最強少女のおすそわけ

雫月

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第一章 王子と迷子の冒険編

第7話 【ヴェルーンガウスの秘宝】

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「……ふあぁー……あ~……。」

「うーん。久しぶりに会ったけど、ずいぶん疲れた顔してるわね。大丈夫?」

「あ……はは。ちょっと、寝不足です……。」

 明るめの茶色い長い髪をなびかせ食堂の席に着く若い女性は、心配そうに隣の席にいるリケアに声をかける。
 大きなあくびをしていたリケアは大丈夫と笑顔を見せるが、口元がひきつっていてオマケに目にはクマができいた。

 ガルトリーは今日も雪模様。昨夜から降り積もる雪のおかげで朝から冷え込みが激しい。
 しかし城内にある広い食堂にはそんな冷え込みなど微塵も感じさせないほどの暖かい料理が並んでいる。

「シエル。あなたリケちゃんにまた悪さしてないでょうね?」

「ギクッ!そ、そんなことしてらりるん。」

 女性の青色の瞳はテーブルの対面に座っているシエルに向けられる。その表情は少し険しく、嘘が苦手な正直王子はしどろもどろに言葉を噛んだ。

「だ、大丈夫だよ姉さん。いつも仲良くしてるよエヘヘヘヘ。」

「バカ!お前は余計な事喋んな。バレるだろうが。」

「……リッツ?」

 シエルの横で耳打ちするリッツも同じように睨まれる。

「げっ!じょ、冗談スよセティール様。俺ら悪さなんて全然アハハハ。」

「どうなの?リケちゃん?」

 シエルの姉セティールの問いにリケアは無言で首を横に振る。

「……はぁ、まったくもう。」

「ハッハッハ!若ぇよなおめぇらは。」

 呆れ顔のセティールの隣には大声で笑うセルイレフが、そのまた隣にアリアスが座っている。

「笑ってる場合じゃないでしょセルイレフ。誰の影響でこうなったと思ってるの?」

「おー怖ぇ。でもよセティール。おめぇも人の事言えねぇぜ?おめぇがシエルぐらいの歳にゃ、コイツらがビビっちまうくれぇワルだったじゃねぇかよ。俺も手を焼いたモンだぜ。」

「なっ!ちょっ!それは言わないでよ!?」

 説教するつもりだったセティールが逆に過去を蒸し返されてあたふたしている。

「…………」

「……その顔は何よアリアス。笑いたかったら笑っていいのよ?」

「いえ……。めっそうもございません。」

 意地悪そうな顔をしながらも表情豊かに笑うセティール。
 彼女はシエルより5つ年上の22歳。美しい容姿とは裏腹に日頃からあまり目立たない地味なドレスを好んで着ている。
 おしとやかな性格でその落ち着いた雰囲気から年齢よりも大人びて見えるのだが、彼女を知る者全員が「怒るとスゴく怖い」と口を揃えて言う。

 普段の食事はシエルとセティールの二人で取ることが多い。たまにセルイレフがいたりもするが、今日の食卓はいつにも増して賑やかだ。

「……あの、その……。美味しい、ですか?」

「……うん。」

 黙々と料理を食べているユグリシアの隣でリケアは懸命に声を絞り出す。

「おおスゲェ。リケアのやつ頑張ってんな。」

「そうだね。意外と荒療治でいいかも。」

 ヒソヒソと話すリッツとシエル。
 昨夜の悪ノリでリケアの反撃を警戒していた二人だが、ユグリシアと一夜を過ごしたリケアの消耗具合は予想以上だった。
 セティールに怒られたのもあり、少し反省する二人だったが、頑張って声をかけるリケアをもう少し見守る事にした。

