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十四話
しおりを挟む朝、出発するために
馬に荷物を乗せ、最終確認をしていた
「‥その荷物全部ユナの馬に
乗せるのか?」
タリアがたくさんの荷物を持つ
ユナに声をかけた
「はい、これ全部
私が乗せて行きます」
誇らしい笑顔と
張り切った声が返ってくる
「‥ふぅん?」
タリアは無表情で普段と変わりないが、
少し声色が低かった
もうそろそろ出発の時間だ
「ナツー!」
ジーナが駆け寄ってきた
「どうしたの?
目なら朝に見てもらったと
思うんだけど‥?」
「うん、それは確認したよ
そうじゃなくてさ
今日は私はこの場所を守る班で
ナツとは一緒に行けないから
きちんと見送ろうと思ってさ」
「ありがとう、嬉しいよ」
「ただの偵察だから
そんなことはありえないけど
絶対に死ぬんじゃないよ!」
「分かってるよ、
こっちのナツの為に死なないから」
そう伝えるとジーナの表情がスッと変わり、
声のトーンが下がった
「‥ナツ、私は
2人のナツに向かって言っているんだ
こっちだけではなく、君にも
死んでほしくないと思っているよ」
「ジーナ‥」
ジーナが親友のナツだけではなく
私のことも気にかけてくれたのが嬉しくて
少し視界が歪んだ
「ナツ、頼んだよ」
私の肩に手を置いて
ジッと見つめられた
声を出すと溢れてしまいそうだったので
軽く頷くと
ニカっと笑ってジーナは離れた
時間になり、12人全員が馬に乗る
ジーナやタリア、ゲイルなどに
見送られ街を出発した
私は馬に乗ったことがないが
こっちのナツのお陰で
スムーズに乗りこなせていた
緊張感はあるが、
馬の上で感じる外の風は
とても気持ちが良く、
空が少し近く感じられる
後ろを向き手を振っていたら
視界にシオンが入り、
緊張しているのが手にとるように分かった
ここからは無闇に話したりもできない
どこで誰が聞いているか分からないからだ
しばらく平坦な道を進む
辺りに何もないと分かると
デイスの班と別れた
ここからは6人での移動となる
今日の偵察は
デイスの班は盗賊たちのアジトが
できたことにより、
地形にどのような変化が起きたか
私の班は盗賊たちの基本的な位置、
見張りや人数などの把握
班の隊長は私、副隊長はナロンだ
まずは今いる何も問題がなさそうな
ここの場所から
見張りがいないかを確認する
双眼鏡や周りの音をよく聞きながら
少しずつ街から離れ、
木々の生い茂る森へ踏み込む
私はドキドキしていた
怖い‥
こっちのナツの記憶では
盗賊に会ったことはあるが
どうしたらいいのかわからないし
ただ体が勝手に動くまま、思うままに
身を任せているだけになっていた
盗賊たちの中には話し合い、
お互いが譲歩することで
上手くやって行ける者たちもいる
今回の盗賊たちも
そうなってもらえれば、と頭に浮かびながら
少しずつ馬を進める
木と木の間が先ほどまでより
広い場所に出た
木に新しくついたであろう傷が目につく
何かの目印として
刃物でつけたものだろうか
念のためさっきよりも
警戒心を高めておこう
バレないのであれば
それに越したことはない、
そう思った時
バシュッ!
木の上から何かが放たれた音がした
先頭にいた私は手綱を左に引っ張り
馬の右足を上げさせ、それを避けた
草が茂った土に刺さったのは
一般的な矢だった
「貴様ら何モンだ!?
馬から降りろ!!」
木の上の方から声がする
見上げると太い枝に立つ、
髪の毛が逆立っている1人の男がいた
こいつが見張りか?
私は言われた通りに馬から降りた
他の5人も私に続き、馬を降りる
「私らは隣の街へ
物資を届けに行く途中の者だ
ここを通らせて欲しい」
物資を届けに行く途中に通った、
というのは最初から決めてあった
実際に荷物運びの護衛だったり
代わりに運ぶことだってあるんだし
何も情報がない中
こちらから討伐隊だと名乗るのはまだ早い
すると彼は弓を手に木から降りてきた
へぇ?と私を上から下まで観察し
ニヤニヤ笑いながら
他の5人をチラッと見てから
また私に視線をもどした
「きみはここに住んでいる者か?」
冷静に、感情を見せないように問いかける
「貴様には関係ないんじゃない?」
盗賊はそう言いながら
右手を腰に当て、
あさっての方向を見ていた
「私たちは荷物の運搬をするのに
ここの道を通る時がある
私たちが避けることでお互い
会わないでいいなら楽じゃないか」
私は相手の目と合わなくても
目を見つめ続け、話をする
盗賊は短弓を背中に仕舞いながら
ゆっくり私と目を合わせた
「俺はお前らみたいなのと
会う方がいいんだわ
金目のモノ、置いていってほしいんでね」
弓矢の他にナイフも持っているようで
腰に当ててた右手で鞘からナイフを取り出し
その先を私の喉元に突き付けた
「‥!?」
シオンとユナの
声にならない声が耳に届いた
ナロンたちは慣れているので
何も反応しないし、
下手に周りから口出ししない方が
いいのも分かっている
ジッとその男を見据えていた
「金目のモノなんてないよ」
私はとても恐いはずなのに
こっちのナツの度量なのか、
怖気付くことなく淡々と答えている
「それに君1人だけで何ができる?
