蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

49 蝋燭と奇跡

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「蛍、どこにいるの?」

幼い蛍は母の手を掴む。

「……僕はここだよ!」

にっこりと笑う。母は優しく握り返してくれた。優しくて、暖かくて蛍は大好きだった。

「ねえ、母さん!ずっと一緒だよね?!」
「そうよ。ずっと一緒よ。大好きよ蛍……」


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 母親だけが全てだった。だから、それを馬鹿にするもの達が全て憎い。

 そして、あの日……自ら母を手にかけてしまった。

「グアアアァァァ!ドウシテ!」

怒りという感情を封印し、悲しみをかき消した。

どんなに周りに蔑まれようと、殴なれ虐められようと悲しくなかった。

それは自分の罰だから、甘んじて受け入れていた。

それでいいんだと。しかし、今いとも簡単に愛する者を奪われた。

「カエセ!カエセ!あれは、僕のものだぁ!」

つんざくだけが虚しく響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






ところ変わって、地獄では閻魔大王が1つの蝋燭を見つける。

人間界にいる全ての命の灯火。いくつも消えてはまた新しく増える。

その中でもうすぐ消えそうな蝋燭の火。なぜだか、その火から目が離せない。

「なんと優しく燃える火……」

だが、火はすぐ消えてしまった。蝋燭の燃え具合からまだ若い人間のものだろうか。

「残念だ……」

閻魔は蝋燭があった部屋から出ると、すぐに鬼が近寄って来た。

それも随分、慌てた様子だった。

「閻魔様!大変です!」
「廊下を走るでない」
「申し訳ありません……ですが、書状が届いております故……」

閻魔は首を振り、巻物の書状を手に取る。さっと読めば良い。

しかし、書状を読むと閻魔はまた再び蝋燭のあった部屋に入ってこう言った。

「まさか……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……ダメだ」
「あとは……」

どうもこうもは、聴診器を耳から外す。

「そんなっ!ねえ、なんとかならないの?!」

ガラムはどうもこうもの肩を揺さぶるが、どうもこうもは首を振るばかり。

「……畜生!俺のせいだ!」

又三郎が自分を攻めるように顔を伏せる。
翔一が泣き崩れ、床を拳で叩きつける。

それを沙羅が見て、なずなの両手を組ませようとする。

「え……?」

一瞬、なずなの手首の脈が動いた気がしたのだ。

もう一度、手首に触れる。今度はしっかりと動き始める。

そればかりか、腹部にあった大きな傷が閉じていくのだ。

「先生っ!」
「こ、こりゃあ!」

どうもこうもが慌てて、聴診器をなずなの胸に当てる。

「まさか……」

すると、なずなはすうと音を立てて、酸素を吸っているのだ。

「なんて事だ!!」
「き、奇跡だ!」


一同、口を開けて、なずなの行動を見る。息を吸って吐いて……繰り返し、徐々になずなの目が開いていく。

「ちょ……なずなちゃん!」

なずなは、滑らかに上体を起こして、立ち上がる。

「………………」

何も言わず、そのまま歩き出した。

「ちょっとなずなちゃん!」

呼び止めた翔一の方へ振り返る。

「……蛍がね泣いてるの。ククリヒメ様が教えてくれたの。どこにいるのかしら?」

なずなはふわりと笑うとそう言った。

「ぺんぺん!何言ってるの?!」
「あら、坊や。鼻水が出ているわ。目が見えるっていいわね。……さあ、蛍を迎えに行きましょ。沙羅さん、閻魔様に遅くなるって伝えて」

なずなは弾むように歩き出している。

「え……まさか、まさか!蓮華様?!」

沙羅の声は叫び声に近かった。




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