 と、そこへシエルの背後に杖をついた小柄な老人が現れる。

「シエル王子!聞きましたぞ!昨日は大事な会合をサボって遊びに行かれたと!」

 老人は容赦なく杖でシエルの頭をボカッと叩く。

「いって!……やべ!ゲン爺!?」

「あーあー。うるせぇのが来やがったぜ。」

 老人の登場にシエルとセルイレフが露骨に嫌そうな表情に変わる。

「まったく嘆かわしい。シエル王子はいずれこのガルトリーを背負わねばならない立場なのですぞ。それなのにセティール陛下に国の政治を任せきりとは何たる事ですか!」

 まるで普通の家庭のような和やかな雰囲気に包まれているが、現在このガルトリー公国を治める王はセティールなのだ。
 シエルとセティールの両親、つまり前国王夫妻は今から7年前に病で二人とも亡くなってしまっている。この世界では15歳で成人扱いとなるため、当時ちょうど15歳だったセティールがそのまま王位継承を冠した。

 とはいえ若すぎる新国王に他国から危ぶまれる声も多かった。しかしセルイレフと宰相のゲン爺ことゲンラウのサポートと、家族と変わらない程親密な国民とが一体となってセティールを支え続けてきたのだ。

「……先々代の国王様からガルトリーに仕え70年になりますが、シエル王子が歴代で一番心配ですぞ!?」

 ガルトリー公国を陰で支えてきた功労者であるゲンラウは御歳105歳。彼は人間とエルフのハーフなので普通の人間よりも少し寿命が長い。「生涯現役」がモットーのパワフル爺さんだ。

「わかってるってゲン爺。でもさ、冒険者は遊びでやってるんじゃないんだぞ?」

「同じ事です!学業まで疎かになっているのが何よりの証拠。」

「いいじゃねぇかゲン爺よ。学校で学べる事なんざたかが知れてんぜ?」

 セルイレフが横やりを入れる。するとゲンラウは勢いよく杖をセルイレフとアリアスに向ける。

「だいたいそなたたち騎士団がシエル王子を甘やかし過ぎるのだ。日頃から無許可の外出は許すなとキツく言っておるだろう。逃げられたのはこれで何度目だ?」

「さぁて。何度目だっけなぁ?アリアス。」

「100回までは数えていたんですが……。」

「ええい黙らっしゃい!ともかく!これ以上の無許可の外出は固く禁じますぞ!」

 ゲンラウは小柄な体を震わせながら杖を振り回す。

「はぁー、いっつも小言ばっかりだなぁゲン爺は。冒険者だって立派な職業じゃんか。昨日は初クエストを達成して報酬も貰ったんだぞ?」

「ほれ見なさい。冒険者などと現を抜かしているからクエストを達成でき……ほえぇ!?」

 ゲンラウはアゴが外れそうな程ビックリした顔でひっくり返った。

「あ、あの王子がクエストを……?え、マジで?」

「マジで。」

「ちょっとゲン爺?シエルのチーム作りは私が許可したのよ。勝手に禁じないでくれる?」

「へ!?陛下が許可された……?マジで?」

「マジよ。」

 ひっくり返ったままのゲンラウは老人とは思えぬ身のこなしで素早く立ち上がり、何事もなかったかのように豊満に蓄えた髭を撫でる。

「……オホン。ま、まぁそういう事なら仕方ありませんな。」

「シエルたちは自由にさせといていいから放っといてあげてよ。……それよりホラ、私に用があるんでしょ?」

「お、おぉそうでした。陛下の今日のご予定についてですが……」

 一国の王であるセティールは朝から予定がビッシリ入っており大忙しだ。
 ゲンラウの話を食事しながら聞いているセティールだったが、昨日シエルが持って帰ってきたパンを口にした時、

