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頼れる兄貴 ラッシュさん登場

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 ─カンパニー宿舎 フィアー・ローエンドの部屋

 「あ~テッドの野郎マジムカつくわ。今度会ったら絶対殺そーぜマジで……。でさ、次の奴隷は女にしようぜ」
「女は使えん。それに犯したいなら見ず知らずの女が良い。色々と後腐れも無いしな」
「リンタルの言う通りだ。女だとサンドバッグにしたら、すぐ壊れちまう。そうだっただろ」

 昨夜の蛮行に何の咎めも無く平然と宿舎で過ごすザッカス達。本来なら牢屋行きの犯罪だがリンタルが衛兵に圧力をかける事で、やり過ごし……他の2人も多方面に口利きを使い事件そのものを、いつもの様に揉み消した。

 バァン! 

 突如、扉を開けて何者かが入ってきた。

「おーっす! ココが、フィアー・ローエンドってパーティの部屋か?」

 入って来たのは、長身かつ筋骨隆々な男前。ハツラツとしたダンディな声と笑顔が印象的だ。
 只者では無い風貌とオーラを持つ訪問者に気圧される3人。

(な、なんだこいつ……リンタルよりデケェ……)

 気圧されはしたが、負けじと立ち上がり威嚇するリンタル。

「……急に入ってきて何なんだ、お前は? 殺すぞ」

「おーおー。元気良いな! こりゃ鍛えがいが有りそうだ」

 威圧に、全く臆する事のない男にリンタルは逆上し殴りかかる……しかし、一瞬にして男はリンタルの背後へ移動していた。

「まぁまぁ、落ち着けよ。俺が敵なら、その手が無くなってるぞ。ま、相手をよく見る事だな」

 リンタルの肩にポンと手を置く男。リンタルの顔に青筋が立つ……。

「よ、よせ! リンタル! ……多分、そいつは兄貴が寄越した指南役だ」

 ザッカスの制止により、リンタルは自分を抑えた。

「初対面に、『そいつ』呼ばわりはねーだろー。目上には敬語を使え。俺はラッシュ・スピンアウト。ゴルディオスが、どーしてもって頼んでくるもんだからよ……しょーがなくだが、お前らのパーティに臨時で入る事になった。よろしく頼む」

「「「ラッシュ……スピンアウト……?!」」」

 3人は声を揃えて驚く……彼は『瞬塵の死神』の異名を持つ凄腕傭兵、大陸では1人しか所持していない超レアスキル【忍者】を持つ男……。その名はカンパニー内外に轟いている程の有名人。
 さらにカンパニー所属傭兵達からの信頼も厚く、ギルド内、上級パーティをいくつも掛け持ちしている唯一の存在。面倒見も良い為、彼を慕う若手傭兵が後を立たない程に人気がある。

(兄貴……よりによって何でコイツを寄越すんだよ……!)

 ザッカスは内心、苦渋していた。自分達より格上で有名人のラッシュには彼等3人の権力は、さほど意味をなさないからだ。

「お。良い反応だな。じゃ、早速特訓に行くぞ! 準備しろ」

「チッ……いきなり仕切るなよ」
「……今日は気が乗らない」
「ぶっちゃげダルいわ」

「……目上には敬語って言わなかったか? 次、タメ口きいたら殺す。さっさと準備しろ」

「「「……は、はい」」」

 目力と声だけで、本当に殺されると錯覚させる程の気迫に、3人は従うほか無かった。

♦︎

 ─カンパニー本部 野外演習場

 「よっし、お前ら全員いっぺんに相手してやる。全力でかかってこい」

  ラッシュの提案に、ようやく笑顔になった3人は開始の合図も待たず一斉に襲いかかる……。あわよくば殺害、負傷させる気持ちで戦いを挑んだ……のだが、結果は散々であった。

 ラッシュは武器を使用せず、片手片足のみで3人を捌いて叩きのめす。さらに、それぞれの動きをみてアドバイスしながら戦うという余裕ぶり。3対1の戦闘が開始されてから数分後……ザッカス達は息も絶え絶えで、地に手をついていた。

「オイオイ、冗談だろ? もう終わりかよ。これじゃ準備運動にもなりゃしねぇぞ。イキが良いのは態度だけかよ……全く」

(こ……こいつ……息切れすらしてねぇ……化け物かよ……!) 

 その後も、指導と組み手は続いた。……しかし、ラッシュは心の中で落胆していた。

(ゴルディオスの弟……ガッカリだな。取り巻き2人もだ。そもそもヤル気も覇気も無ぇ。こりゃガラヒゴ山で、マンティコアから逃げたのも納得だわ)

 彼がザッカス達がマンティコアから逃げた事実を知っている理由……それはブレイブがガラヒゴ山へ急遽調査を頼んだ友人というのがラッシュであるからだ。
 常人離れしたスピードで現場へ向かい、たった1人でマンティコアの殺害方法を調べる調査能力の高さで【忍者】の名に恥じない働きを見せた。

 ラッシュは、指導と組み手を急遽切り上げた……。

「……もういいわ、お前ら。今日はこれまでだ。俺のアドバイスを参考にしながら、何が悪かったか考えて訓練を続けろ……。後は、宿舎の部屋掃除もしとけ。あの部屋は汚すぎる。……で、明日はクエストで実戦を見せてもらうから、それまでに今よりかはマシになっといてくれよな」

(……チッ、説教くせぇ奴……死ねよ)

 普段「殺す殺す」と息巻いているザッカスだが、敵わない相手には他力本願な死を願うくらいしか出来ないのだった。

「じゃあな。俺は掛け持ちのパーティんとこ行くからよ」

 ラッシュは跳躍し、あっという間に消えていった。


「クソッ! 何なんだよアイツ! なぁ!? 闇討ちして殺そうぜ!?」

 イラついた態度を露にしてイキがるネチカル。

「……無駄だ。やめておけ、返り討ちにあって殺されるのがオチだろう。クソッタレなのは同意だけどな。あの野郎は間違いなく『狩人派』……。あいつに居座られたら狩人派みたいに怠い事させられ続けるぞ」

 冷静に諭すリンタル。カンパニーには2つの派閥が有る。世間一般のギルドに等しく、ダンジョン攻略やモンスター討伐を行う『狩人派』。
 そして、大所帯の最大級ギルドであるカンパニーのネットワークを活かして村や街単位とパトロン契約を結び利益を得る『領主派』。

 領主派はカンパニーの最大利益役として貢献している反面、活性化したダンジョンから増殖したモンスターが人里を襲撃する現象『災禍』を脅しの材料として、住民達から法外な搾取をする悪性パーティが現れている……という問題を抱えている。

 ザッカス達は2年前に領主派悪性パーティとして、とある村を担当……。好き放題した挙句、災禍を招いた為に領主派から『一時離脱』させられている。彼等は密かに領主派への再加入を狙っていた。

「~~ッ! ムカつくぜ! おい、ザッカス! お前の兄貴が呼んだんだから何とかしろよ!」
「ああ、そうだ。責任を取れザッカス」

 自分へ文句を言う2人に舌打ちをするザッカス。

(クソッ。こいつら相変わらず何かあれば俺に頼ってきやがる……カスどもめ)
「チッ。分かってんだよ! 兄貴が所用から帰ってきたら速攻で、あのゴミカス野郎を外してもらうわ。それまで、新しい奴隷で憂さ晴らしといこうぜ。俺が今日探してくるからよ」

 そんな会話を交わした後、ザッカス達はラッシュの言いつけを守る事もなく解散したのだった……。
 
 


 
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