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第三十六話

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勝てない。

今すぐ逃げないと死ぬ。

アルトを追ってきた悪ガキ3人組は、ゴブリンキングに対峙した時に本能的にそう理解した。

しかし、体が動かなかった。

「あ、あぁ…」

「くる、な…」

「いやだ…」

3人ともペタンと地面に尻餅をついて、震えながらゴブリンキングを見上げる。 

ゴブリン・キングは赤く光る目で、3人を見下ろした後に、一度巣の方に視線を移した。

ゴブリンの巣は、先ほどアルトに焼かれたばかりで、入り口には黒焦げのゴブリンの死体が転がっていた。

ゴブリン・キングはもう一度、尻餅をついた3人に目を移した。

その目には怒りがこもっているのが3人にはわかった。

『グォオオオオアアアアア!!』 

ゴブリン・キングが咆哮し、動き出した。

丸太ほどもある巨大な足をブゥンと蹴り上げる。 

ドゴッ!!

「サンタ!!!」

3人のうちの1人…サンタが吹き飛び、近くの木に打ち据えられる。

地面に倒れたまま、動かない。

たった一撃で意識が刈り取られてしまった。

「うわあああああああ!?サンタああああああ!?!?」 

エギルが叫び声をあげる。

「に、逃げよう…エギル…!」

エギルの叫び声で我に帰ったケルトが立ち上がり、エギルの服を引っ張る。

しかし、エギルは立ち上がったもののその場から動かない。

「ににに、逃げても追いつかれる…!ケルト…お前はサンタを担いで逃げろ!!こここ、こいつは俺が足止めするっ!!」

ゴブリン・キングの足は、当然ながら子供である彼らより速い。

エギルは普通に逃げても追いつかれるため、自らが犠牲になることで残り2人を逃がそうと考えたのだ。

「む、無理だよエギル…!お前を置いていくなんて…」 

ケルトが泣きそうな声でいう。

「いいから行けっ!!」

エギルが怒鳴り、ケルトを背後へ突き飛ばす。
しかし、ケルトはその場から立ち去ろうとしない。

「お、俺も戦う…ふ、2人なら…」

「馬鹿っ、勝てっこないだろ、こんな化け
物……あ」

2人が言い合いをしている間に、ゴブリン・キングが致命的な距離まで接近していた。

高く上げられた拳が2人の頭上へ迫る。

「「…っ」」

手遅れであることを悟った2人は、ぎゅっと目を瞑った。

刹那。

斬ッ!!!

『グオオオオオオオ!?!?!?』

何かを切断する音とともにゴブリン・キングの悲鳴が上がる。 

2人は恐る恐る目を開いた。

「ふむ…ゴブリンキングが…確かに巣穴にはいないと思ったが…外に出ていたんだな」

「「あなたは…!」」

そこには、2人を背にして庇い、ゴブリン・キングと対峙するアルトの姿があった。



俺の初撃によって半身を失ったゴブリン・キングは、断末魔とともに地面に倒れた。

背後の村の子供達を振り返る。

「大丈夫か?怪我はないか?」

「「あ、あぁ…」」

子供たちは、呆気にとられて数秒間の間呆然としていた。

だが、すぐに我に帰り、すぐ近くで倒れている子供を指さした。

「さ、サンタが…」

「ゴブリン・キングにやられて…」

「怪我人か」

俺は倒れている子供に駆け寄る。

「大丈夫か?」

「ひゅー…ひゅー…」

息はある。 

だが、致命傷を受けていた。

全身打撲だらけで虫の息。

放っておけば数分とたたずに死んでしまうだろう。

俺はすぐに回復魔法をかけた。

「ん…え…?」 

怪我の治った少年が、ぐるぐると周囲を見渡す。

そして目の前にある俺の顔を認めて… 
「あんたは、アルトリアの…」

「サンタああああ!!!」

「よがっだぁああああ!!!」

何かを言いかける前に、残る2人が怪我をしていた少年に抱きついた。

泣きながら無事を喜んでいる。

「サンタぁあああああ!!生きてるっ、よかったよぉおおお!!」

「お前が死んじゃったんじゃないかって思って…」

「ちょ、汚ねーよお前らっ。涙と鼻水を擦り付けるなっ…お、俺はそう簡単に死んだりしねーんだからなっ!!」

抱きついてくる2人に、少年は照れ臭そうに対応している。

微笑ましい3人を俺はしばらく見守った。

しかし、村の子供がなんでこんなところにいたのだろうか。


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