「あ!美味しい~!やっぱあの店のパンは最高だわー!」

 食事に夢中でほとんど聞いていない様子だ。(やっぱり姉弟って似るんだなー)と、ユグリシア以外の全員が同じ事を思っていた。

「……お食事中に失礼します。団長、少しお話が……。」

 そこへ夜間任務を終えたダレンが食堂へと入ってきて、セルイレフとアリアスに報告を始めた。

「お?どうした?」

「はい。今朝方【天使の夜明け】から緊急の依頼要請が入りました。人手が足りなくて困っていると。」

「ほう?珍しいな。アリアス、俺たちの予定ってどうなってたっけ?」

「……自分の部隊くらい把握しといてくださいよ。……団長の部隊は陛下の護衛、私の部隊は【クリスタルロード】へ視察のため、手が空いていない状況です。」

「ギルドマスターさんはいねぇのかい?」

「えぇ。生憎留守にしております。もうじき戻ってくるとは思うのですが……。」

「……なるほどな。おい!【カーバンクル】!仕事の依頼だぜ!」

 セルイレフは即座に対応を決断し、声を張り上げる。途端に場の空気がピシッと引き締まった。

「冒険者ギルドからの依頼だ。何やら忙しいみてぇで人手が足りねぇんだとよ。残念ながら俺たちは行けそうにねぇんでな。おめぇら行ってやってくれや。」

「お!?おぉ!!」

「は、はい!」

「よっしゃ!やるか!」

「……おー。」

 ちょうど食事を終えた【カーバンクル】のメンバーは意気揚々と食堂を走って出ていく。その後をユグリシアも小走りでついていった。

「……とまぁ緊急だったみてぇだから文句はねぇなゲン爺よ?」

「ぬぬぬ……。仕方ありませんな。」

「なーんかそっちの方が楽しそうだなー。私も行きたかったわー。」

「陛下はダメです!!」

「ちぇー。」

 ふてくされた顔をするセティールだったが、楽しそうに走っていくシエルの姿を見て安心した笑みを浮かべた。


────────────────


「おいどけよ!見えねぇだろ!」
「バカヤロー!こっちが先だ!」
「何言ってる!オレたちの方が早かったぞ!」

 それはいつもの街の賑わいとは違っていた。冒険者ギルド【天使の夜明け】に人が押しかけている。その数は今もなお増え続け、建物の外まで溢れかえっていた。

「落ち着いてくださーい!クエストの受付は順番に行っていますので列に並んでください!」

「列ってどこだよ!早くしねぇと締め切られちまうじゃねぇか!」

「ですから、このクエストは参加制限が無いので大丈夫ですと言ってるでしょう!」

「うるせぇ!チンタラしてたらお宝が他の奴に取られちまうんだよ!」

 ギルドの職員総出で対応に当たっているが、数が多すぎて順番待ちの整理が間に合っていない。これでは業務が全く出来ない。

「……うーわ。なんだよこれ?」

「ひえぇ……。人がいっぱい。見てるだけで酔いそう……。」

「……お祭りみたい。」

「どうしたんだろ。こんなに人が多いのは初めて見るな……あ!」

 ギルドの入り口付近でシエルは何かを見つけた。

「ニャム!大丈夫か!?」

 人混みをかき分け倒れているニャムに駆け寄るシエルたち。その姿はぐったりしており、かなり疲弊している様子だ。

「ニャ~……シエル……。大丈夫だニャ。ちょっと疲れちゃっただけニャ……。」

「どうしたんだ!?この騒ぎは一体……」

「みんな冒険者さんたちニャ。昨日受けたクエストの依頼を今朝発表したんだけど……あっという間に噂が広がって大混乱になっちゃったニャ。」

「……昨日受けた依頼?」

 三人の脳裏に昨日のギルドでの出来事が甦る。

「まさか、【ホーリーレイズ】のヤツらか?」

「はいニャ。依頼主は聖王国クイーンガルト。依頼内容は……」

「……【ヴェルーンガウスの秘宝】か……!」

 それは今世界で最も有名で最も謎が多いとされるもの、【ヴェルーンガウスの秘宝】。
 かつて1000年以上前に一国で文明を築き栄華を誇り、その後滅んだとされるヴェルーンガウス王国。その国もまた多くの謎を残しており、文献や歴史書にもほとんど情報がない。

 事の発端は聖女ガルトが世界に平穏をもたらした頃に王国跡地で見つけた一つの宝石だった。
 後に【ヴェルーン晶石】と呼ばれる水晶のような青白い輝きを放つ宝石だが、調べるとその中には非常に純度の高い魔力が込められていた。
 そこからヴェルーンガウスに関する情報が暗号化された魔力に変換されていることが判明し、数少ないヴェルーンガウスの謎を解明できる手がかりとなった。

