蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

37 雲行きと悪巧み

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  さすがにみのりもギョッとした。

 蛍の保護者が来るとは聞いていたし、これで会うのも2回目なのだが、やはり2mを越えた巨漢には慣れない。

 「やあやあ、お久しぶりです」

満面の笑みでそう言ってきて、やっぱり少し引いてしまう。みのりは、なずなの後ろに隠れる。

「……大丈夫よ、みのり。三吉さんはとても優しいから」

後ろに隠れるみのりになずなは苦笑いをする。

「まあ、普通の女の子には怖いよな」

蛍は肩をくすめる。

街は相も変わらず、人の行きかいが多い。営業周りの会社員、ビラ配りをする人、仲間と夏休みを謳歌する学生……。

いつもと変わりないなと、蛍が考えていると誰かがぶつかって来た。

「いったあ!」

ぶつかって来た人物は同じくらいのTシャツジーンズ姿の少女で、尻もちをついている。トートバッグから、少し荷物が転がっていた。

「大丈夫ですか?」

蛍がその少女に手を差し伸べる。なずなも落とした荷物を広い、少女が立ち上がると渡す。

「ごめんなさい。私ったらドジで……あ、あれ?なずなだよね?」

なずなは、驚いたように少女の顔を見た。

「あ、ほら!ひなだよ!ひな」
「え……ひな?」
「そう!元気にしてた?偶然!超嬉しい!」

少女はなずなの手を取り、ぴょんぴょん飛び跳ねる。

「どこに行くの?」
「私たちは、シリウスってバンドのライブに行くんだ」
「シリウス?へえ!あ、時間ないからまたね!」

少女は慌てながら、走り去っていく。

「……さっきの子、なんか見た事あるような?」
「みのり嬢、偶然ですな。あっしもです」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「どうもきな臭いね」

猫の又三郎は、ビルの谷間から空を見上げてそう言った。

空はあんなに晴天なのに。……雲行きが怪しげである。

ふと、広告が1枚風で飛んで来る。広告の内容は、女が何人か扇情的な格好で映り込んでおり、小さく1時間いくらと書かれたものであった。

配っているのは、金髪の男だ。だが、この男普通ではない。

又三郎は、わざと男の足に擦り寄り、やったのだ。

「……ん?げっ!汚ぇ!クソこの野良猫がぁっ!」

男は、又三郎を蹴り飛ばそうとするが、又三郎は上手く避け、男の顔に飛びついた。男は前が見えなくなり、又三郎を退けようとふらふらとし、そのままズドンと尻もちをついたのだ。

「よお、あんた。人間じゃねえだろ」

又三郎は、その男の耳元で囁いたのだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 地獄からやっと人間界に辿り着いた新八は、義理の親である鬼八を尋ねて裏路地のバーに来ていた。

「……街を破壊する?」
「ああ。それと依頼はもう1つ」

鬼八は、1枚写真を取り出す。

「……人間の女?」
「ああ、そうだ。てめぇにも関係あるぞ」

新八は首を傾げる。女の顔に見覚えはない。誰かに似ているという訳では無いし……。

「そいつはな……羅刹童子、いや閻魔の息子の女だ」

新八は、一瞬顔をしかめた。久々に思い出した嫌な顔。

「てめぇは、俺が育てたにも関わらず、妖怪監獄で真面目に働きやがって……出世するか否かで、急にソイツが現れて、全てをぶち壊された」

新八は唇を噛み締める。

元々、新八は前任の看守長に継ぐ程の実力があり、前任者が引退すれば、自分が時期看守長に……。

しかし、それが覆る事となる。閻魔の息子蛍が看守長になる話が浮上したのだ。

人間との混血でろくでなしと聞かされていた。どうせ、すぐに失脚するとタカをくくっていた。

しかし、看守達に規律を徹底的に守らせ、就任後脱獄率50パーセントだったはずが、10パーセント以下にまで低下。

それは、日常的に行われていた懲罰を蛍は減らし、囚人達の労働時間など人道的な指導を行った。

だが、蛍は何かと惰性的で怠慢が酷かった。

そのギャップが新八は許せなかった。

「奴はかなりこの女に入れあげている。どうだ?興味が湧いてきたか?」

鬼八に言われて、新八は唾を飲み込むと、こくりと首を縦に振る。

「奴がもし、羅刹になって街を破壊すりゃ、人間界にいられないどころか、看守長の座だって追われるさ……そうすりゃあ、おめえ」
「はははっ。そうか、奴さえ……奴さえいなくなりゃ?!」

新八は、水を一気に飲み干したのである。
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