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第三十三話
しおりを挟む「見て、一ノ瀬くん」
森を抜けてカナンの街にたどり着いた俺と新田は、街に向けて近づいていく。
途中、新田が足を止めて入り口を指さした。
「なんか検問みたいなの、やってない…?」
「本当だな」
カナンの街の入り口では、門番と思しき男たちが入ろうとする者を一度止めて、何かを確認したり、受け取ったりしている。
おそらく通行証の提示をさせているのだろう。
通行証を持たないものには、通行料を払わせていると言った感じか。
「私たち…何も持ってないけど入れるのかな…?」
「おそらく無理だろうな」
おそらく通行証も金も持たない俺たちは、街に入ることは出来ないだろう。
「ど、どうしよう…」
困り顔になる新田。
だが、俺にはこのような場合に役立つ魔法があった。
本当はカテリーナの千里眼に監視されているかもしれない状態であまり魔法を使いたくないのだが、この場を切り抜けるためには仕方がないだろう。
あまり直接戦闘に役に立つ魔法ではないし、何より街の中に入ればカテリーナの千里眼を無効にしてしまう方法がある。
今は多少手の内を明かしてでも街に入るべきだろう。
「任せろ新田。俺に考えがある。ちょっと手を出してくれるか?」
「え…?う、うん…」
言われた通りに新田が右手を差し出す。
俺はとある魔法を発動するために、新田の手に自らの手を重ねた。
「ひゃっ!?」
新田が慌てて手を引っ込める。
顔を赤くしてワナワナと震えている。
「ん?どうした?」
「え…な、何する、の…?」
「魔法を使うだけだ。触れてないと発動できないんだ」
「そ、そっか…わ、わかった、ごめん」
「す、すまん、すぐに終わるから…」
俺に触れられるのはそんなに嫌か。
若干傷つきながら、俺は再び新田の手に自分の手を重ねる。
「あ、ち、違う…!嫌とかじゃなくて、その…いきなりでびっくりしただけで、むしろ…」
「インビジブル」
新田が何か言いかけていたが俺は構わずに魔法を発動させる。
インビジブル。
触れたものを透明化する魔法である。
「よし、これでオーケーだ、新田」
「…」
透明化の魔法をかけ終わった俺がそういうと、何やら新田がジトっとした目で俺を見てきた。
何やら不満げな様子。
何かまずいことをしてしまっただろうか。
「新田…?」
「あ、うん…ごめん。なんでもない」
「魔法をかけ終わったんだが…自分の体を見てみてくれ」
「体…?あっ!!」
新田が目を見開く。
「透明になってる…!」
新田が自分の体を見て驚きの声をあげる。
魔法をかけた俺には新田の姿が見えているが、おそらく彼女の目には自分の体が透けて透明になっているように見えていることだろう。
「これならあの検問を突破できる」
「すごい…!」
「よし、じゃあ行こうか。声は抑えてくれよ」
「う、うん…」
俺は自分自身にもインビジブルの魔法を使い、新田とともに息を殺して入り口の検問を突破したのだった。
カナンの街に足を踏み入れた俺たちは、人目につかない路地裏でインビジブルの魔法を解除した。
「上手くいったね…!」
「ああ、そうだな」
「き、緊張した…」
新田がほっと胸を撫で下ろす。
俺たちは路地裏を出て、人々の行き交う大通りに出る。
「うわあああ…すごい…!」
初めて異世界の街を目にした新田が目を丸くする。
「中世のヨーロッパ?みたいな感じだね…」
新田はしばらくその場に立ち尽くして、ビルや電信柱などの一切ない、古めかしい街並みに見惚れていた。
初めて異世界の街を見た者は大体が新田のような反応になる。
俺は自分が初めて自分がこの世界の街にきた時のことを思い出しながら、新田が我に帰るのを待った。
しばらくして、新田がはっと気づく。
「ご、ごめん…!つい見惚れちゃって…」
「問題ない。最初は誰もがそんな感じだ」
「ええと…それで、これからはどうするの?クラスメイトを探す?」
「いや、あいつらには出来るだけ遭遇したくないな。何があるかわからないし、合流すれば新田を守るのが困難になる」
「まも…っ…そう、だね…っ」
「新田?」
「あっ、う、ううん…なんでもない…えっと、それじゃあ、どうするの?」
「とりあえず金を稼ぐのが先決だな。王都までの路銀だ」
「うんうん」
「そのために冒険者になろうと思う」
「冒険者…?」
おそらく初めて聞くであろう単語に、新田がキョトンとして首を傾げるのだった。
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