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運命の始まり②

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――ここはどこ?

 夢の中で、モースリンは断頭台の上にいた。手足は縛られていて動かせず、さるぐつわをかまされて声は出せず、ただなすすべもなく跪いてギロチンの刃が鈍く光るのを見上げている夢だった。
 通常、こうした残虐な刑は見せしめとして大衆の前で行われるものである。ギロチン台の足元は広場になっていたが、そこには人、人、人――この国の民の全員が押しかけて来たのではないかというほど、人であふれかえっていた。

――そう、私はギロチンにかけられて死ぬのね。

 これが予知夢だという自覚はある。だから、モースリンはこの上なく冷静であった。

――この運命を回避するのは難しくないわね、罪を犯さなければいいだけだもの。

 きっと今から執行人が上がってきて、罪状を読み上げるに違いない。ならばその罪状をよく覚えとどめておいて、これから一年を注意深く過ごせばいいだけのこと。
 しかしその期待は、台上に上がってきた人物の顔を見たとたんに打ち砕かれた。

――は、ハリエット様……どうして!

 モースリンの目前に立ったのは見知らぬ執行人ではなく、つい先ほど王城で談笑していた相手である。しかもその目は今まで見たこともないほどに冷ややであった。
「モースリン、最後の慈悲だ、君の罪状はこの僕が直々に読みあげてやろう」
 そう言うとハリエット王子は、台下に手を差し伸べて一人の少女を台上に引き上げた。
「彼女のことは知っているな?」
 知っているわけがない。まったく見たこともない少女だ。
 彼女の髪はつむじから毛先に至るまでまったく混じりっ気のない白色をしており、これはこの杭ではほとんど見かけない光の魔力の保持者であることを示している。こんな珍しい髪色、一目見たら忘れるはずがない。
 モースリンが首を横に振ると、ハリエットが呆れきったかのようにため息を吐いた。
「まったく君はこの期に及んで……僕の寵愛を彼女に奪われた君は、嫉妬して彼女にさんざん嫌がらせをした。それのみにとどまらず、あまつさえ彼女の命を奪おうと刺客を差し向けただろう、それが君の罪だ」

――ああ、なるほどね

 これは予知夢なのだから、この少女とはこれから出会うのだろう。そしてハリエット王子は彼女と恋に落ちる……夢のなかだというのに、ツキンと胸の奥が痛んだ。
 王子は片手をあげて執行人に合図をした。屈強な男が二人、モースリンを抱え上げてギロチン台にその首を置いた。

――そう、私はハリエット様に捨てられてしまうのね。

 ギロチンの刃がギラリと大きく閃いて落ちた。
 モースリンの首は――
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