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第四十六話

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魔族と戦うのは初めてだ。

見たのも、今日が最初である。

モンスターとの戦闘なら勝手がわかるのだが、魔族が相手となると、きっと今までのようにはいかないだろう。

冒険者として生きていく上で培った対モンスターの戦闘技術は、今回ばかりは役に立たない可能性が高い。

『さて、とっとと片付けるか』

『くひひ…人間を殺すのは久しぶりだ』

二人の魔族は、俺を見つめ、ちろりと舌を出す。

「お前は下がっていてくれ」

「んあ?」

「あっちだあっち」

「たあ!」

俺はピンク髪の少女を離れた場所に避難させる。

魔族たちも、少女を戦闘に巻き込みたくなかったのか、その間に攻撃してくることはなかった。

少女が十分離れば場所に行ったのを確認してから、俺は改めて魔族を見据える。

『最後だ、遺言ぐらい聞いてやるぜ?』

『何か言い残すことはあるか?』

魔族たちは完全に勝ったつもりでいるらしい。

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、そんなことを聞いてくる。

負けるつもりはない俺は首を振った。

「別に必要ない。俺が勝つからな」

『そうかよ!』

『なら死ねや!』

俺の答えが気に入らなかったのか、魔族が即座に魔法を放ってきた。

「シールド!」

俺は障壁魔法で、魔族の攻撃魔法を防いだ。

『あ?』

『なんだぁ?』

魔族が訝しげに首を傾げる。

何が起こったのかわからないと言った表情だった。

「この人間を消しとばすつもりで放ったのに、なんでこんなに威力が弱いんだ?…そんなところか?」

『『…っ』』

魔族二人がギロリと睨んでくる。

別に煽るつもりはなかったのだが…

「種明かしをすると、俺のデバフ魔法だよ。お前たちの魔法攻撃力を一時的に減衰させるんだ。そうすると魔法の威力は半減以下になる」

『ちっ。人間め…』

『つまらん小細工を…』

魔族が再び魔法を放ってきた。

さっきより魔力が込められた攻撃だったが…

俺もデバフの効果を強めたために、またしても俺の障壁魔法を貫通せず、弾かれる。

『ぐ…』

『小癪な!!』

その後、魔族はどんどん魔法の威力を強めていったが、その度にこちらもより強力な減衰魔法を使ったために、結果は変わらなかった。

数分後、そこには魔力を使い果たし、肩で息をしている二人の魔族がいた。

『はぁ、はぁ、はぁ…くそ…』

『この人間…思ったよりも…』

「ふむ。こんなものか」

魔族との戦闘は初めてだからそれなりに警戒していたのだが、杞憂だったかもしれない。

これだけで魔力切れになるとは…

ひょっとするとこいつらは、魔族の中では下っ端なのかもしれない。

「それで、どうするんだ?大人しくするなら、殺さずに連行しようと思うんだが」

人族の法では、領地を犯した魔族は殺めても良いことになっている。

逆もまたしかりだ。

だから、この場で俺がこの二人を殺しても、罪には問われない。

しかし、なるべくならそうはしたくない。

大人しく連行されてくれるなら、俺は二人を然るべき機関に引き渡す。

そう思ったのだが…

『調子に乗るなよ人間…!』

『我らは身体能力でも貴様らを遥かに凌駕するのだ!』

ビキビキと魔族の腕が膨張した。

次の瞬間、ブォンと音がなってパンチが繰り出される。

ドゴオオオン!

衝撃波で、近くにあった大木が木っ端微塵になった。

ニヤリと魔族が頬を歪める。

『どうだ?思い知ったか?』

『今更嘆いても遅いぜ…』

どうやら威力を思い知らせ、俺を恐怖させようと、わざと攻撃を外したようだ。

無意味なことをしてくれる。

「それくらいだったら、俺でもできるぞ」

俺は自分に強めの支援魔法をかけて、拳を振るった。

ドゴオオオオオオオン!!

衝撃波が発生して、魔族の背後の大木を二、三本ほど薙ぎ倒した。

『『…』』

「あれ…?」

するとなぜか、魔族が動きを停止した。

信じられないものを見るような目を俺に向けてくる。

「どうかしたか?」

俺が首を傾げると、片方が震えた声で尋ねてきた。

『お、お前は…何者なんだ…?本当に人間なのか…?』

「何者って…俺はただの支援職の冒険者だが…?」

『ひぃ!?』

『うわぁ!?』

ちょっと近づこうとしただけで、魔族が引き攣った声を漏らす。

あれ?

まさか恐れられてる?

いやいや、そんなはずはない。

だって俺はただの支援職なんだから。

「さあ、戦いを始めようか」

『も、もう沢山だ!』

『勝てっこねぇ!!』

「あれ…?」

次の瞬間、魔族が背を向けて逃げ始めた。

「待てよ……って、あ」

追いかけようとしたが、突如魔族の足元に魔法陣が浮かび上がった。

そして魔族の姿は跡形もなく消える。

「転移結晶か…」

どうやら高価な魔法アイテム、転移結晶を持っていたようだ。

「逃げられた…か…まぁいい」

俺は背後を振り返る。

「にゅ!」

ピンク髪の少女がこちらへと駆け寄ってきた。

「うおっとと」

「みー!!」

バフっと俺に抱きついてくる。

…なんか懐かれてしまったみたいだ。

「まぁこいつが確保できただけで、十分としよう」

モンスターの大量発生の原因は、おそらくこの少女である可能性が高い。

間違っても魔族には渡してはならない存在だ。

この子を確保できただけでも、及第点としておこう。

「よし、帰るか」

「にゅ!」

俺が少女の手を引いて街へ帰還しようとすると…

「あっ、アルト!!」

「アルト!!そこにいたか!」

「よかった!無事だったのね!」

どうやら俺を探しにきたらしい『彗星の騎士団』の3人と再会したのだった。



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