蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

62 窮鼠猫を噛む

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 「……嘘告白?」

なずなは、みのりにそう尋ねた。

「そう、美亜達の間で流行ってるらしいわよ。悪趣味……一ノ瀬、それ何個目?」
「ふ、2つ目」

いつの間にか、というよりみのりに強制されて、ガラムは花を作っていた。

「遅い」
「でも、これだけあればいいんじゃない?」

なずなは箱の花を見てそう言った。

「まあね」

教室の扉が開き、蛍が帰ってくる。

「あ、蛍くん。今、ちょうど切り上げるところだったの」

なずなは、机の上を片付け始める。

「あ。いいわよ。今日はうちと一ノ瀬で片付けるから」
「え?!」
「文句あるの?」

ガラムはキッとみのりに睨まれて青くなり、小さくいいえと答えた。

まるで、猫と獲物のねずみのようだと、蛍は内心思っていた。


「じゃあ、また明日ね」

蛍はそれぞれカバンを持って教室から出ようとすると、桃が入ってくる。

「あ……」
「ああ。君……これ返す」

桃は顔を赤くして、俯いている。蛍はさっきの手紙を桃に渡す。

「……あ、水瀬さん。また、明日ね」

なずながにっこりと笑いかけると、桃は更に顔を赤くして、頷き自分の席に向かう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「田中君に嫌われちゃった」

桃は、理科室にいた。

いくら、美亜に強制されたとはいえ、あんな事したくなかった。

でも、また美亜達に虐められるのもいやだ。

桃の唯一の癒しは、会田の飼っているハムスターだ。
時々、会田は理科室にチュチュを置いていく。

桃は餌をチュチュに与える。

「チュチュ」

回し車をからからと回すハムスター。本当はもっとたくさんいたはずだ。

だけど、今はチュチュだけ。

ほかのハムスターは全部、実験に使われてしまった。

桃は会田がハムスターを実験に使っているのを目撃。

どうにか、チュチュだけは助けて貰えるように懇願するが……。

それ以上は、おぞましくて思い出したくもない。

明日は、生物の授業がある。そして、授業がある日は必ず呼び出されるのだ。

「私がはっきり言えれば……」

──お前の願い、叶えてやろう

「え?あ、やだ。じゃあね、また明日」 

桃が去ると、ハムスターの目は赤く光るのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その夜、国語教師の大久保は、体育教師の山野と手分けして学校の見回りをしていた。

夜と言ってもまだ19時。しかし、最近秋めいてきて外は暗い。

夜はまだ暑い日もあるが、今日はなんだが薄ら寒い。

「やっぱり、奥さんの言った通り上着を持ってくるべきだった」

大久保はスマホの明かりを頼りに廊下を歩く。各教室の戸締りを確認し、生徒がまだ残っていないかも確認する。

特に文化祭も近いので、遅くまで残っている生徒もいるのだ。

理科室の辺りを通ると、物音が聞こえた。生徒達だろうか。

「お前達、いつまで……」

扉を開けると、大久保は悲鳴すら上げることが出来なかった。

理科室には、大量のねずみがいたのだから……。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 何だか、気分がいい。朝、母に起こされなくても起きれたし、そのお陰で軽くメイクも出来た。

おまけにいつもは怖くて出来ないコンタクトも入れて、髪の毛はパーマを掛けたように綺麗なっている。

せっかくだからと、このまま学校に行こうとすると、母に呼び止められた。

「ねえ、桃。今日は少し派手すぎるんじゃない?」
「別にいいじゃない。うるさいな」

そう言うと、母はきょとんとし、父も驚いていた。

いつもは親に反発せず、いいなりな桃だが、今日なんだか違った。

(……ママに逆らっちゃった!でも、今日は何となく大丈夫だよ)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ねえ、聞いた?昨日、大久保先生が救急車で運ばれたって」

みのりに言われて、蛍は大久保が思い出せなかった。

「みたいだね。救急車、学校とは思わなかったよ」

学校の近所に住むなずなやガラムは、けたたましい救急車のサイレンを聞いていたのだ。

「おはよう!」

そんな話をしていると、人一倍元気よく女子生徒が入ってくる。

随分と垢抜けているが、間違いなく桃だ。

「え……水瀬さん?」

なずなだけでなく、周りもびっくりさた様子だった。

桃の表情は明るく、まるで周りを気にしていない。そんな桃に美亜達が近づく。

「ねえ、あんたさ。それどうしたの?似合ってないから」

わざとからかうように、大きな声で笑う美亜達。

いつもなら、何も言い返せない桃だが……。

「何か3人ともおばさんみたいな笑い方するね。学校来るより、スーパーに行ったら?」

まさか、そう帰ってくるとは思わず、美亜達は顔を真っ赤に染めてる。

「な、何よ!」
「確かにあれはおばさんだわ」

みのりはくすくすと笑い始めていた。

それに釣られて、周りも笑い始めていた。美亜は平井達に助けを求めるが、平井達も一緒になって笑い転けていた。

さすがに美亜も部が悪くなったのか、教室から出ていく。

桃は勝ち誇った感じで残った2人を見ると、2人はそそくさと自分の席に戻っていく。

「…………へえ」 

一部始終を見えていた蛍はにやりと笑う。
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