないから重さは変化しないし、元の鋭さくらいまで強化できれば、遠近を自由に戦い分けられるようになる。タルクが習得するにはもってこいだと思うよ」
まくし立てるように説明される内、夢が現実味を帯びてくる。理論自体は難しくない。
「あぁ、習得できればこれ以上ない秘密兵器になると思う。でもなんでこれを俺に教えるんだ? 誰にも言わずにお前が使った方が有利だろ」
もっともな問いに、サクは笑って答える。
「まぁ、そうなんだけどね……使えれば。今、私はこれを使う為にフル詠唱近い呪文を唱えた。そんなの、本番じゃ完成する前にやられるし、どっかの誰かさんみたいに常に武器を持ってる訳じゃない。なら、最近出力も上がってきたタルクの方が上手く使えるかなって」
「なるほど、出力の問題か」
呪文は人それぞれで違うが、大抵は七行程の長さで構成されている。簡単なものならば短い詠唱で事足りて、一文だけでも魔術を行使できるが、たくさん魔力が必要となると、その量に応じた呪文が必要となる。
魔術の発現に六行分も必要としてしまうサクでは、この術を上手くは活用できないのだ。
「うん、だから託すの。ペアとして強くなる為にね」
“ペアとして“
「あぁ、託された。絶対習得してやる。そして勝ち上がろうぜ、相棒」
「うん」
タルクが差し出した拳にサクが自分の拳をぶつける。
僅かな衝撃は繋がっている証。来たる魔闘祭に向けて、やる気は更に燃え上がった。
「別にいいよ。そういう時もあるだろ」
ずいぶん経って、サクは戻ってきた。笑顔も普通で、元気を取り戻したようだ。
「いや、なんか悪いからさ。お詫びにとっておきを教えるよ」
彼女は唐突に立ち上がり、「剣貸して」とタルクからそれを受け取る。
そして、「ちょっと離れててね、危ないかもしれないし」と前置きをして詠唱を始めた。
「木々はそよぎ 人は笑う 愛が繋ぎし円環 和平を目指した聖なる形 邪悪は滅びて現れぬ 世界は光に満ちている」
少しずつ流れていく魔力。その度に剣は光を放ち、輝きを増していく。
そして、彼女が呪文を唱え終わると、八十㎝程の長さだったはずの刀身は倍近くに伸びていた。
「は? それ……どうなっているんだよ」
理解が追いつかつない。剣が伸びた事も、身長と同じ程の刀身を少女が軽々と持っている事も、何か悪い夢のようだ。
「予想以上の反応だね」
サクはくすくすと笑って剣を軽く振る。すると刀身は砕け散り、長さは元に戻った。
「これ、タルクの魔術と相性が良いと思ってさ」
呆けた彼を面白がるようにサクは剣を返す。触ってみても、貸す前と何一つ変わらない普通の剣だ。
「おま……これ、どうやって」
心臓がバクバクと言っている。まだ興奮が冷めない。あの夢みたいな事を自分がやる。タルクはそれが信じられない。
「理論としては強化とそう変わらないかな。強化で物体の強度を高める時は、物体を作る粒子の間に魔力を通して密度を上げるけど、この“伸長”は粒子を移動させて、大きいけどスカスカの状態にした所に魔力を通して強化する。粒子の総量が変わらないから重さは変化しないし、元の鋭さくらいまで強化できれば、遠近を自由に戦い分けられるようになる。タルクが習得するにはもってこいだと思うよ」
まくし立てるように説明される内、夢が現実味を帯びてくる。理論自体は難しくない。
「あぁ、習得できればこれ以上ない秘密兵器になると思う。でもなんでこれを俺に教えるんだ? 誰にも言わずにお前が使った方が有利だろ」
もっともな問いに、サクは笑って答える。
「まぁ、そうなんだけどね……使えれば。今、私はこれを使う為にフル詠唱近い呪文を唱えた。そんなの、本番じゃ完成する前にやられるし、どっかの誰かさんみたいに常に武器を持ってる訳じゃない。なら、最近出力も上がってきたタルクの方が上手く使えるかなって」
「なるほど、出力の問題か」
呪文は人それぞれで違うが、大抵は七行程の長さで構成されている。簡単なものならば短い詠唱で事足りて、一文だけでも魔術を行使できるが、たくさん魔力が必要となると、その量に応じた呪文が必要となる。
魔術の発現に六行分も必要としてしまうサクでは、この術を上手くは活用できないのだ。
「うん、だから託すの。ペアとして強くなる為にね」
“ペアとして“
「あぁ、託された。絶対習得してやる。そして勝ち上がろうぜ、相棒」
「うん」
タルクが差し出した拳にサクが自分の拳をぶつける。
僅かな衝撃は繋がっている証。来たる魔闘祭に向けて、やる気は更に燃え上がった。
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