聖なる悪魔~sin of faith~

須桜蛍夜

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Day by day

テスト

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「炎魔術のテストを行います。不合格者は放課後に補習です。では、はじめ」

 歳の割には高めな教師の声が広がり、生徒達は目の前のろうそくに集中し始めた。

このろうそくは、適度な魔力を注がないと火は点かない。三十分で点けることが出来たなら、優秀な部類に入るような難しい課題だ。

「できたっと」

しかし、開始わずか三分で一人の少女が立ち上がった。彼女の席にはゆらゆらと揺れる炎がある。

「ラキさん、合格です。休み時間をとって結構ですよ」

 口笛を吹き、炎のように赤髪をなびかせて、彼女は教室を後にする。四十人の人間がろうそくを凝視する異様な空間に、ラキの様子は似合わない。

しかし、誰もそちらを見ようともしなかった。不動の学年一位様が驚異のスピードで課題を終わらせる事など、今更珍しくもない。



「タルク、また補習か。好きだねぇ」

テスト時間が終わり、教室から出てきた少年にラキは声をかける。

「悪かったな。別に、好きじゃねぇよ」

 タルクは不貞腐れた様子で彼女から目を逸らす。だがラキは、それに気づいているのかいないのか、そのまま会話を続けた。

「なんでこうも毎回できないかね。今回なんて、魔力を丁度よく注ぎ込むだけだろ?」

「その丁度よくが分かんないんだよ。天才様とは違うの」

「そんなもんかね」

更に表情を曇らせていくタルク。だが、ラキに悪気は無かった。戦闘を得意とする名門の出で、その中でも逸材とされる彼女は、できないという感覚が理解できないのか、時々、平気でこういう事を言ってしまうのだ。

「じゃあ、サクも分かんないのかい? 戦闘の時とか細かく制御してそうに見えるけど」 

 疑問を解消するように、ラキは教室から出てきた少女に問いを投げかけた。サクは、突然向けられたそれに驚く様子もなく、ケラケラと笑って答える。 

「んー、戦闘じゃ知らないけど、こういうのは上手くできないかな。私、落ちこぼれだしね」 

 こっちはタルクとは対照的にあっけらかんとしている。 

「ふーん、そういうもんか」

「そういうもんだよ」

軽く考え込むラキに、サクは無邪気に笑いかける。そんな日常の一コマをタルクは黙って見つめていた。




 
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