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Day by day
森の中で(3)
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今、タルクは背後を取っていて、敵は反動で隙ができている。
木の棒か何かを強化し、突き立てれば、絶命させられる可能性はある。それが武器を失った彼に残された唯一の勝機だ。
しかしタルクは、木の枝を拾う事も呪文を唱える事もしようとはしなかった。むしろ諦めたように俯いている。
『サク、降参だ。訓練では楽するべきだと思う』
そして救いを求める声を上げた。
途端、風の一閃が頭上の太い枝を切り離す。
慌てて飛び退いた瞬間、襟首を掴まれて引きずり倒され、お姫様抱っこのような形で抱えられる。彼女はそのまま勢いよく走り出した。
『戦わねぇのかよ』
『逃げ切れるならその方がいいじゃん』
タルクは釈然としないまま、サクの背中越しに後ろを見る。
「あれ?」
当然、すぐそばまで迫ってきていると思っていたウェアウルウがそこには居ない。
『追ってきてない? ならそろそろいいか』
サクは段々と減速していき、遂にはその場に立ち止まる。不安に駆られたタルクが声をかけるが、彼女は動じずゆっくり彼を地面に降ろした。
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。もう追ってこないから』
『どういう事だよ』
『さっき私が切り落としたのはヤクの木の開花一週間以内の個体の枝。ウェアウルフはそれを苦手としてるから不用意には近づきたがらない。諦めてくれるかは正直賭けだったけど、追うにしても枝を避ける手間はかかるしそのうちに逃げ切っちゃえばいいかなって』
理解できた? と首をかしげ、彼女は再び歩き出す。
彼は答えない。ウェアウルフに苦手な木がなどという話は聞いた事が無かった。なぜ彼女はそんな事を知っているのか。
――サク、お前は……。
前を歩く相棒の背中がいつもよりも遠かった。少年は彼女について何も知らない。
木の棒か何かを強化し、突き立てれば、絶命させられる可能性はある。それが武器を失った彼に残された唯一の勝機だ。
しかしタルクは、木の枝を拾う事も呪文を唱える事もしようとはしなかった。むしろ諦めたように俯いている。
『サク、降参だ。訓練では楽するべきだと思う』
そして救いを求める声を上げた。
途端、風の一閃が頭上の太い枝を切り離す。
慌てて飛び退いた瞬間、襟首を掴まれて引きずり倒され、お姫様抱っこのような形で抱えられる。彼女はそのまま勢いよく走り出した。
『戦わねぇのかよ』
『逃げ切れるならその方がいいじゃん』
タルクは釈然としないまま、サクの背中越しに後ろを見る。
「あれ?」
当然、すぐそばまで迫ってきていると思っていたウェアウルウがそこには居ない。
『追ってきてない? ならそろそろいいか』
サクは段々と減速していき、遂にはその場に立ち止まる。不安に駆られたタルクが声をかけるが、彼女は動じずゆっくり彼を地面に降ろした。
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。もう追ってこないから』
『どういう事だよ』
『さっき私が切り落としたのはヤクの木の開花一週間以内の個体の枝。ウェアウルフはそれを苦手としてるから不用意には近づきたがらない。諦めてくれるかは正直賭けだったけど、追うにしても枝を避ける手間はかかるしそのうちに逃げ切っちゃえばいいかなって』
理解できた? と首をかしげ、彼女は再び歩き出す。
彼は答えない。ウェアウルフに苦手な木がなどという話は聞いた事が無かった。なぜ彼女はそんな事を知っているのか。
――サク、お前は……。
前を歩く相棒の背中がいつもよりも遠かった。少年は彼女について何も知らない。
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