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二学期地獄編
68 ねずみ退治
しおりを挟む蛍達は、模擬店に行くと言った三吉達と一旦別れ、とりあえず宣伝をする事にした。
「1年E組の喫茶店、今なら空いてまーす。是非、御来店下さいっ」
なずなはとにかく、保護者や他の生徒に呼び掛けたが、あまり効果がない様子だ。
「はあ。蛍くんも手伝って」
「え?なんで僕が」
「……そんなぁ」
大体、言い出したのは蛍である。
「……ねえ!君!ひょっとして、吉永なずなさん?!」
眼鏡を掛け、太ったいかにもオタクと言った容貌の生徒が話しかけて来た。その生徒は、額に汗が滲んでおり、首からカメラをぶら下げている。
「申し遅れました。小生、写真部2年三宅泰造と申します!おーい!アイドル2人目発見だぞ!」
すると、数人の生徒がカメラをぶら下げて、いきなりなずなの写真をパシャパシャ取り始めていた。
「え?え?何?」
なずなは目を白黒させ、蛍は困ったように首を傾げた。
「いやぁ、今写真部では学園三大アイドルを探していまして、その1人が吉永さんなんですよ!ちなみにあと2人は井原ローズマリーさん、そして……」
三宅はやたら早口で、正直何を言っているのか分からなかった。
「ちょっと」
後ろから声がした。振り返ると、そこには猫耳を着けた魔女のコスプレをした梔子がいた。
梔子は腕を組んで仁王立ち、不機嫌そうだが、蛍を見つけると満面の笑みになる。
「私の撮影は?まあいいわ!蛍っ?会いたかった」
梔子は蛍に抱きついてそう言った。
「ちょっ!離れてくれない?」
「ええ?ね、それより似合うでしょ」
蛍の前で可愛く内股でポーズをとる梔子。
「ああ。似合ってるよ」
蛍は適当に相槌を打つ。しかし、梔子には効果抜群のようで更に蛍に擦り寄って来た。
「うっ。怖いって」
「そんな事言わないで」
その様子を見たなずなは小さくため息をつく。そして、カメラマンの要求に応じ、ポーズをとる。
「はいっ!ありがとうございます!あと、男性アイドルもいまして、こちら土帝君のお写真プレゼントです。なかなか撮らせてくれないので、貴重な1枚ですよ」
まさか、男性もあるのかとなずなは関心しつつ、写真を受け取る。
写真は弓道の演習のものだ。確かによく撮れている。
「ねえ、男は土帝だけ?」
蛍は三宅に尋ねた。
「え?そうですよ?」
「僕はいいのか?」
「え?あなた……誰ですか?」
蛍の顔は少し険しくなる。と言うか、あからさまに気に食わないである。
「さて、小生らはこれで撤収です」
そう言って、思いの外俊敏な動きで三宅達はその場を去る。
「私も行くね!蛍!……理科室には気をつけて……」
理科室は2階にある今使用禁止の教室だ。
「理科室……」
すると、上の階が何やらバタバタしているようだった。今日は文化祭なので、騒がしくてもおかしくないのだが、嫌な予感が蛍はした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ああ。何かちょっと退屈よね。そう言えばさ、水瀬さん聞きたいことあるんだけど……」
みのりは、蛍がいなくなってから随分と大人しくなって椅子に座っている桃に近づいた。
「何?」
「田中とさ……いつごろから、仲良くなったのかな?」
「あなたも邪魔するの?私と彼を……」
桃はいつもより低いトーンの声と怖い表情で、みのりを睨み付ける。
「え?そういうわけじゃ……」
「だったら」
桃は立ち上がり、勢いよくみのりを突き飛ばした。
みのりは、尻もちをつく形で倒れ込む。
「いったぁ!何すん……え」
みのりは顔を上げると、桃の異変に気づく。
体中に毛が生え、眼は紅く恐ろしい形相でこちらを睨んでいたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
蛍達が2階に行くと、慌ただしく教師達が動いていた。
「吾妻先生!」
「江間先生を呼べっ」
教師の1人が叫んだ。どうやら、日本史の吾妻に何かあったようだ。
「吾妻……」
蛍は吾妻の正体が、小豆婆である事を思い出した。その吾妻に何かあったらしい。
「吾妻先生が倒れたみたいよ」
「それもすごい怪我みたいだ」
吾妻は妖怪だ。そう簡単に怪我なんてするはずもない。
階段をバタバタ走る音が聞こえた。
「……蛍!」
走って来たのは、江間経国で、蛍の兄だ。手には救急箱を持っていた。
「兄さん。何があったの?」
「分からん……。お前も来い!」
蛍達は経国について行くと、理科室の前に辿り着く。
すると、人だかりが出来ていて、経国はそれを掻き分けた。扉のそばに吾妻が倒れている。
吾妻は手足に深く引っ掻かれたような傷が、無数についている。
おまけに服やストッキングも破れており、傷口からは血が溢れ出ていた、
᷆「酷いなこれは……」
経国は救急箱を開いて、治療を始める。蛍も何とか人混みを抜けて倒れている吾妻を見る。
確かに酷い。でも、急所は外れていたようで吾妻の意識はある。しかし、別の問題もある。
「……蛍、保健室まで運ぶ。手伝え」
吾妻は擬態の術を使っている。つまり、吾妻の意識がなくなれば、術も解けてしまう。
「分かった!道を開けろ!」
ざわめく生徒達。
「早くしろ!」
蛍の怒号で、生徒達は左右に別れて道が開く。
蛍は足側、経国は頭側を持つ。
「す、すみません」
「……意識だけは飛ばすなよ」
担架を待つ暇はない。保健室ならば応急処置が出来る。
「きゃあああ!」
運ぼうとした瞬間、誰かの叫び声が聞こえた。
「今度はなんだ?!」
「ねずみだー!」
蛍はそれくらいで大袈裟なと思っていたが、どうやら1匹、2匹ではなく、数百はいるだろうねずみの大群が理科室から出てきたのだ。
「蛍!」
「分かってる!あれは……ただのねずみじゃない!おい!そこのお前!さっさと生徒をここから避難させろ!」
蛍は1人の教師を指さした。教師がおろおろしていると、経国に促され、慌てて非常階段を開けて指示を出す。生徒や保護者が慌てて飛び出していく。
「蛍くん!」
「ぺんぺん!君は三吉と梔子、土帝を呼んでくれ!それと又三郎を探せ!もう来てるはずだ!」
「わ、分かった!」
なずなも慌てて、生徒達とは反対方向の階段を降りていった。
「……蛍様!親玉は鉄鼠です!強力な妖術を使います!」
「ああ。分かった。兄さん、行ってください」
「分かった。小豆婆、悪いが治療は後回しだ。保健室で隠れていてくれ」
吾妻が頷くと、経国は吾妻をおんぶして駆け出していく。
「さあ、出てこい。鉄鼠!懲罰の時間だ!」
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