蛍地獄奇譚

玉楼二千佳

文字の大きさ
上 下
30 / 109
夏休み編

29ショッピングモールの乱

しおりを挟む
 「でも、意外ね」

ここは、大型ショッピングモール。雑貨や服飾、本屋や家電量販店などのテナントが立ち並ぶ。

スーパーも併設されていて、店内は家族連れやカップル、グループなどで賑わっていた。

二人は、なずなが好きな雑貨屋に来ていた。

「何が?」
「宗ちゃんがモールに来るなんて……」
「そんなにおかしいか?」

土帝は、苦笑いをしてくすくす笑うなずなを見た。

「だって、宗ちゃんのおば様、高級デパートに行くイメージだし、服だってブランド物ばかりだから」
「服はお袋の趣味だし、俺はあんまり興味が無いからな。それに学生の身で、お小遣い制だからな。嫌だったか?」
「ううん。そんな事ないよ!」

なずなは首を振り、嬉しそうに笑う。

「……まあ、大学卒業して就職したら、毎日でも連れて行ってやる」
「そんなの宗ちゃんの彼女になる人に悪いよ」
「できるわけないだろう。そんなの」

そう言って、土帝はなずなの頭をそっと髪を梳かすように撫でる。

「え……。あ、このぬいぐるみ可愛い」

なずなは慌てて、商品のぬいぐるみを取る。

「あ、半額になっている」

そうは言ったものの、なずなはぬいぐるみを元の位置に戻した。

「買わないのか?」
「うーん。今回は妖怪の本が欲しいんだよね」

なずなが少し照れ臭そうに答えた。

「妖怪……」

土帝は、まさかと思ったが、これ以上詳しく聞きたくなかった。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……人間ばっかりね!」
「当たり前だろ。人間界なんだから」

ショッピングモールに着くなり、梔子くちなしに文句を言われて少しむっとする蛍。

「それにしても、あの子彼氏いたんじゃない?」
「彼氏……?」
「一緒にいた男子、あのなずなって子の彼氏でしょ?」
「違う!付き合ってない!」

蛍は、顔を真っ赤にして否定する。梔子は、びっくりしたのか眼を見開く。

周りの人間達も、蛍の大声にびっくりしてジロジロ二人を見ていた。

「そんなに怒鳴らないでよ」
「いや……あの二人はそんな関係じゃない」



その後は、たわいもない会話が続いた。

すると、ポップな看板の雑貨屋を見つける。

「へえ。なんか色使いが面白いね!ちょっと入ってみようよ」

梔子が蛍の腕を引っ張り、雑貨屋の入り口前まで行く。

「おい!引っ張りるな!」

蛍は抗議したが、女の子の梔子を無理やり剝がす訳にもいかずそのままついてくる。

雑貨屋には、色とりどりのバックや小物、化粧品に至るまで女の子が楽しめそうなもので溢れかえっていた。

店内にはもちろん、同じ年くらいの少女もいたが、カップルもいる。その中には、その店に似つかわしくない大柄な男もいたが……。

レジの方から、カップルと思われる話し声が聞こえてくる。

「本当にいいの?」
「ああ。半額だしな。まあ、鬼のぬいぐるみなんて節分の時くらいしか売れないからだろう」

その二人の様子は、少し低い商品棚から顔を出せば様子を窺えた。普段なら興味もないが、声に聞き覚えがあり、もしかしてと覗いてしまった。

案の定、やっぱりなずなと土帝で、蛍は覗いてしまったことを強く後悔した。

蛍はバレないように、商品の品定めをしている振りをする。が、それでもやはりレジが気になる。

「宗ちゃん、ありがとう」
「別にいいさ。そんな大した金額じゃない」

やっぱり、いけ好かない……蛍はそう思った。

二人がレジを終える。なずなが、小さな紙袋を持ってこちらに来る。

蛍は、見つかりたくないと必死で顔を下げる。

「ねえ!蛍、これ可愛くない?」

すると、梔子が蛍の肩を叩き、大きな声でそう言った。

「……あれ?蛍くん達?」

なずながこちらに気付いてしまったようだ。蛍は顔をしかめつつ、ゆっくり顔をあげる。

顔を上げた先では、土帝が嘲笑うかのようにこちらを見ている。

その顔は、まるで勝ち誇ったかのように蛍には見えたのだ。

「……あなた達も来てたの?」

梔子は、蛍の半袖の裾を優しく引っ張り、上目遣いで見た。

「ねえ、これ可愛いよ。色違いもあるし……」

梔子が見せたのは、ピンクと水色の猫のキーホルダーだ。

「へえ。お揃いで買ってあげたらどうだ?」

土帝に言われて、蛍はなずなが大事そうに抱えた紙袋を見た。

「分かった。梔子、それ」
「いいの?嬉しい」

梔子は2つのキーホルダーを蛍に渡す。



レジを終えると、なずなと土帝はいなかった。梔子に、二人のことを聞く蛍。

「え?ランチに行くって!それよりも……」

梔子が蛍が持っている紙袋を指さした。蛍は、紙袋を渡すと、梔子はさっそく中を開けた。そして、水色の方を蛍に差し出す。

「はい。これ」
「え?2つ欲しかったんじゃないの!?」
「何言ってんの?お揃いだよ」
「いらない。いらないから」

こうも強く言われてしまえば、さすがの梔子も黙って引き下がるしかなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

なずな達は、ランチのため、イタリアンレストランまで来ていた。

この店は、パンが食べ放題になっていて、さらに平日ランチは格安で提供されている。肉料理か魚料理から選べ、さらにドルチェが一つついてくる。

ウェイターが席を案内してくれて、なずな達は席に着く。

「パンの香りがいいな……。なずな。料理は決まったか?」
「…………」
「なずな?」

なずなは、土帝に呼ばれ、はっとする。

「あ……ごめんなさい」
「……魚料理、お前が好きな鮭のムニエルあるぞ?」
「……本当ね。ドルチェは桃タルトがいいな」

土帝がウェイターを呼び、注文をする。蛍くんの事嫌いなの?」

土帝が首を振る。

「……なんでそう思うんだ?」
「ううん。違うならいいの」
「そんな事より、パン選ばなくていいのか?俺の分も頼む」

なずなが席を立ち上がり、パンを選びに行く。土帝はズボンのポケットからスマホを取り出して操作する。

パンは、バイキング形式でたくさんの種類がある。パンは1口サイズでたくさんの種類があり、なずなは数種類を選んで席に着く。



「美味かったな」

料理を食べ終わり、土帝はナプキンで口を拭う。

「うん。桃、美味しかった」
「じゃあ、先会計だけ済ませてくるよ。手洗いしたいだろ?」
「あ、うん。後でお金渡すね」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


なずなは、用を済ませ、髪を整えてからトイレから出る。

トイレの前では、待ち人の為に簡素なベンチが置いてある。

ベンチ付近には、フードを被った大柄な男が一人いる。

暑いのに、パーカーを着ている事になずなは不審に思った。

なずなは首を傾げながら、そのまま通り過ぎようとする。

ふと、背中に何かが当たる。

「騒ぐな。黙って着いてこい」

声は、何故か聞き覚えがあったが、それよりも恐怖の方が勝った。


しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

処理中です...