蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

66 鉄鼠

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 いよいよ、文化祭当日。朝から生徒達は、バタバタと廊下を走り回る。

 教室はがやがやと騒ぎながら、準備に追われている。

「なずなー、着替え終わった?」

女子更衣室でなずなは、メイド服に着替え終わってから、みのりに呼ばれた。

「ちょっと恥ずかしいな……」

黒地のワンピース、白い襟、大きめのリボンとフリルのエプロン、そしてフリルのカチューシャ。

「うわー!本物みたい!私も着たかった!」

みのりは随分、感激したようで目をキラキラさせていた。

「そうかな。みのりも可愛いよ」

なずなもつい、軽く回転して見せる。

みのりは、ワンピースを着ていないが、変わりに猫耳のカチューシャを頭に付けている。

教室に行くと、なずなは当然生徒に囲まれていた。

「可愛いな……」

クラスメイトの畠山はその姿にうっとりしていた。

なずなは、恥ずかしさよりも嬉しさが勝っていた。そして、一番見せたかった蛍の前に行く。

「蛍くん。どうかな」

蛍は、なずなの上から下まで見る。

「……似合ってないから、着替えてよ」
「ちょっと!田中っ!どう見たって可愛いでしょ」

みのりが抗議するも蛍は、聞く耳を持たない。それになずなは、呆然と立ち尽くすだけ。

教室の扉が開いて、山野が入って来る。

「おーい!もうすぐ、本番だ。緊張するなよ」

そうと言いつつ、出席簿を持つ手は微妙に震えていた。

「えーっと、木本以外は出席か。じゃあ、皆頑張ろう!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いらっしゃいませ!」

とは言ったものの客は数人。ほとんど、休憩所代わりだ。

「ああ。やっぱり、お化け屋敷とかゲーム系にすればよかった」

なずなの隣に愚痴るみのり。確かに、生徒同士で話しているものまでいる。

担任の山野も、暇だからと言って、どこかへ消えてしまった。

お菓子やジュース類はまだたくさん余っている。

「しょうがないよ、まだら後半だし」

なずなは、注文されたコーヒーを紙カップに入れてそう言った。

蛍はずっと桃と一緒だ。

「なずな、お願い!それ、5番テーブルに持って行って。ちょっと怖そうな人なの」


クラスメイトに言われた5番のテーブルをみると、確かに異様な雰囲気の男が1人。

サングラスを掛けて、キャップを深々と被っている。背も高く、髪も長い輩のような男。

「コーヒー、お待たせ致しました」
「久しぶりじゃねぇか」

コーヒーを差し出すと、男はサングラスをずらした。よく見ると、その男はシリウスのボーカル、シュンスケだった。

「シュンスケさ……」
「しーっ。バレたら厄介だ。元気だったか?」

シュンスケに人差し指で唇を軽く抑えられて、なずなはこくんと頷いた。

「そうか……。なら、今度ライブに来いよ」

この男は警戒しなければいけない。以前、鬼八と組んでいた人間だ。いや、もしかしたら……。

「……ぺんぺん」

後ろから肩を叩かれる。蛍だった。蛍はいつめより、感情のない目になっている。

「君、宣伝に行った方がいいんじゃない?客少ないし」
「え?あ、うん」
「僕もついて行く」

蛍は半ば強引になずなの腕を引っ張りあげた。なずなはよろめきながらもついて行くしかない。

そして、蛍は振り向いて、シュンスケに向かい、あっかんべーとしたわけだ。

「アホ虫」

舌打ち交じりにシュンスケが小さく悪態を着く。

桃もその様子を見て、自分の中に湧き上がる何かを抑えられなかった。

「ちょっと私は……」

(奪え奪え、あの男の力。我に献上せよ)

そう心の中で繰り返した。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「冗談じゃないわよ!こっちは休み返上でやってんの!」

吾妻は怒りに任せて、廊下を行ったり来たり。
今日は文化祭だというのに、教師が2人も休んでいた。

1人は入院中の大久保、もう1人は会田。入院中の大久保は分かっていた休みだが、会田に至っては今朝急にだ。そのせいか、会田がやるはずの保護者案内を吾妻をする羽目になっていた。

「吾妻先生!」

山野から声を掛けれた。

「あら?山野先生、クラスは大丈夫なんですか?」
「ああ。それが、模擬店が喫茶なんで前半は結構暇なんですよね」

山野のクラスは確かメイド喫茶をやると言っていた。

喫茶とはいえ、簡単な茶菓子やコーヒーを出す程度なので休憩所扱いだろう。

吾妻としては、山野との時間が出来て、少し嬉しい。実は過去に2回デートを重ねている。
とはいえ、土日のランチくらいだが……。

「会田先生にも困りましたね。ところで、案内の方はどうですか?」
「そうですよね。案内は一通りすみました」
「そっか。いや、なんと言うか……お手伝いに来たんですが……いや、一旦俺は戻りますね」

吾妻は照れたようにぶつぶつ言いながら、去っていく山野がたまらなく可愛く見えた。

(会いたかったって素直に言ってくれればいいのに)

お陰で吾妻の足取りも軽くなる。

しかし、どこからか妖気を感じ取る。これは悪い妖気だ。

(一度、蛍様に相談……でも、取り敢えず)

妖気のする場所は、理科室。 

念の為、全ての教室を施錠する為の予備のマスターキーは持っている。

吾妻は、恐る恐る理科室を開けた。

暗い部屋、カーテンはしっかり閉められている。

「……気のせいかしら」

吾妻は、外にでようとするが、いつの間にか鍵は閉められている。

「しまった!」

「……人間かと思えば同胞か」

後ろを振り向くと、巨大なネズミが吾妻を見下ろした。

「お前は……鉄鼠、頼豪てっそ、らいごう



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