 更にその後の調べで【ヴェルーン晶石】は世界各地に存在する事が解明され、聖女ガルトはそれぞれの地を治めるかつての仲間に再び協力を仰ぎ、腕の立つ者たちを集め【ヴェルーン晶石】を回収することとなった。これが現在のギルドの起源と云われている。
 そして1000年経った今でも【ヴェルーン晶石】を探す作業を【ヴェルーンガウスの秘宝】というクエストとして続いているのだ。

「……ニャんでもこのガルトリーの周辺に【ヴェルーン晶石】の反応が確認されたらしく、聖王都からの正式な依頼として受理されたワケだニャ。」

「それでこの騒ぎか。そりゃそうなるわな。」

 【ヴェルーン晶石】を探し始めて1000年。過去に【ヴェルーン晶石】を発見できた例は数件しかない。
 未だ謎に包まれた宝石だが、それを見つけた者は巨万の富を得る、絶対的な力を得ることができるなど、一瞬で人生を変えられるという根も葉もない噂がいつの間にか広がっている。
 しかしそれでも数多くの冒険者はほとんどの最終目標は【ヴェルーンガウスの秘宝】に焦点を定めているのだ。
 そのまたとないチャンスが目の前にあるとなっては、この混乱も頷けるだろう。

「……だがこれじゃ全然収集がつかねぇな。」

「はいですニャ。オイラも朝から対応に当たってたけど、もう体力の限界ニャ……。」

「安心しなよニャム。俺たちはギルドの依頼で手伝いに来たんだ。あとは任せてよ!」

「いよっし!いっちょやるか!シエルはユグリシアと一緒にこの辺のヤツらを整列させとけ。俺とリケアは中に入って騒ぎを一旦止める。」

「え、俺も中に行くよ。」

「バカヤロー。お前があの中に入って生きてられんのか?」

 入り口付近は屈強な冒険者たちで溢れかえっている。興奮状態の彼らを押し退けて中に入るのは相当厳しいといえる。

「……フッ、俺の本気を見せる時がきたようだな。」

 シエルは腕捲りをしながら自信満々に冒険者の集団へ飛び込んでいったが、秒で弾き返された。

「……ぶへぇ!!」

「……おうシエル。お前の本気、見させてもらったぜ?」

「へ、へへ……。どうだった?」

「すっこんでろ。」

「はい……。」

 哀れみの目で一言だけ言われたシエルはおとなしく引き下がった。

「……ったく。んじゃ行くぞリケア。」

「え?無理ですけど?」

「ん何でだよっ!?」

 突然の拒絶にリッツは勢いよくズッコケる。

「いやいや、アレ全部人なんでしょ?あれがトウモロコシ畑なら喜んで入るけど人なんでしょ?だから無理。」

 まるで悟りを開いたかのように遠くを見つめながらリケアは抑揚なく淡々と話す。気がつけばユグリシアと手を繋いで、シエルたちがいる位置よりだいぶ距離を空けている。
 ユグリシア一人を相手するのがやっとな彼女にあの中へ行けというのはそりゃ無理な話だ。

「あーそうかい!全く使えねぇな!じゃあ俺だけで行ってやらぁ!」

 悪態をつきながらリッツも集団へと飛び込むが、一分ともたず元の位置に戻された。

「んなー!ちくしょうが!」

 ムキになって再び挑戦しようとするリッツの前にガラの悪い三人組が立ちはだかった。

「おいテメーら!さっきから何してやがんだ!?アァん!?」

「ヒヒヒ!アニキ、こいつは見ねぇ顔だ。どうやら新顔のようですぜ!」

「……ふん。愚かな。」

 一番威勢がいい男は真っ赤なモヒカン頭をしており、見事な直毛だ。続いていかにも子分のような口調の背の低い男は黄色い坊主頭。最後の寡黙そうな筋骨隆々な男は青いリーゼント頭。
 誰もが二度見してしまう派手な格好の三人組、そのリーダー格と思われるモヒカン頭の男がリッツと睨みを効かす。

