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二学期地獄編
70 混乱
しおりを挟むなずなが次に向かったのは、グランド。そこで土帝は、模擬店をやっているはずだ。
急いで昇降口に向かう。
「あ、三吉さん!」
ちょうど三吉が、昇降口にいたのだ。
「なずな嬢!何かあったみたいですな」
なずなは三吉に説明しようとすると、猫が走って入ってくる。それと男も一緒に。
「又三郎、来てくれたの?翔一さんも」
「どうした?お前たち」
「どうしたもこうしたもねえよ!又三郎の旦那追いかけて来たんだ!」
翔一は普段、走りなれてないのか、それとも又三郎が速かったのか、息を切らしていた。
「お嬢さん!すまねぇ!俺は見せる顔がねえ!」
「又三郎……?どうしたの?」
「ああ!もう!旦那落ち込んでる場合じゃねぇよ」
なずなは何だか心配になり、又三郎を抱き上げる。
「よしよし。いいこいいこ」
なずなは又三郎の小さな頭を撫でる。その横で翔一の顔が引き攣る。
「さっきの姿でこんな感じなら、間違いなく蛍に殺されるンじゃねか」
「翔一、何をブツブツ言っとる。丁度いい。お前には頼みたい事がある」
三吉は翔一に耳打ちをする。
「まじかよ」
「……さて、なずな嬢案内してくれ」
三吉に促され、なずなは皆を先導し始めた。
「はい!それと、三吉さん。宗ちゃん、グラウンドにいませんでしたか?」
「いや、みておらんの」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……出てこい!鉄鼠!」
理科室から大きな物音がすると、理科室の扉を壊し、ネズミが大量に出てきた。
その大群は群がり、合体するように天井まで届く大きな袈裟を着たネズミへと変貌する。
それこそ、鉄鼠・頼豪であった。
「我ヲ呼ぶのはオ前か?」
低い声で唸るように喋る頼豪。蛍は怯む事無く続けた。
「ああ。やられないうちに、さっさと消えろ」
「ふん。人ならず。貴様ノ様なものガ、何故こに?」
「さあ?お仕置だ!……蓑火!」
手から碧の炎を出し、それを頼豪に放つ。しかし、小さなネズミが頼豪の盾になり、ネズミは燃え尽きる。
「なるほど……」
さっき、大群が頼豪になったが、それでもまだネズミは大量にいる。
1匹1匹、潰している暇は無い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「キャベツはこのくらいでいいか……さっきから騒がしいな」
土帝は教室内でキャベツを切っていた。ほとんどのクラスメイトはさっき教師が怪我をしたとかでそれを見に行っているはずだ。
「それに……」
妙な気配がするし、ねずみがどうとかも聞こえる。そのうちに逃げろという怒号まで聞こえてきた。
静かになった時、土帝は教室から出ると、そこらじゅうにねずみがいたのだ。
「……なっ!」
それだけではなく、天井まで届く巨大ネズミがいる。
「やはり妖怪」
「……ニンゲンの匂いがスる」
頼豪がゆっくりと振り向こうとすると、蛍はすかさず飛び蹴りを食らわす。
頼豪は身体を中の壁にぶつけ、その衝撃で壁が割れてしまう。
「お前の相手は僕だ」
「………貴様!」
「やめろ!田中蛍!学校を壊す気か!」
土帝が怒鳴ると、蛍は舌打ちをする。
「本当、見当違いの男だな。でも、丁度いいや。手伝えって」
「ふん。こちらニモ増援が来たようだナ?!」
頼豪が後ろを指さすように前足を出す。振り向くと、ふらふらと歩く桃がいた。
「桃ちゃん!」
蛍は桃を呼んだが、桃の目は虚ろで何かをぶつぶつ言っている。
「……あ、あぅっ。ほたるく……ん。助け……て」
「桃!そいつを仕留めろ!」
桃は断末魔をあげると、急に走り出し蛍に襲いかかる。
蛍は桃の両腕を抑えたが、桃の力は予想以上に強く、蛍でも手こずった。
すると、階段から走って来た梔子が桃にドロップキックをする。桃はよろめいて倒れる。しかし、蛍はその拍子で尻もちをつく。
「蛍に何すんのよ!……蛍、大丈夫だった?」
梔子は目をキラキラさせて蛍を起こした。
「あ、ああ。ありがとう」
蛍はやや戸惑いながら、臀についた埃を払う。
「……ふぅん。今日はこの巨大ネズミが相手……ハンティングは得意よ!クロ!」
梔子の胸元から、黒猫が飛び出してくる。蛍はギョッとして後退りした。
黒猫のクロはネズミ達を威嚇して、次から次へと駆逐していく。
そして、そのまま頼豪に立ちはだかったのだ。
クロは体を伸びばして唸り声をあげ、自分の数十倍もある頼豪の顔を目掛けて突進していく。
しかし、寸前の所で前足で薙ぎ払われた。
「に゛ゃア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!」
叫び声のような声を上げて、クロは落ちていき、それを梔子が走って受け止めた。
「……馬鹿力っ!」
「小娘っ!貴様モ人間ではナいな!」
「だったら何よ!」
クロを抱え、梔子は頼豪を睨んだ。頼豪は、前足をかざして何か呪文を唱えると、玉のようなモノを放つ。
咄嗟に避けようとするも、避けきれず梔子はたまの直撃を喰らうと、身体が小さくなる。
小さくなると、全身に毛が生え、ねずみになってしまう。
「なっ!おいっ!元に戻せ!」
蛍は頼豪を見上げ、元に戻すように抗議する。しかし、頼豪はもう一度玉を作り、今度は蛍の方に投げるようにした。
「…………っ!!」
蛍は飛び上がり、その玉を投げる。玉は床に落ちると、床が割れていたのだ。
「避けたヵ。それデこそ面白い」
ねずみになった梔子は、最初こそ戸惑っていたが、そのうちに非常階段の方へ一直線。
「どこへ行く?!」
「土帝!追いかけてくれ!」
土帝は一瞬戸惑うが、ここは蛍に従う事にした。
「戦力を事欠くヵ。頭は良くないヨウだな」
「そうかな?」
蛍はにやりと笑う。すると、階段からばたばたと三吉達がやってくる。
「坊ちゃん!」
「三吉!又三郎!……しょうけらもいるのか?」
「そ、そんな言い方ねえだろっ!」
蛍はなずなを見る。
「ぺんぺん、君は危ない。桃ちゃんを連れて逃げるんだ」
「分かったよ」
なずなは倒れてぐったりしている桃を何とか起こす。
「水瀬さん?!」
「よ、吉永さ……ん?」
さっきとは違い、桃は正気を取り戻したようだ。
「ええい!桃は連れていかせるものか!」
頼豪は大きな爪でなずなを振り貼ろうとしたが、蛍は咄嗟に動いてなずなを庇った。
しかし、右前腕で攻撃を受け止めた為、シャツの袖が敗れ、血が滴り落ちしていた。
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「……大丈夫だ」
傷自体は浅いが、すぐに治る訳では無い。
その上、蛍は心臓が強く引き締められる感覚に襲われる。
「坊ちゃん?……翔一、あれを」
「あー分かった分かった!」
翔一は少し離れて、呪文を唱え始めた。
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