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第十二話
しおりを挟むあれから2時間後。
俺は『彗星の騎士団』とともにダンジョンへ潜っていた。
ギルドで受けたクエストはオーク20体の討伐。
それほど困難でもない、一般的なAランクのクエストである。
ダンジョンの通路を進んでいき、やがて俺たちはオークの出現する区域に到着した。
先頭を歩いていたガレスさんが、こちらを振り返る。
「アルトさん、あんたは『緋色の剣士』にいた頃はサポート役だったんだよな?具体的には何をしていたんだ?」
「呼び捨てでいいですよ。そうですね…基本的には支援魔法で身体能力や魔法の攻撃力などを上げていましたね」
「なるほど…じゃあ、支援魔法をかけてみてくれないか」
「わかりました」
俺はその場にいた3人全員に、支援魔法を使った。
これで3人の身体能力と魔法攻撃力が上がったはずだ。
「ありがとう…できれば俺だけでなく、エレナとソフィアにもかけて欲しい」
ガレスがそんなことを言い出して、俺は首を傾げる。
「ん?もうかけましたけど?」
「はい?」
「ん?」
「え?」
ガレスとエレナとソフィアが3人同時に首を傾げた。
「アルト…今なんと?」
「いえ、ですから、もう3人ともに支援魔法をかけました」
「「「…」」」
俺がそういうと、3人は口をぽかんと開けて無言になる。
一体どうしたというのだろうか。
「あのー、どうしたんです?」
時が止まったような3人に話しかけると…
「これが元Sランク…」
「流石ね…」
「埒外だわ…」
3人がそれぞれボソボソとなにかを呟いた。
「何か言いました?」
俺が聞き返すと、3人ともブンブンと首を振った。
「あ、ありがとうアルト…ちなみになんだが、今俺たちにかけてくれたのは、身体能力向上の魔法か?それとも魔法攻撃力強化の方か?どっちなんだ?」
「どっちもです」
「「「…」」」
またしても黙りこくる3人。
さっきからなんなんだよ。
「あと、一応、細かいですけど自動回復と物理攻撃耐性も付与しておきました。小さい傷なら自動的に治りますし、物理攻撃にもかなり強くなったはずです」
「「「…」」」
またしても黙りこくって、何にも反応しない3人。
もしかして、俺の支援魔法があまりにもしょぼくて絶句しているのだろうか。
「あの…すみません、もしかして俺の支援魔法、そんなに使えないですか?でもですね、俺は支援魔法だけじゃなくて、一応回復魔法も使えるし、前衛に出て戦うこともできるので、まだ実力の2割も出していないというか…」
「「「…」」」
俺は早々に見限られたくなくて、必死に自分を売り込むが、そんな俺が3人には滑稽に映ったのだろうか。
無言で俺のことを見つめている。
しばらくして…
「と、とにかくモンスターと戦ってみましょうか、アルトさん」
「あれ、なんで敬語?」
ガレスがなぜか俺に対して敬語で喋り始めた。
これはお前のようなやつは、仲間に迎え入れるわけにはいかない、という意思表示だろうか。
だとしたらすげー悲しい…
「そ、そうですね…」
俺は早くも気落ちしながら、前を歩くガレスについていくのだった。
『ブギィイイイイイイ!!』
オークのよく出現する区域に足を踏み入れてから10分後。
俺たちは早速1匹のオークとエンカウントしていた。
『ブギィ!ブギィ!』
オーク。
それは体長2メートルほどの豚頭のモンスター。
攻撃力はそこそこ、防御力はやや低め。
特徴として、女性を先に攻撃する傾向がある。
村ならばまだしも、1匹であればBランクパーティーでも倒せてしまうほどのモンスター。
「俺に任せてくださいっ!」
俺は自分が前衛も務められることを見せたくて、前に出ようとするが…
「いえ、アルトさん。下がっていてください。俺が対処しますよ」
ガレスがそう言って前に出た。
「そ、そうですか…」
これは、やはりお前など必要ないという意思表示なのだろうか…
俺が気落ちする中、ガレスさんが背中の大剣を抜き放ち、オークに向かって振り下ろす。
斬ッ!!!
ドゴォオオオオオオン!!!
「おぉ…」
凄まじい轟音と共にオークの体が縦真っ二つに両断された。
さらにガレスさんの一撃で斬撃が発生したのか、地面に亀裂が走っている。
すごい。
これが実力派Aランクパーティー『彗星の騎士団』のリーダーの実力か…
俺が感心する中、なぜかガレスは、信じられないと言ったように自分の手の中の剣を見つめていた。
「すごい一撃でしたね…どうかしたんです?」
「あ、ありえねぇ…これがSランクの支援魔法…」
「ん?なんです?」
「斬撃が発生したことなんて今まで一度もなかったのに…まじかよ…こんな人が役立たずって…『緋色の剣士』ってのはどんだけ強いパーティーなんだ…?」
「ガレスさん?どうかしましたか?」
なぜかぼんやりとしたままブツブツと呟き始めるガレス。
一体どうしたというのだろうか。
「あっ…あぁ、いえ!すみませんアルトさん。アルトさんの支援魔法についびっくりしてしまって…」
「は、はぁ」
これはお世辞なのだろうか。
…お世辞なんだろうな。
「Sランクの支援魔法ってやつを体験させてもらいました…では先に進みましょうか」
「わ、わかりました…」
Sランクとて所詮こんなものか、と思われてしまったのだろう。
くそ…なんとか前衛もできることをアピールして挽回しなくては…
そんなことを考えながら、俺は次のオークを求めてダンジョンを進んでいく。
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