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第三十九話
しおりを挟むバラバラになって空中に舞ったオークの肉片が、ぼとぼとと地に落ちる。
「す、すごい…」
背後からそんな呟きが聞こえた。
振り返ると藍沢が呆気に取られている。
俺の力を見るのは初めてじゃないだろうに。
いちいちこのぐらいで驚くなよ。
そう思ったが、口には出さない。
今は藍沢に冷たくするべきではない。
むしろ、優しくして仲間の一人だと錯覚させる。
出ないと、篩にかける意味がないからな。
「大丈夫か?藍沢」
「う、うん…」
「ほら、手を貸してやる」
「ありがと…」
俺は驚いて尻餅をついている藍沢に向かって手を差し伸べる。
藍沢は恐る恐る俺の手を取ってゆっくりと立ち上がった。
「少し休むか?」
「だ、大丈夫。平気だから」
「そうか。無理はするなよ」
「う、うん…心配してくれてありがと…」
わざとらしく気を遣ってやると、藍沢は嬉しげに頬をかいた。
俺のことを少しも疑っていない。
これならば大丈夫だろう。
きっと作戦はうまくいく。
俺は内心でほくそ笑みながら、表面では笑顔を保って、歩き出す。
「よし、行くか。離れるなよ」
「うんっ」
俺は藍沢とともに再び歩みを再開させた。
「食糧、見つかるといいね」
「そうだな」
藍沢を連れ回しながら、俺は強化された聴覚であるモンスターを探していた。
そのモンスターの存在は、藍沢を篩にかける上で欠かせない存在だった。
藍沢はすでに俺の力の一端を目にしている。
ゆえに、そこら辺にいる雑魚では藍沢を本気で怯えさせることが出来ない。
俺が倒せると知ってしまっているからだ。
それでは意味がないのだ。
俺の作戦には、もっと強力なモンスターが必要なのだ。
「いた…」
俺は藍沢に聞こえないように小さく呟いだ。
強化された聴覚で、俺は確かに感じ取った。
ズン、ズンと地面を揺らすような低い足音を。
距離にして大体五百メートルと言ったところか。
多分この足音は、俺が想像しているモンスターのもので間違い無いだろう。
「こっちだ、藍沢」
「う、うん…!」
「食糧のありそうな場所に、心当たりがある」
「わかった!」
俺は藍沢に嘘をつき、方向を変えて歩き出す。
ズン、ズンと俺にしか聞こえない低い足音は、前方から確実に近づいてきていた。
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