蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

55 張り裂けそうな気持ち

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 胸が張り裂けそうになる。ただ、もう頭がぐちゃぐちゃだ。

 まだ、校舎に残る生徒達を尻目に走った。

前を見ずに走ってしまい、バシッと誰かにぶつかる。

「あ、ごめ……ごめんなさい」
「大丈夫……なずな?」

ふと、なずなはそれが土帝である事を確認する。

「そ、宗ちゃん?あ……弓道は?」
「ん?ああ。今日は終わりだ。顧問が用事があるみたいで……それより、どうした?」

土帝がなずなの顔をのぞき込む。

前は背がそんなに変わらなかった。だけど、今の土帝は随分大きく見える。

「あの……あの」
「たまには、うち来るか」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 あれから、ローズマリーは殆ど口を聞いてくれなかった。

問題はないのだが、気まずい事には勘づいた蛍。

「じゃあ、僕はこれで……ぺんぺんにこれ届けますから」

蛍はスケッチブックを取り出して、顔をひくつかせながら言った。おまけに……。

「あんたはアホ。それ以上でも以下でもない」

そうローズマリーに言われてしまう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「お邪魔します」

なずなは怖々と土帝の部屋に入る。

「何言ってんだよ」

土帝は笑いながらそう言った。

和風の勉強机にノートパソコンに和風のベッド。整理された部屋には塵一つない。

「……だって。中学の時、私を入れてくれなかったじゃない」

土帝は少し前のことを思い出した。あの時はまだなずなを女として見始めていた頃で、どうしても照れ臭さの方が勝った。

今だって、なずなを他の女より意識してしまう。

土帝はそれをはっきり恋心と理解していた。

「それより泣いてた理由あるんだろう?」

土帝は座布団を用意して、なずなに座るように促すと自分もその場に座り込む。

「……蛍くんが、井原先輩と……キスしてた」

なずなが暗い顔をする。周りにはこういう顔は絶対にこんな顔をしない。

いつも、自分に相談する時にだけ見せる顔だ。
なずなには悪いが、それだけでなんだか土帝は優越感に浸っていた。

自分だけが知る……名前を言った奴も知らないだろう。

「あいつも男だしな……」
「井原先輩、綺麗で色っぽいし……蛍くんだって……宗ちゃん?」

前から抱きしめられ、気がついた時には土帝の胸の中にいた。

「あっ……ごめん。なんかつい可愛かったから……」

土帝はすぐさま、なずなをそっと離した。

「え……?あっ、やだ。こんな時間、そろそろ帰るわね」

なずなが立ち上がると、土帝も立ち上がる。

「送って行くよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「……ふう。さて」

今日はなんだか、違う風景に見えた。

いつの間にか、当たり前のようになっていた登下校。いつも、彼女と何を話していたか覚えていない。

だけど、それが当たり前でかけがいのない日常。いつも、隣にいて。でも、正直彼女とどうなりたいかどうしたいかよく分からない。

だけど、自分のモノにしたいのは確かだった。

もうすぐ、家が見えるはずだ。明日は一緒に帰ろうと約束するはずだった。

「ありがとう。じゃあ、またね」

透き通るような声。1番、聴きたかったはずなのに……。

「礼を言われるまでもない……」

ちらりとこちらの存在に気づいた眼はこちらを蔑むように、嘲笑うように見ていた。

だけど、彼女は気づかない。

「待って……」

気づいた時には、奪われていた。

「ん……そ、宗ちゃん!」

なずなは抗議しているのか、喜んでいるのか、それとも……。

「ただの挨拶だ……さ、弘海が待ってるから」

なずなは頷くと、こちらを振り返ることなく去っていく。

土帝は、一瞬してやったりと笑うように口角を上げ、蛍に気づいてないふりをして去っていく。

その様子を蜘蛛がみていると気づかずに。

蛍はぐっと拳を握りしめ何もすることも出来ず、そこから歩き出す。

なずなの家の前に着くと、ただぼんやりと眺めていると、車のクラクションがなる。

運転手が、運転席から顔を出した。

「すみません、車入れたいんで……あれ、君は確か……」

ふと見ると、なずなの父親良介だった。

「あ……あのこれ」

蛍はカバンから、スケッチブックを出して良介に渡す。

「え?あれ、なずなの……」
「じゃあ、これで」

蛍が車を横切るの不思議そうに見る良介だった。



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