「あぁ?誰だてめぇらは?」

「おいテメー。質問にはちゃんと答えなさいってバアちゃんから教わらなかったのかよ?何してんだって聞いてんだよアァん?」

「何でてめぇらに言わなきゃなんねぇんだよ……」

「ギルドの依頼でこの騒ぎを落ち着かせに来たんだよ。」

「シエル!あっさり言ってんじゃねぇよバカ!」

 睨み合う二人に割って入るシエルはリッツにツマミ出された。

「シエル……?あ、アニキ!こいつシエル王子ですぜ!?」

「あぁ知ってんよ。テメーらが噂の【カーバンクル】だな?アァん?」

「だから誰なんだよてめぇらは?」

「ヒヒヒ!アニキ、こいつら何も知らねぇようですぜ!?」

「……ふん。愚かな。」

 するとモヒカン頭の男がフッと睨み合いをやめて視線を冒険者たちの集団へ向ける。

「へっ、まぁいいさ。おいイエローア。ブルーリー。ひとつカマシテやんな。」

「了解したぜアニキ!」

「……承知。」

 三人組はニヤリと笑う。そして黄色い坊主頭のイエローアが懐から何かを取り出し、青いリーゼントのブルーリーが大きく息を吸った。
 有無を言わさずケンカが始まるのかとリッツは身構えた。

 ピピ~~~~!!
イエローアが取り出したのは変わった形をした笛だった。その音はとてつもなく大きく、下手をすれば街全体に響き渡ったかもしれない。

「ちゅ~~~も~~~く!!!」

「!!??」

 間髪入れずブルーリーが笛に負けないくらいデカイ声を張り上げる。
 すると乱闘寸前だった冒険者たちは全員静まり返り、三人組を見た。

「おいテメーら。逸る気持ちは分かっけどよ、ちゃんと順番に並ばねーとギルドが仕事できねーだろーが。アァん?マナーは守んなさいってバアちゃんから教わらなかったのかよ?」

 静寂な空間にモヒカン頭の男の声がよく通る。すると集まっていた冒険者たちから声が聞こえてきた。

「……おい、あいつレッドスじゃないか?」
「ホントだ。じゃあ、あいつらチーム【ウアルガリマ】か!」
「チーム賞金ランキングでBランク3位!総合でもTOP30に入るこの国じゃ一番の稼ぎ頭じゃねぇか!」

 集団のざわめきがどよめきに変わる。

「……なに!?Bランク3位!?こんなヤツらが!?」

 と驚きの声をあげるも、あの大人数で、しかもマトモに話も出来ない騒ぎを一瞬で止めてしまう実力を目の当たりにした【カーバンクル】メンバーは唖然としている。

「……イエローアが使った笛はな、『キプウェイ』っつーマジックアイテムだコラ。本来ダンジョンや森みてーな視界が悪いトコで使って魔物の寄せ付けねーっていうちょっとレアもんなんだ。だが使い道によっちゃこーやって注意を引くことができんだよアァん?」

