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夏休み編
44 近づく気配
しおりを挟む「ハク!コク!」
白い大蛇と黒い猫は、餓鬼達を威嚇しながら、梔子の命令に反応する。
「……ねえ!ガラム!まだ着かないの?!」
必死で走り回るガラムと梔子。ガラムはもう足が取れそうだ。
「あとちょっとだよ!確かこの辺……」
いよいよ、ライブハウスが見えてきたのだ。
しかし、2人の前に餓鬼が立ち塞がる。餓鬼は、梔子に爪を振り下ろす。
ガラムは、腰を抜かして動けない。梔子は腕をクロスして防御の体制を取る。
「……蓑火」
緑色の炎が餓鬼を燃やす。
「蛍!」
「蛍君!」
2人は急いで、蛍に駆け寄る。
「何やってんの?2人とも!一ノ瀬は、ライブハウスに入れ!梔子、君は戦えるだろう?」
梔子は大きく頷き、一ノ瀬はあとから来た土帝に先導されて、ライブハウスに入る。
「蛍、やっぱり助けてくれるんだ」
「ああ。君が今は必要だ」
「あの子よりも?」
蛍は、少し考えた後、そう頷いた。
口元の口角を上げ、梔子は頑張るとガッツポーズを取る。
「ああ。お願いだ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……みのりちゃん!」
ガラムはホールの入口付近で寝ているみのりを揺するが、みのりは一向に起きない。
「え?!どうなってるの?!」
「恐らく、催眠術……いや、妖術の類いだろう。中に入れ。羽山くんも運ぶ」
土帝はみのりを横抱きに、ホールに入っていく。
「すごっ!ぺんぺんも……」
周りの人間達は、まるで赤子のようにすやすやと眠っている。
「……安心しろ。妖怪の術だ」
「え?それ、安心できないんじゃあ……」
ガラムは少し土帝の様子が変わったような気がした。
何故か以前よりも優しく見えたのだ。
「なずな……必ず護るから。ガラム、ここから絶対動くな……」
そう言って、土帝が外に出ていく。
「……なんだかよく分かんないけど」
ガラムは周りを見渡し、周りが一向に起きない事を不気味に思いながら、それでも安心感を覚える。
ホッとしたのも束の間。皆、寝ているはずなのに何故か足音がした。
コツ……コツ……コツ……。
周りが静かすぎて、足音はやたら大きく響いた。
「……ほ、蛍君かな?そうだよね、きっと」
ガラムは自分にそう言い聞かせ、何とか理性を保とうとする。
「ニャー!」
「ぎゃあ!」
素早く何かが飛んでくる。大声を出し、ガラムは飛び上がって、尻もちをつく。
「……んっ?うーん」
近くにいたなずなは、大声で目を覚ましたのか、瞼を擦り、上体を起こす。
「ぺ、ぺんぺん今さっき……あれ猫?」
ガラムは、なずなの横に1匹の灰色の猫がいるねに気付く。
「ガラム?何でここに?あれ、又三郎も……」
なずなはきょろきょろと周りを見ている。すると、みのりが横で寝ているのに気づいた?
「みのり!みのり!」
だが、いくら身体を揺さぶってもみのりは目を覚まさない。
「……起きない。どうしよう」
すると、又三郎が心配なずなの膝にポンとなり、慰めるように顔を見上げた。
「……大丈夫だ。しょうけらの術だからな」
「さっき僕も起こしたんだけど、起きなくて……って……」
ガラムはゆっくりとなずなの膝を見る。
「ねえ……今、猫が喋らなかった?」
指先を震わせながら、ガラムは又三郎を指さす。
なずなは、ガラムが又三郎が妖怪だと知らない事を思い出した。
「この子も妖怪なの。でも、とってもいい子、賢い子なの」
賢いと言われ、又三郎は気を良くしたように体を伸ばす。
「そ、そうなの?そ、それよりさっきから誰か……」
「ああ。嫌な予感がして、戻って来たんだ……多分"鬼"だ」
鬼と聞いて、なずなとガラムが青ざめる。
「……来たようだな」
又三郎は静かに、臨戦態勢を整えたのだった。
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