9 / 32
Day by day
自主練
しおりを挟む
「――全ては最初を照らす為」
強化された剣を振り上げて、左手に持つ鋼鉄に勢いよく叩きつける。強い衝撃があり、剣は甲高い音を立てながら軽く砕け散った。
「また駄目か」
何十回目かの失敗に、タルクは肩を落としてしゃがみ込む。いつもよりも短くした詠唱で鋼鉄を斬れる精度を出せなければ戦闘では使えない。
サクに課題を提示されて居残り練習を始めた。毎日せっせと続けてはいるが、思うような成果は出ていなかった。
「やっぱり、俺には才能がないんだろうな……」
「タルクが居るとは珍しいな」
予想外の声がして、大慌てで振り返る。黒髪ショートの鋭い目をした女性が彼を見ていた。
「マイヤ先生……」
知り合いであった事に肩をなでおろす。だが、同時に呟きが聞かれてしまった事が恥ずかしくなって、彼はさっと顔を伏せた。
彼女はタルク達の担任であり、生徒の間では“鉄の女”の愛称で親しまれている実力派の教師だ。
「サクに出力を上げられれば強くなれるって言われたので、最近始めたんですよ」
ごまかすように早口でまくし立てる。
「出力か……なるほど、一理あるな。ところで助言の主はどこに?」
鋭い眼光は微塵も揺るがず、訓練場内を彷徨う。
「サクは居ませんよ。これは俺の練習なので」
「そうか。だが出力の底上げが必要といったらサクもだろう。一緒にやらなくていいのか?」
「え……、サクって言う程低いですか?」
意外な言葉だった。補習などは一緒にくらうが、戦っていて彼がそれを感じた事は無かった。
「低いな。多分お前よりも低い。戦闘でそれを感じないのは、サクが小手先だけでなんとかするからだ。彼女は戦闘のセンスはある。だから通用してしまう。だが本当の強者に当たった時には小細工が効かずに敗れる。サクが戦闘で一定以上進めないのはそれが原因だろう」
言われてみればその通りかもしれなかった。彼女の戦い方は不意打ちめいたものが多く、大技を使っている印象はあまり無い。
「それに現状では、お前らは息が合っていない。あいつのトリッキーな戦い方にお前が着いていけていないんだ。息を合わせるという点でも二人でする必要はあるだろう」
先生は一時もタルクから視線を外す事なく語り終えた。
「ありがとうございます。参考にしてみます」
頭を下げる。タルクの身体には修行のものだけではない汗が伝っていた。オブラートに包む事無く言葉を告げる彼女との会話はいつも緊張する。
満足そうに頷き、踵を返すマイヤ先生。しかしその足はすぐに止まった。
「タルク、お前は自分で思っている以上に魔術が上手い。今揮わないのは空回りしてしまっているからだ。まずは出力からゆっくり鍛えてみろ。お前ももっと上に行けるぞ」
言う事だけを言って先生は去っていってしまった。
――不意打ちはずるいだろ。
顔が火照っている。嘘を言う事の無い堅物教師の賛辞は、誰のものよりも嬉しい。
「よし、やるぞ」
力強い手で鋼鉄を握り直す。続けざまに言われた二つの誉め言葉。少年はかつてない程やる気に満ち溢れていた。
強化された剣を振り上げて、左手に持つ鋼鉄に勢いよく叩きつける。強い衝撃があり、剣は甲高い音を立てながら軽く砕け散った。
「また駄目か」
何十回目かの失敗に、タルクは肩を落としてしゃがみ込む。いつもよりも短くした詠唱で鋼鉄を斬れる精度を出せなければ戦闘では使えない。
サクに課題を提示されて居残り練習を始めた。毎日せっせと続けてはいるが、思うような成果は出ていなかった。
「やっぱり、俺には才能がないんだろうな……」
「タルクが居るとは珍しいな」
予想外の声がして、大慌てで振り返る。黒髪ショートの鋭い目をした女性が彼を見ていた。
「マイヤ先生……」
知り合いであった事に肩をなでおろす。だが、同時に呟きが聞かれてしまった事が恥ずかしくなって、彼はさっと顔を伏せた。
彼女はタルク達の担任であり、生徒の間では“鉄の女”の愛称で親しまれている実力派の教師だ。
「サクに出力を上げられれば強くなれるって言われたので、最近始めたんですよ」
ごまかすように早口でまくし立てる。
「出力か……なるほど、一理あるな。ところで助言の主はどこに?」
鋭い眼光は微塵も揺るがず、訓練場内を彷徨う。
「サクは居ませんよ。これは俺の練習なので」
「そうか。だが出力の底上げが必要といったらサクもだろう。一緒にやらなくていいのか?」
「え……、サクって言う程低いですか?」
意外な言葉だった。補習などは一緒にくらうが、戦っていて彼がそれを感じた事は無かった。
「低いな。多分お前よりも低い。戦闘でそれを感じないのは、サクが小手先だけでなんとかするからだ。彼女は戦闘のセンスはある。だから通用してしまう。だが本当の強者に当たった時には小細工が効かずに敗れる。サクが戦闘で一定以上進めないのはそれが原因だろう」
言われてみればその通りかもしれなかった。彼女の戦い方は不意打ちめいたものが多く、大技を使っている印象はあまり無い。
「それに現状では、お前らは息が合っていない。あいつのトリッキーな戦い方にお前が着いていけていないんだ。息を合わせるという点でも二人でする必要はあるだろう」
先生は一時もタルクから視線を外す事なく語り終えた。
「ありがとうございます。参考にしてみます」
頭を下げる。タルクの身体には修行のものだけではない汗が伝っていた。オブラートに包む事無く言葉を告げる彼女との会話はいつも緊張する。
満足そうに頷き、踵を返すマイヤ先生。しかしその足はすぐに止まった。
「タルク、お前は自分で思っている以上に魔術が上手い。今揮わないのは空回りしてしまっているからだ。まずは出力からゆっくり鍛えてみろ。お前ももっと上に行けるぞ」
言う事だけを言って先生は去っていってしまった。
――不意打ちはずるいだろ。
顔が火照っている。嘘を言う事の無い堅物教師の賛辞は、誰のものよりも嬉しい。
「よし、やるぞ」
力強い手で鋼鉄を握り直す。続けざまに言われた二つの誉め言葉。少年はかつてない程やる気に満ち溢れていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
GM8 Garden Manage 8 Narrative
RHone
ファンタジー
少し作業の隙間が出来たので手直し更新再開
この世の悪が集う庭には大魔王から正義厨まで何でも御座れ。困った厄介者達の説話集。
比較的短編の説話集ですが、内容がかなり際どい事があるのでご了承ください。
八精霊大陸シリーズの8期後半想定、トビラ後の話。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました
結城芙由奈
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】
20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ――
※他サイトでも投稿中
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる