蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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二学期地獄編

54 唇を交わすということ

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 蛍は、真っ白いスケッチブックを覗く。

その横で、先輩の井原ローズマリーがガミガミ言っているのが聞こえていた。

「蛍君、あんただけやで!なずなちゃんとガラム君はちゃんと作品を用意して!完成どころか、下書きもしてへんってどういう事や!」

どういう事かと言われても、蛍は絵など描いたことは無い。

「絵はないよ。これならあるけど……」

そう言って取り出したのは、ロボットのプラモデル。しかも、塗装済みでもある。

「なんや?玩具?」
「ちょっと!蛍君!それ、映画バージョンのガンマジンじゃないか?!」

目をキラキラさせてガラムが、プラモデルを覗き込んだ。

「あ、でも……なんか色が……ショルダーとアームが紫だし……」

ガラムがずっとぶつぶつ言っている。

「……色合いが好みじゃなかったんだよ」
「もう何でもええわ!ちょっと掃除決定。デッサンだけでも今日描いていきーや!」


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それから、夕方の18時にはガラムは帰宅して、蛍となずな、ローズマリーが部室に残る。

「なずなちゃん?あんたはもう帰ってええんやで。あとはこのアホが掃除してくれるんやから」

ローズマリーはにっこりと笑いそう言ったが、なずなは時計と蛍をちらちらと見ている。

「え……でも……」
「ああ。ぺんぺん、先に帰ってもいいよ。でも、待っててくれたら嬉しい」
「ご馳走さん。はい、ホウキ」

立ち上がった蛍にローズマリーがすかさずホウキを押し付けた。

「……分かった」

そう言ってなずなは帰る準備をしている。

「じゃあ、またあとで」

なずなは描いていたスケッチブックを置いて出ていってしまう。

「さあ、掃除掃除」

ローズマリーに急かされ、蛍は床掃除を始めた。

「なあ、あんた。なずなちゃんと付き合ってんの?」
「……答えにくいな。そもそも……?」

背中にピッタリと、気配もなくローズマリーがくっついている。
 
「それなら……どや?男が悦ばせるのうち得意やで」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



なずなは、校門前で蛍を待つ事にした。ここなら、すれ違うことは無い。

なずなは、リュックを開けた。しかし、スマホはあったものの今日、新しい作品を描こうとしたスケッチブックがない。

「あ、部室だった。取りに行くか」


そのついでに、蛍に校門で待っている事を伝えるかと、なずなは走り出した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「へえ。君すごいんだね」

蛍は、ローズマリーから少し離れて振り向いた。

「……どや、なずなちゃんならこんな真似出来へんよ?」

ローズマリーは、リボンを外し、シャツが胸元が見えるようにボタンが外してある。

扇情的に写った髪をかきあげる姿は花街の艶やかな花魁のようだ。

「君には興味が無い」

そう言ったが、蛍はローズマリーと唇を重ねた。

急な事で、その時部室の扉が開いた音を聴き逃していた。

「君は綺麗だ」

ローズマリーが蛍から離れた途端、そういった。

「せやろ?」
「だけど、やっぱりぺんぺんのが綺麗だ。何故だが、僕にはそう見える」
「なんやそれ」

ローズマリーはムッとしたように、蛍から離れる。

「……分かった。僕、今のをぺんぺんとしたい!どうやるの?」
「アホか!自分で考えなさい」

蛍は何故、ローズマリーがぷりぷり怒るのかが分からなかったが、ただ今はなずなと唇を重ねることだけを考えていたかった。

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