蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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対決、酒呑童子編

98 敗北

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   「また、この神社か」


 以前、鬼八と戦った神社。あの時と同様、禍々しい気で溢れている。

 土帝は急いで参道を走る。

 なずなは、かなり焦った様子だった。蛍も一緒にいるのだから、大丈夫なはずだが……。

 それでも、土帝はなずなが心配で仕方がない。


「おじいちゃんと最近始めた訓練が、役に立つ時が来たか」

 ジーンズから、人型のような紙を取り出す。

「……式神」

 これを扱うのは、至難の業だがそれでも……。








 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「俺が酒呑童子だ……」


 すごい瘴気で、地獄の妖怪でもここまでのものはいない。


「お前が……」

 蛍は、酒呑童子を睨むのが精一杯だ。


「目的はなんだ?」

 蛍は酒呑童子に尋ねた。

 ゆっくり御社殿から降りてくる酒呑童子に構える蛍。しかし、酒呑童子はそれを無視するように通り過ぎる。

「……赤菊」

 酒呑童子は真っ直ぐとなずなの方に行く。蛍は振り向き、それを追いかけて行く。

「……あ、あなたは」
「今度こそ、お前と……」

 酒呑童子の頬がなずなに触れ、唇を奪われる。なずなは、逃げようと後ずさろうとするも動けないままでされるがままだ。

 蛍はそれを見て、蓑火を酒呑童子に放つがそれは振り払われる。

「ぺんぺんに触るなっ!!」

 吠えるように、蛍は叫んだ。

「……お前は邪魔者でしかねぇな」

 酒呑童子は蛍を睨みつける。蛍は構わず、酒呑童子を殴ろうと向かって行った。

「愚か者が……!」

 酒呑童子は、瞬時に蛍の手首を掴み、持ち上げる。そして、一本背負いのように蛍を投げ飛ばした。

 蛍は、抵抗することも出来ず、そのまま神社に生えている木に音を立ててぶつかる。

「蛍くん!!」

 なずなの悲痛な叫びが響く。なずなは檻の柵を掴み、揺らし外に出ようとした。しかし、檻はびくりともしない。


 蛍は木に頭を打ち付け、頭から少量の血を流していた。

 それでも、蛍は立ち上がりふらふらと立ち上がる。

「……さすが、閻魔のガキ。そう簡単にはやられんか。おい、結界を解け」

 酒呑童子は、星熊に命令する。星熊は、結界を解き、なずなは自由の身となる。

「……なあ、お前にとってこの男はなんだ?」

 酒呑童子はなずなの方を見て言った。

「黙れ!酒呑童子っ!」

 蛍が酒呑童子に駆け寄り、胸ぐらをつかもうとする。だが、酒呑童子は蛍の腹を殴り、彼は血を吐いてうずくまった。

「く……っ」
「……てめぇに聞いてねぇよ。早く応えろ」

 酒呑童子に凄まれ、なずなは唇が震える。

「わ、私にとって……蛍くんは……大切な人」
「ふん。そうか……だけど、それは一時的なもんだ。思い出せ、お前は誰のもんか」


 その言葉で、なずなの頭には断片的な映像が流れた。

 それは遥か昔……。確かに記憶にある。しかし、それが流れる度に脳髄がぴりぴりと痛み、口の中は苦い鉄の味がするような気がした。


「…………私は」

 這いずり回る手の感触と全身を刺されるような痛みをなずなは思い出す。

 それでも……。

「蛍くんっ!」

 なずなが蛍の駆け出して、酒呑童子の前に立つ。

「これ以上、蛍くんを傷つけないで!」

「げほっ……ぺ……ぺんぺん……ダメだっ!そいつから……離れろっ!」

 腹を抑え、口端から血を垂らし、むせ込みながら言った。

「情けない男だ。どけ、赤菊。トドメを……」

 酒呑童子が言いかけると、乾いた音が神社に響く。

 頬を抑える酒呑童子をなずなは睨みつけた。

「蛍くんに近づかないで!」

「……あの時と変わんねぇな」

 酒呑童子に睨み返され、なずなは背筋が凍ったがなずなは眼を話すことはなかった。

 酒呑童子の手が、なずなの手を無理矢理掴む。

「離して!」

 なずなは抵抗をするが、酒呑童子の力には叶わない。

「破魔矢っ!!」

 光の矢が酒呑童子の腕が突き刺さる。

「なずなから離れろ!」

土帝の声が響き、酒呑童子は舌打ちをする。

「保明……ではないか」

酒呑童子はぼそりと呟き、なずなの手を放す。なずなはふらつき、膝を着いた。

「興が冷めたぜ……命拾い足したな。閻魔のガキ」


そういうと、酒呑童子は星熊と霧のように消えていく。


「……なんだったんだ?そ、それより、なずな!蛍」

土帝は小走りで2人に寄っていく。


「今のは?」

なずなは土帝に尋ねられたが、なずなは首を振るばかりだ。

「蛍は大丈夫のか?」
「僕の心配はするな!……今のは、酒呑童子だ」

蛍は再びふらふらと立ち上がる。

「蛍くんっ!大丈夫なの?」

なずなも素早く立ち上がり、蛍の心配をした。

「君は一体、何を考えてるんだ?無事だったから良かったものの……相手は妖怪だぞ?」

蛍の口調は強めだった。なずなが言葉に詰まっていると土帝が横から口を出す。


「何を言ってるんだ?!なずなはお前の心配をしてるんだぞ!」

土帝が蛍に怒鳴るように言ったが、蛍は背を向ける。

「だから何?あいつに何かされても僕は助けは出来ない」

そう言って、蛍はとぼとぼと神社から出て行ったなだった。



 

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