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第十三話
しおりを挟む「ふぇええええ!?」
腕を切り落とされたカテリーナが膝をつく。
隣では新田が素っ頓狂な声を上げた。
先に仕掛けたカテリーナが、結果的に負傷して膝をついている状態が驚きだったのだろう。
「新田。俺は大丈夫だから。少し下がっていてくれ」
「う、うん…」
新田が頷いて下がった。
あまり近くにいられると巻き込んでしまう可能性がある。
一応腕一本落とされたというのは致命傷だが、相手も同じ魔法使いだ。
レベルの高い治癒の魔法が使えるならすぐに治せるだろうし、魔力を通すだけですぐに魔法が使えるスクロールなどといったアイテムを隠し持っているかもしれない。
油断は禁物だ。
「ぐ…な、なぜ…お前が魔法を…使える…」
カテリーナが痛みに顔を歪めながら聞いてくる。
傷口を抑え、息も絶え絶えの状況だ。
どうやら治癒の魔法は使えないらしい。
「スモール・ヒール」
このままだとカテリーナが命を落としてしまうため、俺は威力の弱い回復魔法を使った。
これで止血程度にはなるだろう。
血が止まった自らの腕の傷口を見て、カテリーナが大きく目を見開く。
「あ、ありえない…い、異世界人のお前が…どうして…」
「お前の質問に答える義理はない。それよりも、俺の質問に答えてもらおうか」
「…っ」
カテリーナの表情が悔しさに歪む。
膝をつかされ、俺に見下ろされるのがよほどの屈辱のようだ。
「俺たちを召喚したのはお前か?」
「…っ」
「答えろ」
俺は徐に腕を振り上げる。
答えなければ攻撃する。
そんな脅しだった。
「そ、そうです…」
カテリーナが屈辱に顔を歪めながら答えた。
どうやらこいつが今回の召喚主らしい。
「そうか。だったら話が早い。俺と新田を日本に返せ」
「…送還の儀を行え、ということですか?」
「そうだ」
「…ほ、他の生徒は…?」
「あいつらはどうなろうと知ったこっちゃない。俺たちを見捨てた時点で助ける義理もない」
俺が優先すべきことは、新田を日本に送り返すこと。
次点で俺自身が日本に帰ることだ。
俺たちを見捨てた他のクラスメイトにまで手を差し伸べるほど、お人好しではない。
「わかっていると思うが拒否権はない。断るなら俺はお前をここで殺して王都に向かう」
「わ、わかりました…」
観念したようにカテリーナは項垂れた。
「あなた方を王城まで案内します…転移の魔法を使うので、少し待ってくれませんか…?」
そう言ってカテリーナは徐に残った左手を懐に入れた。
「待て。何をするつもりだ」
何か反撃のアイテムを取り出すつもりかと俺はカテリーナに待ったをかける。
「単にポーションを飲むだけです。転移の魔法のための魔力が必要なので」
「そうか」
それなら問題ないだろう。
そう考えた、俺が甘かった。
「お前っ、それは…!」
「残念でしたね、さようなら」
カテリーナが懐から取り出したのは、ポーションではなく、青い結晶石…転移結晶だった。
魔力を流すだけで、あらかじめ定められた場所に転移することが出来る。
一瞬にして、カテリーナの姿が消えた。
転移でどこかへと逃げ延びたのだろう。
「くそ…油断した…」
俺は自分の無警戒さに悪態をつく。
ったく、何も学ばないな、俺は。
王族の連中を信用しちゃいけないってのは、前回の召喚で痛いほど理解したつもりだったのだが。
「に、逃げたの…?」
離れていた新田が戻ってきて恐る恐る訪ねてくる。
「ああ…すまない」
俺は日本に帰る方法を知る召喚主をみすみす逃してしまったことを新田に詫びるのだった。
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