蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

58 美女の誘惑

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 「本当にあるの?」

蛍はやや訝しげではあった。


みのりが言うには、帰宅時にわざと遠回りして行けとの事だった。

妖怪の仕業かも知れないと言えば、蛍はついて行くだろうと。

そこで何とか、真実を聞けと言われたのだ。

とは言え、連れていくのも限界がある。

「え?あ……うん。で、多分この辺」

屋敷があるか確かめるだけだが、なずなとしても本当にあるのか疑問だった。

もしかしたら、酔っ払いの戯言かも知れないのだ。

しかし、今日は妖怪が目的ではないのだ。

「ところで蛍くんって……」
「ん?」

続きが言えない聞きたくないと、なずなは口篭る。

「何?ぺんぺん?ちゃんと言わないと分かんない」

蛍が顔を覗き込むので、さらに聞きづらく目を逸らしてしまった。

「あの……え?宗ちゃん?」

逸らした先には、土帝の姿があった。自分たちより早く動いていたのだろう。

土帝はこちらに気付く様子もない。

すると、蛍が急に足を止めて、なずなもそれに合わせて足を止めた。

「……ぺんぺん。君の言ったことは本当かもね」
「え……あそこ」

そこは以前まで空き地で建物などなかったはずだ。それが、まるで昔から佇んでいるような古い屋敷に変わっていたのだった。

土帝が躊躇なく入って行く。

「宗ちゃん!」

なずなは慌てて、土帝を引き止めるがまるで聞こえていないようだ。

「無駄だよ。君はここにいてよ。話の続き聞きたいから……」

そう言ってなずなの手をとり、手に口を付ける。

「約束」

なずなは蛍の行動に呆然としてしまったが、しっかりと頷いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「お邪魔します」

翔一が言うには、扉は開いているので入ってもいいらしい。それに、すぐに女主人が出迎えてくれた。

「本当にありがとうございます」

屋敷に入る前から気づいていが、どうも瘴気が強い。

普通ならいるだけで気分が悪くなるほどだ。

女主人は年老いていて、顔には皺、髪も真っ白だ。疲れているのか、目の下にはくまができていた。

「……で、幽霊というのは?」
「ええ……実は……」
「お母様?」

襖がすーっと、静かに開くと、そこには黒髪の美しい和服の娘が正座をしている。

「ああ。お前、この方は土帝様よ」
「なんと素敵な方でしょう。お母様、このお方ならば……」

そう言うと、女主人と娘が立ち上がる。

娘は土帝と同じくらいであろうだが……。

「……あなた好みの女になってあげますわ」 

土帝が呆気に取られていると、娘の顔はなずなになっていた。

娘は帯を取り、一糸まとわぬ姿で土帝に近付いてきた。

「な……?!まさか、妖怪か?!」
「さすが陰陽師。よく分かったわね……でも、もうお前は逃げられない」


白い糸の束がすると近づいてきて、土帝は逃げようとするが、追いつき壁に磔のようにされてしまった。

「離せ!」

土帝は逃げようと必死に喘ぐが、蜘蛛の糸は頑丈でビクともしない。

「ふふっ。さあ、私を抱いて……」

一瞬、なずなに誘わられることを想像してしまったが、土帝は精神を統一する。

(……落ち着け。あれはなずなじゃない!)

「……先日は、私の母を踏もうとした癖に」

「母を踏もう?まさか、やはりあの時の?!」

昨日、部室で蜘蛛を見た事を思い出した。

という事は、土帝は昨日から狙われていたのだ。

「くそ!」
「さあ!私に精気を……」

「…………蓑火」

緑色の炎が、土帝を張りつけていた糸を燃やした。

「誰だ?」

「…………こんな所で男を誘惑するなんて、悪い子だ。懲罰が必要なようだな」

蛍は鞭を床に叩きつける。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「うーん。気になるけど」

なずなは蛍の荷物を見ながらそう言った。

「蛍くんにはここにいろって言われたし……」

しかし、どうも少しだけ怪異を覗いてみたい気もしていた。

「……吉永?何やってるんだ?」

担任の山野が声を掛けてきた。

「あれ?先生?もう帰り?」
「そうだよ。今日はちょっと頭が痛くて、早めに帰らせ……じゃなくてこんなところでどうした?寄り道か?」

山野は笑いながらそう言った。

「あ、注意しないんだ」
「へへっ。まあ、高校生なんだから少しぐらいは多めに見てやる……痛っ」

山野は自分の胸をぽんと叩くが、少し強く叩きすぎたみたいだった。

「何やってんの?今、蛍くんがこのうちに用事があるみたいで待っているんです」
「うち?家なんかないじゃないか」
「え?!」

なずなが振り返ると、確かに屋敷は丸ごと消えていたのである……。
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