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第二十六話

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「くそ…なんで俺がこんな雑魚と…」

「あのー…聞こえてますよ?」

結局、応募者がケルトしかいなかったために、カイルは臨時メンバーとしてケルトを採用せざるを得なかった。

ケルトの実力は、カイルが本来望むものとは到底かけ離れていたが、まぁいないよりはマシだろうという判断だった。

「うるせぇ。お前は黙ってろ」

「…」

3人は現在、Aランクのクエストをギルドで受注して森へと向かっていた。

道中、カイルは何度もケルトについて悪態を吐き、ケルトに口答えを許さなかった。

ケルトは自分の尊敬していたSランクパーティーの面々の、あまりの素行の悪さに、早くも辟易としていた。

やがて森の中を進むこと1時間、彼らはクエストマップに記された洞窟へと辿り着いていた。

クエストの内容はゴブリンの巣穴を一つ、壊滅させること。

ゴブリン自体は1匹では非力なモンスターなのだが、群れると格上の冒険者を倒すほどの力を発揮する。

また、巣穴には大抵Bランク以上の上位個体、ゴブリン・リーダーやゴブリン・ジェネラルなどが潜んでいるものであり、そういうことを加味して、このクエストはAランクに格付けされている。

「見えました!あれが巣穴ですね…ええと…2匹のゴブリンの気配が感知できました」

ケルトが探知魔法を使って報告する。

「うるせぇ!そんなことはわかってんだ!てめーの探知魔法がなくても10メートルいないとか見りゃわかるだろうが!!」

「ひぃ!?」

カルトを怒鳴りつけたカイルは、乱暴に剣を抜き放ち、ゴブリンの巣穴へと一人で向かっていく。

巣穴の前には2匹のゴブリンがいた。

『ギィギィ!』

『ギャアアアア!!!』

カイルを見ると、鳴き声をあげて襲いかかる。

「いよいよSランク冒険者の戦いを見れるぞ…」

ケルトはゴクリと唾を飲んで対峙するゴブリンとカイルを見た。

なんだかんだ言いつつも、やはり彼らはSランクだ。

きっと、その戦闘力は並外れており、あんなゴブリンなんて瞬殺に違いない。

そう思い、期待のこもった視線をカイルに送るケルトだったが…

「おらああああああ!!!」

雄叫びとともにカイルが剣を振るう。

ひょいっ。

「えっ」

『グギギイイイイイ!!』

『ギィイギィイ!!』

一撃目をあろうことか、最弱のモンスターゴブリンに躱されてしまう。

ケルトは目を疑った。

支援職であり比較的近接戦闘が苦手な自分さえ、ゴブリン相手に攻撃を外すことなんてない。

今のはただ単に偶然だったのか…?

ケルトが首を傾げる中、攻撃を躱されて苛立ったカイルが二発目の攻撃を繰り出す。

「うおりゃあああああ!!」

大振りの上段。

スカッ

『ギャギャギャ!!』

『ギギギギ!!』

攻撃の当たらないカイルを嘲笑うかのように、ゴブリンが不快な笑い声をあげる。

一方で、ケルトは夢でも見ているような気分だった。

Sランク冒険者がゴブリン相手に苦戦している。

一体なんの冗談なんだ、これは。

一瞬、彼らはふざけているのかとも思っていたが、しかし見ていると、カイルは正真正銘全力で戦っている。

となると、本気を出してあの実力。

嘘だろ…?

こんな人たちが、一体どうやってSランクまで上り詰めたんだ…?

まさかギルド運営の上層部と繋がって、不正にランクを上げたのか…?

ケルトは疑いの視線を『緋色の剣士』に向けるのだった。



「ふぅ…手こずらせやがって…いやに動きの早いゴブリンだったな…」

最終的にカイルは戦いに勝利した。

だが、ゴブリン2匹を相手に5分以上も戦闘を長引かせたことは、Sランク冒険者に憧れて臨時メンバーに応募したケルトを落胆させるのに十分だった。

ケルトは信じられない、と言った視線をカイルに向ける。

「ん?なんだよ、その目は。何か文句でもあるのか…?」

「いえ…別に…」

カイルに睨まれて、ケルトは首を振った。

だが、先程のようにオドオドしたりはしない。

カイルの真の実力を目の当たりにして、もはやカイルに対する畏怖心なんて吹き飛んでしまった。

この人、もしかして近接戦が得意でない僕にすら劣るんじゃないか…?

ケルトはそこまで思い始めていた。

「おら、ぼさっとすんな。中に入るぞ」

カイルがそう言ってゴブリンの巣穴に入っていく。

他のメンバーも後から続き、最後にケルトといった順番だ。

ケルトは、『緋色の剣士』とゴブリンの巣穴に入るのが不安になってきていた。


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