蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

43 混乱を沈める

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 やはり、妖気が強くなって行く。

  妖怪は1匹、2匹では無い。店側に近づけばちかづくだけ複数の妖気を感じる。

  ネズミ1匹なら弱いが、それが集まれば建物1つ崩壊させるのは容易いだろう。

  ホールに入ると、やはり妖怪は1匹や2匹では無い。

「餓鬼か……」

 蛍は妖怪を見るなり、そう言った。

「三吉!土帝!一体どういう事だよ?」
「知るか。それはこちらが聞きたい」

 餓鬼は、3匹。すると、そのうちの一匹が飢えた獣のような口を開け、唸り声を上げ蛍に襲いかかろうとはした。

「坊ちゃん!」

 三吉は猛スピードで、蛍に襲いかかろうとした餓鬼の首根っこを掴んで、そのまま地面に叩きつける。

「……こいつら、鬼門から脱走したのか?」

 残りの2匹も唸り声を上げている。

「恐らく……。が、しかし、こやつらだけの行動とは思えん」

 確かに、餓鬼に考える脳があるとは思えない。それくらい煩悩的に行動するのだ。

「どういう事?」
「蛍くん!え……妖怪?」

 なずなが来た事で、ますます餓鬼はしたのだろう。さらに唸り声を上げて机や椅子を壊し始めた。

 他の人間達は、なるべく遠くに退避している。

「おい。とりあえず、今はここは危険だ!店から出ろ」

 土帝がそう叫んだ時であった。

「ニャー」

 1匹の大きな猫と男が店に侵入して来る。

「お、おいおい!ここもかよ!」

 猫はもちろん又三郎、男は翔一だ。

 又三郎は、唸り声を上げて2匹の餓鬼に向かっていく。

 ライオンが獲物を喰らうが如く、又三郎は1匹の餓鬼を大きな爪で引っ掻いたと思うと、もう1匹に噛みつき、首を噛み切り落としたのだ。

 餓鬼は血飛沫を上げ倒れていく。

 周りの人間達はその様子を見て、目を覆うもの、口を抑えるもの、呆然と立ち尽くし何も出来ないもの……反応は千差万別だった。

 なずなは口を押さえ、ぷるぷるの震える。

「なんだ?あれ?!」
「映画の撮影?」
「怖い怖い怖い!」

 もはや、店内はパニック状態だ。収集が付かなくなって来た。

 蛍は深呼吸をすると、出来るだけ大きな声でこういった。

「皆さん。落ち着いて下さい。我々は警察です。今現在テロリストが街を蔓延っています。我々がいいと言うまでこの建物から外に出ないで下さい」

 我ながら、滑稽な芝居だと思った。だが、警察という言葉に人間達は安心したのか、信じた様子だった。

 まだ少しザワついているが、さっきよりましだ。

 蛍は翔一の胸ぐらを掴み、何か囁いた。

「え……まあ、出来るけど」
「よし。土帝、耳を塞げ!」

 土帝は一瞬、怪訝な顔をしたが耳をぐ

 土帝が耳を塞いだのを確認すると、翔一はお経を唱え始める。

 すると、次々人間達が倒れていく。

 蛍は、その場に倒れそうになったなずなを支える

 こうして、その場にいた土帝以外の人間達は寝息を立てている。

「これでいいだろ?」
「ああ。これ以上混乱されても困るしな……」

 土帝は、耳を塞いでいた手をゆっくりと放した。

「これは一体……」
「安心しろ。しょうけらの妖術で眠らせただけだ」

 今度は猫が喋るのでびっくりする土帝だが、すぐに事態を理解する。

「なるほど……俺以外は妖怪という事か」
「ああ。霊力が弱くて、妖力から逃れられない人間はすぐにかかっちまう。その点、耳を塞ぐだけで防げげたんだ。凄いな……」

 又三郎はそう言うと、身体を小さく元の大きさになった。

「しっかしよ?蛍、何もなずなちゃんまで術に掛けることはねえじゃねえか?」
「翔一、お前さん。坊ちゃんの気持ちも察せんかい!」

 三吉に諭され、翔一は手をぽんと叩いた。

「……田中蛍。ありがとう」

 土帝は、蛍に近づくとそう言った。

「何がだ?」
「お前は、なずなを……」
「彼女は役に立たない。それだけだ」

 蛍は振り返ることなくそう言った。

 そのまま、そっとなずなを床に寝かせる。なずなの手
 をお腹の辺りに置いた。


「さて、ここにいるのは5人。街にはどれくらい餓鬼がいる?」

 蛍が又三郎に尋ねた。

「さあな。だが、街全体にいるのは確か……」
「じゃあ、手分けするか。三吉、梔子くちなしに連絡できるか?」

 三吉はスマホを取り出し、梔子に電話をするが、繋がらない。

 そんな時、土帝のズボンのポケットからバイブ音が鳴る。

 土帝は、スマホと気づき、ポケットから取り出した。
 スマホを見ると、ガラムからの着信だった。

「もしもし、ガラムか。悪いが後で……何?分かった」

 土帝は、蛍に電話を渡す。

「ガラムからだ」
「一ノ瀬?何だよ!こんな時に……」

 蛍はイライラした様子で、土帝のスマホを受け取る。

「……一ノ瀬、何の用だ?!」
『ど、怒鳴らないでよ。今、西表さんに蛍君に連絡するように頼まれたけど、連絡先知らないし、ぺんへんは繋がらないし。変なゾンビみたいのに襲われているんだ!』
「は?分かった!いいか?そのまま、ライブハウスまで来るんだ!場所は……」

 蛍は住所を言い終わると、土帝にスマホを返す。

「……悪いけど、全員表に出て。餓鬼を一掃する」 

 三吉は自身のカバンから黒筒を出し、蛍に渡す。

「さあ、懲罰の時間だ!」

 蛍は高らかに笑ったのであった。

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