 その効果の程は、火を見るより明らかだった。

「あーゆー騒ぎを止めるにゃ、それよりデカイ音で意識をコッチに向けさせりゃいいんだよ。バアちゃんから教わらなかったのか?」

「そんなの教えてくれるバアちゃんいんのかよ?」

「……ニャ~。【ウアルガリマ】さん、助かりましたニャ。」

「おうニャム公、災難だったな。アァん?後はオレたちに任せなよ。」

「ニャニャ!お手伝いしてくれて助かりますニャ。でもオイラもまだ頑張れるニャ!」

「へへ!いい根性見せるじゃねーかよアァん!?よし!とっとと片付けちまうか!」

 圧倒されていたシエルとリッツも【ウアルガリマ】に続こうとしたのだが、

「おうおう。【カーバンクル】はここで待ってな。」

「え、なんでだ?俺たちも一緒に……」

「テメーらにゃ『借り』があんだよアァん!?いいから待ってろってんだよ!!」

 レッドスに怒鳴られ、その迫力に押されたシエルとリッツは動けなくなってしまった。

「俺たち何かしたっけ……?」

「さぁ。覚えがねぇな……。」

 何ともクセの強い【ウアルガリマ】の面々は、冷静さを戻した他の冒険者たちを押し退けてながらズンズンとギルド内へと入っていった。


────────────────


「……なにぃ!?サンディ婆ちゃんの孫ぉ!?」

 リッツの叫び声が静かになったロビーに響く。

 今朝はあれだけの騒ぎをしていた【天使の夜明け】だが、【ウアルガリマ】の迅速なサポートのおかげで今は受付カウンターには一組だけしか残っていなかった。

「……お待たせしましたニャ!それではクエストを受け付けましたのでよろしくお願いしますニャ!」

 ニャムはさすがに疲れを見せていたが、笑顔で最後の冒険者を送り出し、その場にへたりこんだ。
 ロビーではシエルとリッツがレッドスと話していた。リケアとユグリシアは休憩スペースでお茶を飲んでいる。
 
「おうよ!バアちゃんとミケが世話んなったな!アァん!?」

「それで『借り』があるって言ったのか。」

「なんつーか、律儀だな。それに……」

 【天使の夜明け】始まって以来の大仕事をやり遂げたニャムと他の職員を労うように、イエローアとブルーリーが飲み物を配っている。

「……めちゃくちゃ真面目で優しいね。」

「人は見かけによらねぇとはこの事だよな。」

「褒めてんじゃねーよコラ!照れるだろーが!アァん!?」

「へへっ、アニキの身内がご恩になったとあっちゃお返しするのが当然のスジってモンですぜ!」

「……ふん。その通りだ。」

 席に戻ってきたイエローアとブルーリーもレッドス同様照れくさそうにしている。

「そりゃ喜んでくれて何よりだが、アンタらはクエスト行かなくて良かったのかよ?」

「関係ねーな。受けた恩はすぐに返しなさいってバアちゃんに教わったんだよ。」

「それなら心配ないですニャ!」

 先程までヘロヘロだったはずのニャムが元気よくテーブルへ駆け寄ってきた。

「あれ?もう元気になったの?」

「はいですニャ!『マジックポーション』をいただいたので!貴重な回復アイテムをありがとうございますだニャ!」

「いいってことよ!アァん!?人助けは最優先だよってバアちゃんに教わったからよ!」

「おいおい、『マジックポーション』っつったらその場で体力が全回復するレアアイテムじゃねぇか。商人ギルドでも滅多に手に入らねぇ貴重なアイテムを普通に使うとはスゲェな。」

「出し惜しみしてちゃいい仕事はできねーってな!んで、何が心配ねーんだニャム公よ?アァん?」

「ニャ!今回のクエストは全ランク参加無制限になってるニャ!」

「全ランク参加無制限!?んじゃ俺たちも参加できるってこと!?」

「えらく範囲が広ぇな。それであんなに冒険者が集まってたのか。」

「ニャ!この周辺だとさほど危険もニャいし、一刻も早く秘宝、最悪でも手掛かりだけでも欲しいと依頼主の希望だそうだニャ。」

「ふーん。だが参加するにしろ俺たちは完全に出遅れちまったなぁ。」

「フッフッフ。大丈夫ですニャ!周辺を事前調査していた職員からさっき連絡がありまして、街の南にある古い遺跡に何か手掛かりがあるかもということですニャ!」

 思いがけない情報にシエルたちは沸き立つ。

「ヒヒヒ!他の冒険者たちはまだお宝の場所が特定できてないから先を越せそうですぜ!?」

「……ふん。期待できるな。」

「おぉぉぉ!?」

「マジかよ!?」

「……な!?人助けは最優先にしとくモンなんだよ!アァん!?」

 レッドスは依頼書を握りしめ勢いよく立ち上がる。

「いよし!!テメーらも一緒に行こうぜ!お宝は山分けだぁ!アァん!?」

「おお!!」

「よろしく頼むぜ!」

「……あー。私は……留守番してようかな。」

「……リケア。いっしょに行こ?」

「はぅ!……い、行きます……。」

 こうして、【ヴェルーンガウスの秘宝】(があるかもしれない)のクエストに【ウアルガリマ】と【カーバンクル】は共同で挑むこととなった────。

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