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第二十九話

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校長室で校長と教頭が互いに気難しい表情で向かい合っていた。

校舎の方では粛々と午前の授業が行われる中、二人は現在ネットで大炎上している如月家の事件及び、東雲透のことについて話し合っていた。

「全くどうしてこんなことになってしまったのか…」

校長が頭を抱えて悲惨な現状を嘆く。

大手新聞社の記者が、如月家で起こった事件に関して、被害者の東雲透の身に起こった悲劇をピックアップして記事を書き、それをネット上で公開した。

記事はたちまち大炎上し、東雲透を庇わなかった学校側も責められることになった。

『隠蔽体質のクソ高校』

『うちの子供は絶対に通わせない』

『教職員は全員解雇されるべき』

『いじめられている生徒がいるのを知っていながら何も行動を起こさなかった教育者とかマジで終わってる』

『人に物を教える前にこの高校の教師は全員道徳を学び直すべき』

少し調べれば、今回の事件に関して、この高校に浴びせられるネット民からの罵詈雑言が
山のように出てくる。

このままでは炎上の火はどんどん燃え広が
り、この高校の悪評は広まるばかりとなる。

校長は早々に何か手を打たなければ、来年の入学者が極端に減ってしまうこともあるかもしれない、と考え始めていた。

「炎上の火は鎮火するどころか大きくなるばかりだ…何か手を打たなければ…」

「そうですねぇ…最近はいじめ、冤罪といったワードに世間は敏感ですから…」

「情報社会の弊害だな……しかし、付き合っていくしかあるまい……何かわかりやすく我々が手を打ったことを世間に対して示さなければ、隠蔽体質の悪の教育機関として、悪評がどんどん広まってしまう…」

「間違いありません……どうします?世間は東雲透に同情しているようですから……東雲透をいじめた生徒を停学処分にする、とか?」

「ふむ…まぁ妥当なところだろうな」

校長と教頭は、この炎上を鎮めるために、まずは東雲透を虐げた者たちを罰してそれを世間に公表するべきだと考えた。

「まずは事実確認だ……東雲透に何か直接危害を加えたものたちを徹底的に炙り出す必要がある…」

「そうですね…今の所、記事によれば東雲くんは、部活でリンチのような暴力行為をされていたのは確実のようですね……インタビュー記事にそう書いてあります」

「そうか……悪口はともかく暴力はいかんな…ではそのへんからまず制裁を加えていくとするか」

「そうですね、それがいいでしょう」

校長と教頭は、火消しのために、東雲透を虐げた者たちの中から度が過ぎた行動を取り制裁を課すにたる者を選別し始めたのだった。


= = = = = = = = = =


「理沙…?大丈夫だったか?」

「うん…私は大丈夫…」

理沙を殴った浅倉は涙目になって教室を出て行ってしまった。

俺に殴られそうになったのが相当ショックだったらしい。

俺はというと、理沙のおかげでなんとか自分の中の激情を抑え込み、浅倉を殴らずにすんだ。

浅倉が、理沙を殴った時は、本当に俺は理沙を思いっきりぶん殴ってやりたい気分だった。

おそらく理沙が止めなければ、俺はそれを実行していただろう。

だが、理沙がすんでのところで止めてくれた。

おかげで俺は、退学処分にならなくてすんだ。

「止めてくれてありがとう……あのまま行ってたら多分俺、浅倉を殴っていたと思う…」

冷静になってみると一気に自分のやろうとしていたことのヤバさがわかる。

いくらが浅倉が理沙を殴ったとはいえ、男の俺が思いっきり浅倉を殴ったら、取り返しのつかない大怪我をさせてしまっていた可能性がある。

そうなればおそらく停学処分だけじゃ済まない。

噂は瞬く間に広まり、また俺は悪者として扱われることになっていただろう。

せっかく斎藤さんの記事のおかげで俺の味方をしてくれている世論も、俺が暴力事件を起こしたとなれば、一気に逆転してしまう可能性があった。

「うん……やめてくれて本当によかった……透が退学になっちゃったら……どうしようもないから…」

「本当にすまない…俺のために浅倉に言い返してくれたのに……守ってやれなかった…」

「別にこんなのなんでもないよ?もう痛みも引いたし……」

そう言って理沙は笑みを浮かべたが、浅倉に打たれたその頬は赤くなり僅かに腫れていた。

「保健室行こうぜ、理沙。連れてくから…」

「え、大丈夫だよ、このぐらい」

「いや、大丈夫じゃないだろ、腫れてるぞ。ちゃんと治療してもらえ。ほら…」

「う、うん…わかった」

俺は理沙に手を貸し、立ち上がらせると、そのまま保健室へと連れて行った。


それから数日が経過した。

この間、浅倉が俺に関わってくることはなかった。

俺は部活に参加せず、ただ粛々と学校生活を送った。

炎上の火は、大きくなったまま鎮火せず、ネット上には俺を虐げた生徒たちや学校側へ向けた罵詈雑言が溢れかえっていた。

生徒たちは、自分が批判の的になるのを恐れて下手に俺に近づいてくることを避けていた。

俺は以前とは違った意味で腫れ物のように扱われたが、理沙と隼人がいれば大丈夫だと思っていた。


……そんな日々を過ごしていた時のこと。


ある日俺は唐突に校内放送で校長室へと呼び出された。


「失礼します…」


「おお、きたか!!東雲くん!さあ、入ってくれ!!!」


「…?」

校長室をノックして中へと入ると、そこには校長、そして教頭の他に、俺の担任、学年主任、監督、そして見覚えのある後輩や先輩の部員たちがいた。

「…っ」

「あ…透…」

「ちっ…」

その中には浅倉の顔があり、俺は思わず校長の前で舌打ちをしてしまったのだが、校長は気にする様子もなく、俺ににこやかな笑顔を向けていていた。

「いきなり呼び出してすまなかった。まず謝らせてくれ。ここまで対応が遅れてしまってすまない。君がいじめられてしまったのは我々学校側の責任でもあると思っている。そのことをまず謝らせて欲しい」

「…」

校長が一生徒である俺に、いきなり頭を下げてきて俺は面食らってしまう。

一体何が始まるんだと俺は今日ここに呼び出された連中を見渡したのだが、担任や監督や部員たちは、俺と目が合うと気まずそうに俯いてしまうのだった。
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