蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

85 神通力

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 「そうか……」


蛍は、又三郎の話を聞き終わった。

「……坊ちゃん。こっち見て下さい。あれ……」

三吉と場所を替わり、隙間から中を覗くと、見覚えのある者達がいた。

「……梔子くちなしと土帝……それに」

後は同級生の美亜と教師の会田だ。土帝と梔子は変わらない様子だが、その2人はどうも生気がなさそうだ。

蛍は、土帝達に知らせる為、その辺にあった石の破片を隙間から、土帝に投げつける。

石の破片は、土帝に当たり、土帝は振り返る。

(何だ?誰かいるのか?)

土帝はネズミ達に気取られないよう振り向いた方向に向かう。

「土帝!」

隙間から、蛍の顔が見えた。

「蛍……か?」
「そうだ。どういう状況?」
「さあ。だが、奴らここをアジトにするつもりだ」
「……そうか?梔子は?」
「無事だ」

土帝はちらちらと、ネズミ達の様子を窺っている。

「頼豪がこっちに来ている。あの人間達を何とかして、反撃するぞ」
「しかし、どうやって?」

また二人が考え込むと、三吉が後ろから口を出す。

「一旦騒ぎを起こしましょう。あっしらが暴れる隙に、土帝と梔子嬢は何とか二人を連れ出さして下さい」

蛍達は頷き、作戦を開始する。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はあはあ……参ったぜ」

ネズミ達は境界面に吸い込まれ、地獄に還ったようだ。

翔一は力尽き、その場に座り込んだ。

「しょうけら、よくやった」
「いや、経国つねぐに様のおかげっス」

照れたように、翔一は頭を搔く。

「あとは、頼豪だ」
「そういやあ、まだ親玉が上に?!」
「いや、それはない。奴の気配が消えている……それに人間達も逃げ出さないのも、不自然だ」

経国は、窓から外を見る。校庭には人集りが出来ているが、そこから動こうとはしていない。

「何で奴らあそこから動かねぇんだ?」
「これは私の推測だが、術か何かでここから出れない。恐らく頼豪……いや、別の何者かの仕業だ」

そう言って、教室の扉を経国は開いた。

「もういいぞ。しょうけら、保健室は空いている。そこで休んでくれ。と、君たちもそこで待機だ」

経国はなずな達にそう告げた。

「……江間先生。蛍くん達は?」
「吉永君、心配する事はないさ。蛍はタフだからな。とりあえず、しょうけらを保健室に連れて行ってくれ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「頼豪様。もうすぐ、完成でございます」

側近がそう言うと、頼豪は満足そうに笑みを浮かべ、本殿を見る。
 
周りには、せっせと作業をする会田と美亜がいる。

ようやく、長年の夢である寺院は完成する。

「おお。わしの悲願!いよイヨか。長年、地獄に閉じ込められ、叶うコトがなかった……それも全てあのお方のおかげ」

頼豪は1歩踏み出し、神仏を崇めるかのように合掌をする。

それは静かな時間。だが、その静寂を打ち破るかのように、金切り声が聞こえてきた。


「冗談じゃないわよ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「き、貴様ら!静まれ」

寺院を建てていたはずの男女の争う声とそれを止めるネズミ達。

「は?さっき、アンタあの子をじっと見ていたでしょ?」
「だから、それは誤解だって!」

どうやら、痴話喧嘩らしい。しかし、困った事に女の方が木材を放り投げ、そこら中に散らばしている。

「あれは何だ?」

頼豪が近くにいたネズミに話しかける。

「それが女が急に暴れ……ぐっ」

女の方が木片を投げつけ、ネズミの頭に直撃したのだった。

「やったな!」

今度は男も怒りだし、木材を女の方に投げつけたかと思うと、女が避け別のネズミがそれを食らう。

次は、女が木片を投げつけ、あやゆく境内に辺りそうだった。

「ええい!止めぬか!」

頼豪がネズミ達に命ずると、ネズミ達は男女を止めようと2人に飛びついた。

しかし、怒りが収まらないのか、男女は互いを掴もうとして、ネズミ達を払い除ける。

払い除けられたネズミの1匹が壁に当たり、壁がミシッという。ネズミとはいえ、今は人間の成人男性と同じぐらいの大きさだ。

その衝撃はでかい。頼豪の顔にも焦りの色が出る。

「き、貴様ら!イイ加減にシロ!」

頼豪の怒号にも、2人は耳を貸さず、こんな事を言い出した。

「三吉!又三郎!こんな所でいいか?!」
「蛍~!あとは宜しくね♡」

物陰から、三人が飛び出してくる。

「貴様ら!いつの間に?」

「……寺院に見とれて、僕の気配に気づかなかったの?おマヌケさん」

蛍の口が意地悪く歪んだ。

「ネズミども!あ奴らヲ捕まえよ!」

どこに隠れていたか、ネズミ達が蛍に襲いかかってくる。

「じゃあ、頼んだよ皆。僕は頼豪の相手をする」


そういうと三吉は、周りのネズミ達をなぎ払い、又三郎は巨大化してネズミ達を追いかける。

その間に、土帝と梔子が会田と美亜を連れ出していく。

「……追え!追え!」

ネズミ達は四散し、途端にここは戦場と化す。

「貴様!もはやユルさん!!」

頼豪は、蛍目掛けて爪引っ掻くが、蛍は涼しい顔で後ろに避けた。

「頼豪。もうおしまいだよ」
「何?!」

蛍は指を二本、自分の目の前に立てる。

「神通力如是……っ!ぐあ!」

蛍は頭を押え、その場にしゃがみ込む。

「馬鹿め!ワシを倒すツモリだが、自分を苦しめるとは……」
「ふっ……」

蛍は頭を押えながら、ふらふらと立ち上がる。
しかし、様子は違っていた。 

額に二本、角が生えていたのだ……。






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