巡り合い、

アミノ

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三十九話

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目が開かない
何か聴こえる

「もう少しだよ、頑張ろうね」

頑張る?

「やってみない?
ちょっとだけでも‥」

何を?

「暴れるな
悪いことはしないから」

触らないで


ポチャンと水の跳ねる音がした



「大丈夫だ、
必ず連れて帰るから」

温かいな

「重いだろう
先に帰って馬でも連れてきてくれたら‥」

この人には怪我をしてほしくない

「その間に何かあったら大変だろう、
お前は何も心配しなくていい」

「‥」

ありがとう


ポチャン
また水の音がした


照れ臭そうに笑うシオンが見える
「じいちゃん直伝の傷薬なんです」

首のところ全く痛くない
きっと効いたんだろうな

「すんません」

すみません、でしょ


いたずらっ子のような、
でも優しさの滲み出る笑顔が
手の届きそうなところにあったから、
私は手を伸ばした


「ごぉ!?」

変な声が聞こえたと思ったら
目を開けることが出来た

辺りを軽く見回すと、
私はどうやら医務室のベッドにいるらしい

右手を伸ばした先に目をやると
誰かの顔に手を押し付けていた

「‥ご!?」
慌てて手を引っ込め謝ろうとしたけど
上手いこと声が出なかった

手を押し付けていた相手が
シオンだったから、
ビックリしたんだと思う

「ごめん、大丈夫?」
なんとか声を絞り出した

「‥大丈夫っす‥
ナツさんこそ大丈夫ですか?」

少し顔をさすりながら
私の心配をしてくれた

私は上半身を起こし
ベッドの右側から足を出しスリッパを履く
シオンはベッドの横にある
丸い椅子に座っていた

「大丈夫って、何が?」

不思議そうに尋ねる私に対して
驚いているように大きく目を見開いた

「覚えてないんすか?
壁に激突したじゃないですか」

あぁ、激突した記憶はある
シオンが見えた気がしたのは
間違いじゃなかったんだ

「デイスさん曰く、
頭にも異常なさそうだし
寝てるだけだろうって‥
救護班のリーダーって見て分かるんすね、
ちょっと見直しました」

「そうなんだ、
それでシオンがついててくれたの?」

「はい、ジーナさんから
ナツさんに付いててって頼まれたんで」

「そっか、ありがとう‥」

いえ、と言いながら
少し顔が赤くなってるのが見えた
お礼を言われるの慣れてないのかな

「ナツさん、あんま寝てなかったんすか?」

「‥うーん‥大丈夫だよ」

心配させたくなくて、
でも嘘もつきたくなくて
少し濁した答え方をした

「‥目のこと、気にしてるんすか?」

「えっ‥?」

「‥俺は、その、目がキラキラするの
綺麗だと、思いました」

照れているからか、いつもよりゆっくり、
少し詰まりながら話してくれた

「‥それに、ナツさんは、笑顔がいいです
目のことは俺が原因見つけますから
ナツさんは普通に過ごしててください」

嬉しさで胸がいっぱいになって、
言葉が出なかった
視界が歪んできた

「‥すんません」

申し訳なさそうに小さい声で謝られた

「なんで謝るの?」

私は涙が流れたとしても
見えないように下を向いたが
もしかしたら声は震えていたかもしれない

「あっ、いや、
嫌なこと言ったか‥って」

「嫌なことなんて言ってないよ、
嬉しかった」

ありがとう、と続けようとしたが
続かなかった

なぜなら抱きしめられたから


下を向いてる私の頭が
少しだけシオンの右肩に乗っていて、
背中に触れている左手は
なんだかぎこちなく感じられる

そして下を向いていたから見えた

シオンの右手が彷徨っている
私の肩までくるが触れずに
結局自分の方に引っ込める、を
ゆっくりと何度か繰り返していた

それを見ていたら
かわいくて笑ってしまいそうになるのを
なんとか堪えようとしたが、
肩を震わせてしまったのに気付き
シオンが離れてしまった

怪訝そうな顔をして私を見つめてきた

「‥笑ってます?」
ただでさえ目つきが悪いのに
もっと目つきが悪くなってる

「‥ごめん、
かわいくて、つい‥」

「‥なっ!? ばっ!
かわ‥! だとぉ!?」

‥かわいいだとぉ!?と、でも
言いたいのかな?

シオンは顔を赤くしたまま
ドカっと椅子に座り直し、
膝の上に肘を置き右手で顔を覆っていた

「‥シオン、ありがとう
嬉しかったよ」

思った事を伝えた

シオンは顔を隠したまま
「‥はい」とだけ言い、
しばらくそのまま座っていた


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