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第二十八話

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『緋色の剣士』の面々が、臨時メンバーであるケルトを連れてゴブリンの巣穴に潜っていた一方その頃。

アルトたち『彗星の騎士団』は、全ての魔石の回収を終えて、帰路を歩いていた。

「いやー、それにしても驚いたぜ。まさかソフィアの魔法が湖を蒸発させるなんてな。戻ってみたら湖がなくなってて、一瞬自分の正気を疑ったぞ」

「私も…まさかアルトの支援魔法があそこまですごいだなんて思わなかったわ。本当…アルトを追放した『緋色の剣士』は何を考えているのかしら」

「わかんねぇ。相当無能なリーダーだったんじゃないか?アルトの能力を見抜けないほどのな」

「おいおい、よしてくれ二人とも。お世辞を並べたって何も出ないぞ?」

二人があまりにも褒めそやしてくれるので照れ臭くなった俺は、思わずそう言った。

すると、ガレスとソフィアの二人にジトッとした目を向けられた。

「いやいや、アルト。お世辞じゃねーよこれは」

「そうよ。アルト。あんたはちょっと自分の異常さを自覚しなさい」

「い、異常って…ひどいなぁ…エレナからも何か言ってやってくれよ」

「…私も二人に同意よ。アルト。あなたは少し自己評価が低すぎるきらいがあるわね」

「エレナさん!?」

エレナにまで裏切られ、俺は3人から散々、異常とか埒外とか、前代未聞とか、誉め殺しの文句を頂戴する。

その結果…

「わ、わかったよ…!もういいから!十分自信ついたよ!ありがとな!」

我慢できなくなってそういった。

そんな俺をみた3人が満足そうに頷いた。

「それでいいいのよ」

「自信持て、アルト」

「ええ。自分の力を自覚出来るよう努めてください」

「はぁ…嬉しいのやら、恥ずかしいのやら…」

そんな会話をしながら帰路を歩いていた、その時だった。

『ホー!ホー!』

頭上から鳴き声がした。

と思ったら、何かがどさっと地面に落ちた。

それは真っ白い毛並みのフクロウだった。

嘴に、封筒のようなものを加えている。

「これ!ギルドからの使いのフクロウだわ!」

ソフィアがそう言って慌ててフクロウを抱き上げた。

「アルト!今すぐ生命力減衰の魔法を解除して!!」

「あっ、そうか!!」

俺はフクロウが力なくぐったりとしている原因が自分だと気づき、慌てて魔法を解除する。

それからすぐにフクロウに回復魔法を施した。

『ホー!ホー!』

淡い光がフクロウを包み込み、フクロウが息を吹き返した。

「ふぅ…」

俺は安堵の息を吐く。

「ありがとう。ギルドからの贈り物を届けてくれたの?」

『ホー!ホー!』

ソフィアの腕に止まったフクロウが、肯定の意を示すようにバサバサと羽ばたいた。

「開けてみよう」

ガレスがフクロウの嘴から封筒を受け取り、開封する。

「手紙か…読んでみるぞ」

中に入っていたのは一通の手紙。

ガレスが内容を声に出してよむ。

「えー、なになに…至急、街に帰還されたし…数千のモンスターが、街を襲撃しつつある…街の周辺地域で起こったモンスターの異常発生で、現在ほとんどの冒険者が出払っており、このままでは防衛もままならない…おそらくこれは仕組まれたものだと思われる…おいおいおい!?穏やかじゃねーな!?」

手紙の内容にガレスが声をあげる。

「どういうこと!?」

ソフィアが驚き、

「異常発生は私たちを誘き寄せる罠だった、ということですか…?」

エレナが目を細める。

「…なるほど。これは誰かの描いたシナリオだったのか…」

最近ギルドのクエスト掲示板で頻繁に見かけるようになった異常発生のクエスト。

それは全て、何者かが、冒険者という戦力を街の外に誘き出すための策略だった。

そして今、冒険者がほとんどいない無防備な街を、数千のモンスターが襲おうとしている。

「まずいな…早く街へ帰らなくては…!」

俺は顔をあげて、街の方角を見据えた。




同時刻。

アルトたちと街のちょうど中間地点における場所で、複数人の紫色の肌の人物…俗に魔族と呼ばれるものたちが会合を開いていた。

「くひひ…馬鹿な人間どもめ…まんまと我らの策略にはまりおって…現在、高ランクの冒険者パーティーの大部分が異常発生クエストのために街の外にいる…」

「これで街は手薄となった…今なら数千のモンスターをけしかければ壊滅に追い込める…」

「これでまた一つ、人間の街が消える…我らの覇権にまた一歩、近づける…」

「いずれ大陸全土を支配する魔王様のために…我らで地上から邪魔な人間どもを始末しようぞ!!」

「「「おおお!!!」」」


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