蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

文字の大きさ
上 下
86 / 109
対決、酒呑童子編

88 不穏な影

しおりを挟む




 少し帰りが遅くなってしまった。

  だけど、みのりはゆっくりと駅から歩いてきた。今日のダンス部の練習はキツかった。

 だいたい、もう高校生なのに門限が19時なんて早すぎる。

 みのりのうちはパン屋で19時に店を閉めるため、それまでに帰るのだ。

 学校からは一駅。だが、もうすぐ毎朝電車には乗らなくて済む。

 学校の近くの商店街に店を出すのだ。今の店は、フランスにパン職人修行をしていた父の弟がやる事になったのだ。

 父もパン職人の修行を日本でしていた。祖父から譲り受けた店。
 そして、2号店を商店街に作る。もちろん、みのり達もそこに住む。

 兄だけは、大学の寮に住むことになったが。

 学校の近くに住めば、親友のなずなとも少し遅くまで、遊べるし、こんなに急いで家に帰る必要は無い。

「……18時50分か。ちょっと急がないとなあ」

とはいえ、そこまでのんびりも出来ない。あと少しで家。

「……ん?」

何か気配を感じる。どこかつけられているようだが、四方八方みてもそれらしい人はいない。

「気のせいかな?」

少し怖くなってくる。ただでさえ、妖怪だなんだというクラスメイトがいる。 

ストーカー的怖さより、そっちだ。

「田中のせいだよ」

みのりはぼそりと文句を言う。

しばらく道なりに歩くと、スマホの着信音がなり響いた。

「びっくりした!」

みのりは、スマホをマナーモードにしていなかったのを思い出す。

「……授業中鳴らなかったのが奇跡ね。……ヒカル君?」

好きなバンド、シリウスのキーボードだ。甘いルックスで可愛くて、みのりより年上のお姉さんに人気がある。

みのりはどちらかというと、大人っぽい方が好きだが、前に知り合った時、しつこく番号を聞かれて交換したのだ。

しばらく、連絡していなかったのを思い出す。

「今度、遊びに行こう……うーん」

「ヒャッハッハッハッハー」

誰かが不気味かつ大声で笑う声。

「何よっ!もう!」

みのりは思わず後ろを振り返るが何も無い。

「怖っ」

そう言って、みのりは家まで一直線で走り出したのだった。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









「それって、ストーカー?」

ここは学生食堂。みのりは今朝、遅刻をしてしまった為、朝食を食べていなかった。

おまけになずなに話している暇もなく、ランチまでこの話はお預け。

お腹も空いているので、カレーライスもあっという間に平らげていた。

「かなぁ?」
「嫌だ。怖い……ストーカー対策した方がいいわよ」
「そうね。アンタはちゃんと対策してんの?」
「私?狙われた事ないから」

ニコニコと笑い、カレーライスを食べるなずな。

「……土帝、お前盗聴器仕掛けてるだろう?」

蛍は、カレーライスの残りをかき込むとそう言った。

いつの間にか、蛍達のランチに混じって土帝も同じ席についていた。

「……何の話だ?お前こそ、なずなの部屋に盗撮カメラを仕掛けていないだろうな?」

蛍は首を振る。確かにカメラは仕掛けてはいない。ただ、盗撮用の虫は仕掛けている。

(みのりちゃんより、ぺんぺんが対策必要なんじゃ……)

そんなことは口が裂けても言えず、ガラムはコーヒーを飲み込む。

「ねえ、なずな。今日、部活ないでしょ?ダンスの特訓、付き合ってよ」

みのりの声が何故か小さいのが気になったが、なずなは承諾したのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







「はい!ここでターンでキメ!」

学校の花壇の近くで音楽を流して、ダンスをするなずなとみのり。

たった今、ダンスが終わった所である。

「さっすが、なずな!ちょっと教えただけなのにもう覚えたんだ」

みのりはペットボトルの蓋を開け、お茶を飲んだ。

「えへへっ。ダンスは得意だよ」

今日は珍しく、蛍は先に帰っていた。

「でさぁ、お願いがあるの」

急に、みのりがなずなに頭を下げ、あまつさえ手を合わせる。

「な、何?」
「あのね……私、デートするんだけど着いてきて」
「え?私邪魔じゃない?」

普通に考えてそうだが、事情があるらしい。どうやら、相手はシリウスのヒカル。みのりはタイプではなく、出来れば断りたいが……。

「……他のメンバー来るの?」
「そう!もしかしたら、バラさんかも」
「え?バラ?」

なずなはふと、疑問に思った。確か、みのりはシュンスケのファンだったはずだ。

「だって、シュンスケ。アイドルの柚月と付き合ってるでしょ?」

柚月……本名はヒナ。なずなの友人だ。ライブ後の楽屋にいた時、2人は抱き合っていた。

「で、同じメンバーのバラさん。近くで見るとかっこいい」
「なるほど」

なずなは少々呆れたが、親友の為に一肌脱ぐ気でいた。

ダブルデートになるが、問題は無い。そう、問題はないのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……という事でデートするよ」

なずなは、机の上に宿題を広げた。

「大丈夫。心配しないで……」

なずなはそう言って花瓶の花を撫でる。

「……もう、繰り返さないから」

頭の中で流れる……それは凄惨な……。








しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...