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Day by day
居残り練Ⅰ(2)
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「タルク、右」
「おう」
右に跳んで目の前の敵に剣を振り下ろす。激しい金属音が火花と共に飛んで、感触が重くなる。
タルクの剣は敵の魔術に弾かれた。
「くそっ」
弾かれた勢いを利用してもう一度斬りかかる。二度三度と打ち合いは続く。しかし、彼の攻撃はあと一歩のところで届かない。
そして遂に、剣は大きく弾かれてタルクは体勢を激しく崩した。敵は容赦なく襲い掛かってくる。彼は対抗手段を持っていない。絶体絶命だった。
「世界は光に満ちている」
しかし、敵はタルクに届かず崩れ落ちる。
「え?」
咄嗟の事に理解ができない。
だが、体勢を立て直し、倒れた敵の姿を見たとき、タルクは全てを理解した。頸動脈を切り裂いた浅い傷跡。それは相棒が得意とする風魔術の痕跡だ。
「サク!」
もう一つの敵を相手する少女を呼び、駆け出す。二対一なら勝てる相手。心は踊りはじめていた。
「「乾杯!」」
瓶の音が鳴り響きら少年少女はジュースを飲み干す。
訓練場の仮想戦闘レベル三。
魔術で作られた敵と本番さながらに戦う訓練の、標準的な難易度に二人はようやく勝利できた。
「いや、でも最後のあれはかなりヒヤッとしたぜ」
「いいじゃん、勝ったんだし」
タルクの敵を倒した魔術。その危険さは頬の切り傷が示している。だが少女は全く悪びれない。
先生の言った通りに、彼女の戦闘スタイルはかなりトリッキーなものであった。
予想しない方向から攻撃が飛んでくるなど当たり前。空間を活かし、地形を活かし、意表を突く事でのみ自分を優位にする。そんな戦闘術。それに彼は着いていけず、たびたびこのような事が起こるのだ。
「今回は許すけど、直撃とかしたらシャレにならねぇからやめろよ」
「できるだけね」
本気で取り合っていない笑み。このままだといつか本当に大怪我をするかもしれない。
「ほんとにやめろよ。当てたら慰謝料貰うからな」
「んー、A定で良い?」
「良い訳ないだろ」
命の危険に駆られて口を動かした。
それでも勝利の興奮が引き起こす酩酊状態は、そんな恐怖すらも楽しいものに変えていく。
「じゃあ、今度当てたら俺の言う事を一つ聞く。これでどうだ?」
だから、いつもは言わないような提案だって口をついた。
「やだよ。そんなの許したら、タルクにあんな事やこんな事されちゃうもん」
「しねぇよ。誰がサクなんかにするか」
「ひどいー。サクなんかってなにさ」
少女は愉快そうに笑い終えると、一瞬考えるようなそぶりを見せて口を開いた。
「じゃ、同意のもとで。ぶつけた攻撃とタルクの命令が釣り合うと判断したら言う事を聞く」
「本当だな? 約束だからな」
そしてまた浮かべられた屈託のない笑み。それに倣ってタルクも笑顔を返した。
「おう」
右に跳んで目の前の敵に剣を振り下ろす。激しい金属音が火花と共に飛んで、感触が重くなる。
タルクの剣は敵の魔術に弾かれた。
「くそっ」
弾かれた勢いを利用してもう一度斬りかかる。二度三度と打ち合いは続く。しかし、彼の攻撃はあと一歩のところで届かない。
そして遂に、剣は大きく弾かれてタルクは体勢を激しく崩した。敵は容赦なく襲い掛かってくる。彼は対抗手段を持っていない。絶体絶命だった。
「世界は光に満ちている」
しかし、敵はタルクに届かず崩れ落ちる。
「え?」
咄嗟の事に理解ができない。
だが、体勢を立て直し、倒れた敵の姿を見たとき、タルクは全てを理解した。頸動脈を切り裂いた浅い傷跡。それは相棒が得意とする風魔術の痕跡だ。
「サク!」
もう一つの敵を相手する少女を呼び、駆け出す。二対一なら勝てる相手。心は踊りはじめていた。
「「乾杯!」」
瓶の音が鳴り響きら少年少女はジュースを飲み干す。
訓練場の仮想戦闘レベル三。
魔術で作られた敵と本番さながらに戦う訓練の、標準的な難易度に二人はようやく勝利できた。
「いや、でも最後のあれはかなりヒヤッとしたぜ」
「いいじゃん、勝ったんだし」
タルクの敵を倒した魔術。その危険さは頬の切り傷が示している。だが少女は全く悪びれない。
先生の言った通りに、彼女の戦闘スタイルはかなりトリッキーなものであった。
予想しない方向から攻撃が飛んでくるなど当たり前。空間を活かし、地形を活かし、意表を突く事でのみ自分を優位にする。そんな戦闘術。それに彼は着いていけず、たびたびこのような事が起こるのだ。
「今回は許すけど、直撃とかしたらシャレにならねぇからやめろよ」
「できるだけね」
本気で取り合っていない笑み。このままだといつか本当に大怪我をするかもしれない。
「ほんとにやめろよ。当てたら慰謝料貰うからな」
「んー、A定で良い?」
「良い訳ないだろ」
命の危険に駆られて口を動かした。
それでも勝利の興奮が引き起こす酩酊状態は、そんな恐怖すらも楽しいものに変えていく。
「じゃあ、今度当てたら俺の言う事を一つ聞く。これでどうだ?」
だから、いつもは言わないような提案だって口をついた。
「やだよ。そんなの許したら、タルクにあんな事やこんな事されちゃうもん」
「しねぇよ。誰がサクなんかにするか」
「ひどいー。サクなんかってなにさ」
少女は愉快そうに笑い終えると、一瞬考えるようなそぶりを見せて口を開いた。
「じゃ、同意のもとで。ぶつけた攻撃とタルクの命令が釣り合うと判断したら言う事を聞く」
「本当だな? 約束だからな」
そしてまた浮かべられた屈託のない笑み。それに倣ってタルクも笑顔を返した。
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