こっちは6人と馬もいる
すぐにこの場から去ることも出来る」
「逃げられねぇよ
貴様らが向かう方向には
俺の仲間がいっぱいいるんだ
それに弓が得意なやつも待機してる
動き始めた瞬間に矢の雨が降るぜ?」
勝ったと思ったのか
相手はニヤリと笑っていた
矢の雨‥ね
6人に対して1人や2人では
矢の雨なんて言わないだろうし
見張りは多いんだろう
「君1人だけなのに矢の雨とか
言わないで欲しいなぁ」
フフッと笑ってみせる
「なにぃ!?
俺1人な訳ないだろ!
俺の仲間には弓が得意なやつが
5人もいるんだ!
5人もいれば矢の雨になるだろうが!」
「5人も1箇所に集まっちゃってるの?
1人じゃ何も出来ないってこと?」
また笑ってやったら
ナイフを握る手に力が入るのが分かった
「俺は1人で何でもできる!
だからここは俺1人だ!
5人で周りを固めてる!」
こいつは扱いやすい
自分の力に自信があり
馬鹿にされると反論する
内情をベラベラ話しても
周りからすぐに止めに入るやつも
いないってことは
本当に近くには仲間はいない
「この道進むといっぱい仲間がいるってのも
嘘なんじゃない?
ねぇ、みんな?」
ナロンは気づいたようで
クックッと笑いながら
そうかもなぁと返してきた
ヤーナ、ゾフィアもそれに続く
「はぁ!?
20人もいればいっぱいだろうが!
舐めたこと言ってんじゃねぇ!」
グッと力を入れ、喉元にナイフが刺さる
チクッと痛みが走ったが
ナツは怖がったり痛がったりはしなかった
20人‥
見張りの5人と合わせると25人か
私が無表情になり黙ったのを見ると
ニヤっと笑いながら盗賊が
「怖くなったか?
最初から黙って荷物
全部置いて行けばいいのに
動けなくなっちゃって可哀想に」
そう言った瞬間
ものすごい勢いで後ろに下がって行った
喉元のナイフが私から離れる
盗賊が下がった方を見ると
さっきまでベラベラ話していた盗賊の後襟を
引っ張ったんだろう男性が1人いた
この盗賊と同じ弓矢を
背中から覗かせているのを見る限り
こいつの仲間なんだろう
サラサラの髪の毛を手でかきあげ、
無表情のまま
私たち6人を1人ずつ見ていた
「離せよ!」
ジタバタ暴れている彼を無視しながらも
後襟からは手を離さないみたいだ
「‥君たち、討伐隊、の人?」
ジッと私を見つめながら
そう一言だけ発した
「そうよ」
「はぁ!?
物資を届けに行く
途中だっつってただろうが!」
「それも仕事のうち、
あなたからは討伐隊かどうかなんて
聞かれてないから答えてないだけ」
ナツの言葉にカッと目が見開き
苛立ちの表情を見せた
「テメェ、離せよ!
あいつの喉元掻っ切ってやる!
ぐはっ!?」
先ほどまで暴れていたはずが
静かになり、うずくまった
腹に拳を入れ黙らせたのは仲間の彼だ
無表情で本心が見えないと思っていたが
先ほどより冷たい目をしてるように見える
「‥うるさいから、少し黙ってて‥」
ぐぅぅと唸りながら反論してこない彼を見て
「‥ありがとう」
静かにしてくれた事に
お礼を言っているようだ
「‥僕たちを、倒しに来たの?」
言いながら一歩近づいてきた
「違うよ
通りかかっただけ」
「‥お金と馬、置いて、
帰ってくれる?」
また一歩近づく
「置いていくことは出来ない」
「‥僕、強いよ?」
右手がナイフの柄に触れているのが
見えているが、ナツは動かない
「戦う気はない
私たちとあなた、6対1になる
それにさっき聞いたけど
貴方達全員で25人なんでしょ?」
「‥‥」
「私たちの後からも物資を持った仲間が
続々と隣の街へ向かうために
ここを通る
数と武器の多さで言ったら
私たちの方が多い
戦うのは得策じゃないと思う」
「‥僕1人で、6人でも勝てるよ」
ザァッと風が吹き、木々が揺れ
その場の空気が変わった
血気盛んだと言っていたし、
やはりこのままというわけには
いかないのかもしれない
そして彼は右手で触れていた
ナイフを持ち高らかに上げた
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