蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

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夏休み編

31鬼の企み

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 ここまで来れば……。

ショッピングモールを抜け、ようやく廃寺まで来た。
そこには、今にも崩れそうな御堂が立っている。
噂通り、呪われそうな感はある。

坂本は暑さ以外の汗をかいていた。

 土帝は、約束を守る男だ。実は、入学当初に土帝と坂本は喧嘩をしている。理由は坂本にあった。

坂本は、家柄もよく、周りからの評判のある土帝が気に入らなかった。同じ年で、同じ学校に通う人間なのに全然自分と違う境遇。それが理不尽としか思えなかった。

今、思えばそんなことで難癖をつける自分の方がよっぽ.ど理不尽だ…坂本は苦笑する。

そして、喧嘩で勝ったのは、土帝だ。どう考えても、坂本は土帝よりも体躯が大きいはずなのに、いとも簡単に負けたのだ。

「秘密にしといてやる」

土帝には、そう言われた。土帝は、周りに勝った事を誰にも自慢しないどころか、喧嘩の事すら言わなかった。

ただ、二年に上がる時に今日のことを言われたのだ。

「1度だけ、俺の幼なじみを誘拐して欲しい」

誘拐とはいえ、ただ脅してここまで連れて来ればいい。

あとは、逃げ出さないように目隠しと手錠をしてここに置きざりにすれば良い。

坂本は、辺りを見渡す。実は、昨日話した老人が用意してくれる事になっていた。

「爺さん!」

坂本がなずなの後ろに立ったまま、お堂の方へそう叫んだ。

(この声、やっぱり聴いたことがある)

「……おお。待っていたぞ。若者……」

そう言って、お堂から出てきたのは老人ではなく、人でもなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昨日の話だ。坂本は、とある神社を訪れていた。あまり来た事がない場所だが、なんとなくそこでのんびりしていた。


「どうしたんだ?こんなところで」

境内の石段に座り、うとうとしている最中に老人に話しかけられる。


その老人は、背が高く体も大きい為、老人には見えない。だが、顔に刻まれたシワで坂本は老人としたのだ。


「いや、ちょっとな」

坂本は、何故かこの老人に身の上話を始めた。

父親、家族、学校……今回、成功すれば、土帝家が経営する大手旅行会社に就職出来る事。

その中で、蛍の話が出た。土帝は、蛍の事を異様なまでに嫌っていると……。老人は、やたら蛍に関心を示していた。

「……で、そいつは色も白くて、銀髪」
「前髪は伸ばしていなかったか?」
「ああ。左目に掛かっていたけど、周りが見えにくくないか」

「奴は、ちゃんと見えている。間違いなく閻魔の息子だ」

閻魔と聴こえたが気のせいだろうと、坂本は気にしなかった。 

「……明日、手伝ってやるよ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




老人はお堂で待っててくれて、ただ土帝が来るまでなずなを見張っていてくれる予定だった。もしも、見張っている最中に顔がばれては元も子もない。ばれてしまえば、トラブルになる可能性もあるのだ。

見張りがいれば、自分がずっとそこにいる必要はない。顔がばれるリスクもなくなる。

今目の前にいるのは、老人のはずだった。

「……あんたは鬼八爺さんの知り合いか?」

そんなわけない、目の前にるのは化け物だ。体躯は大木のように大きく、皮膚は鎧のように固そうだ。一番目を疑ったのは、額の部分に二本角が生えている事だった。角はひび割れたように年季が入ったものだった。

だが、鬼はにやりと笑い頷く。

「よく知っているよ!俺自身だからな!」


坂本は、目の前の化け物にくぎ付けになっており、チャンスとばかりになずなは胸元の笛を思い切り吹く。

すると、ピーというけたたましい音がなり響く。坂本は、慌てて耳を塞いでナイフを落として待った。

その事に気付いたなずなは後退り、体を返して逃げようとする。

「どこへ行く!?」

いつの間にか、鬼八が目の前に現れる。なずなはただ呆然となり、口をパクパクさせた。

「おめえは、大事な餌だ。閻魔の息子をおびき寄せるな……!」

鬼八は、手刀でなずなの首を叩くとなずなはその場で倒れ込んだ。そして、なずなを担ぎあげた。

それを見ていた坂本は叫んだ。

「なんて事しやがる?!」
「ああ?そういやあ、おめえもいたな……」

鬼八は坂本の腹を殴り、軽々と担ぎあげる。

(……拳が見えなかった。それになんて力だ)

坂本は気を失う瞬間にそう思ったのだ。

鬼八は、二人を御堂に投げ入れるとなずなの方に近づいて顎を掴む。

「ほう……なかなかの美貌。それに雰囲気が蓮華れんげに似ているなぁ……」

鬼八は、なずなの顎を放す。

「……ああ。早く来い!蓮華の息子!!」





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