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六十五話
しおりを挟むいつも通り誰もいない図書室で
リクは本を返却した後椅子に座り、
シオンは出窓のところに腰掛けた
「無事に帰ってきてくれて安心したよ
やっぱり少し心配だったんだよね」
優しく微笑みながら言うリクに
シオンは力なく頷いた
相変わらず表情は暗かった
「‥‥」
シオンから話してくれるなら聞くつもりだが
リクは自分から聞くことはしなかった
前にナツからもらった言葉、
「リクはそのままのいつものリクで
待っててあげてね
きっとシオンが何か伝えたいと思う時、
1番に伝えたいのはリクだから」
その言葉をリク自身も信じたいと
思っていたからだ
机に飾ってある折り紙の花を
そっと手に取り、眺める
折り紙を見ているリクに気づいた
シオンは目を細めた
「‥ナツさんも、前にその花見てた」
「そうなんだ!
これ上手に作ってあるよね」
誰が作ったんだろう?と言いながら
リクは笑顔で花をいろいろな角度から
観察していた
「‥‥でも、そのナツさんが
ナツさんなんだけど、ナツさんじゃない‥
かもしれない‥」
「えっ?」
言ってることが分からない、
今のリクはその言葉がピッタリ合うだろう
きょとんとした顔をしていた
「‥ナツさんが盗賊に
会いに行きたかった理由、
自分と同じ境遇の人と会う為だった‥」
「同じ、境遇?」
「ナツさんの中には
本当にこっちで生活しているナツさんと
別のところで生活をしていたナツさんの
2人が1人の体の中で
生活しているんだってさ‥」
「‥えっと、二重人格、とか?」
「いや、そうじゃない、多分
よく分からないけど、目が光るんだ
その時に入れ替わってるらしい‥」
リクは何かを思い出したかのように
あっ!と声を上げた
「じゃあ、あの時変わってたんだ」
驚いた顔をして見つめてくるシオンに
リクは折り紙の花を置き、話を続けた
「盗賊に会いに行く為に
門で警備隊の人と話してたでしょ?
あの時目が光ったのが見えて
不思議だなぁって思ってたんだ
僕、ナツさんとシオンに挟まれて
真ん中に立ってたでしょ?
ナツさんは僕の左に立ってたから‥
右目が光ってたよ」
「‥‥」
「確かに淡々と話すあの話し方も
いつもと違う感じだったし、
違う人、と言われたら
そうかもなぁと思える」
「‥俺さ、聞いたんだ
今まで接してきたナツさんは
どっちのナツさんなのかって‥
そしたら、
どっちだって分かったところで
お前はどうするんだって言われた‥」
天井を見上げ、笑っていたが
きっと空笑いだろう
「どうするんだろう、って
自分でも分からなかった
じいちゃんに倣って
目を治してあげたいって思ってたけど、
治ったらどうなるのかも分からない
どっちかが死んでしまったりしたら
怖ぇし‥」
「シオン‥」
リクが心配そうな面持ちで
シオンを見つめていると、
ガラガラと扉が開く音が部屋に響いた
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