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夏休み編
52 公開プロポーズ
しおりを挟むようやく鎮火した戦場。
こわされていたはずの建物や信号機、地面に至るまで全て修復されていた。
まるで何事もなかったようだった。
経国達も光に包まれ、目を開けた時、街はそのようになっていたのだ。
その代わり、疲労感は半端なく立ち上がるのがやっとだ。
一方蛍は大の字になり寝ており、三吉が起こしても一向に起きなかった。
一瞬、嫌な予感がしたが、息はしており、脈も正常である。
ライブハウスからも、疲れた様子で人間達が出てきた。
そこで経国はこんな話を耳にする。
「ねえ。シリウスのライブの後思い出せる?」
「全然……っていうか、なんで寝ちゃったんだろ?周りも寝てたし……」
「ホラーイベントなかった?」
「え?ないよ、そんなの」
「じゃあ、夢か」
女達は口々にそう話していた。あとから出てきた男性陣もくたくたになった様子でそれぞれの連れに話しかけ、その場で解散したようだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「覚えてない!覚えていない!おぼえていなーい!!」
そう騒ぎ立てているのはみのりであった。
あの後、関係者全員蛍のうちに集まり、休憩する事になる。
そこでライブ後、シリウスの楽屋に行ったまではいいが、会話や出来事をまるで覚えていないみのりは悔しくて叫んでいた。
「うるさっ!黙ってなさいよ!」
「だって!せっかく推しと会話したのに!」
梔子が文句を言うと、すかさずみのりも言い返す。
「2人とも、頭に響く」
それに土帝が苦言を呈すが、2人はまるで聞いていないよだ。
「……なずなちゃん、本当に大丈夫かよ?」
翔一は地べたに座り、右耳を指で押さえながら言った。
なずなはぐったりしている三吉の代わりに食事を用意している。
ここに着いた時、1人だけ元気だったのだ。
腹の痛みもなく、元気に手料理を作ってくれているのだ。
又三郎は安堵した様子で経国に尋ねた。最初に話をした時は、みのりに散々猫が喋ったと騒がれたが、今は受け入れたようだ。
「ああ。そうだな……で、今回の元凶は?」
「それなんだが、鬼八は姿を消して蛍は……」
又三郎と経国がそう話している所で三吉が蛍の部屋から出てくる。
「坊ちゃんが目を覚ましたみたいです。今、でてきますよ」
ふうと安堵したかのようにため息をつく三吉。すると、蛍が部屋から出てくる。
相変わらず不機嫌な様子だが、体調は良さそうだ。
更にいつものようにらなずなへと、脇目も振らず向かって行く。
「……ぺんぺん。あのさ……」
「どうしたの?」
なずなはみそ汁を小皿に入れて味を見ている。
「あの時は……その……ごめんなさい」
「あの時?あ、いいのよ。別に……ねえ、それより、味を見てくれる?」
なずなはみそ汁を新しい小皿に入れて蛍に渡す。
「……ん?ああ……美味しい!」
あまりに大きな声で蛍が騒ぐので、周りは蛍を見た。
「本当?ありがとう」
「ああ……。君の味噌汁が毎日飲みたい!」
蛍がそう言うと、何故か皆が静まりかえる。なずなは何故か顔を赤くして、他のものは口を開けたり、舌打ちをしたり……三者三様の反応を見せている。
「ぶ……はっははは!弟よ、流石だ」
経国は珍しく腹を抱えて笑い出す。三吉、翔一、又三郎も同じように笑い出していた。
それに釣られて、沙羅とみのり、ガラムも笑い出す。
土帝は苦虫を潰したような顔で、梔子は憤慨したようだった。
「くっくく!蛍、お前自分でぶはっ……何いってんのか……くく……分かってんのか?はらいて」
翔一は喋るのがやっとのくらい、笑いが止まらない。
「は?何?」
蛍が、それを『公開プロポーズ』だと知るのはまだ時間がかかりそうだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「無様だな」
そう言って、シュンスケは酒を枡に注いだ。酒はすぐに飲み干され、足りないとばかりにまた酒を注ぐ。
「なんや……もっと骨がある思ったさかい。息子やられたらすぐに逃げ出す……哀れやで」
くすくすと笑うのは、女だった。
「それより、あの娘。いつまで使うの?うち、気に入らんわ」
女は髪を解き、シュンスケが見ている目の前で一糸まとわぬ姿となる。
シュンスケは見慣れている様子で、動揺した素振りは無い。
侍女と思われる少女が女の服を畳んだ。
「おおきに……。お菓子あげるから、あとで来て」
そう言うと、侍女は黙ってその場を去る。
「…… ふん。それより、閻魔の息子だ」
「ああ、あれ?うちのもんやで」
「ふん。お前の趣味は分からん。バラ……いや、今は井原ローズマリーか」
井原はそう言われると、満足そうに微笑む。
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