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第百六話

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「どういうことだ?説明してもらおうか」

俺はいつでもディンたちを迎え撃つ用意をしながら尋ねる。

ディンはニヤニヤと殴りたくなるような笑みを浮かべながら説明を始めた。

「入団テストは現在も続いている。君たち3人は、現在入団テストの第二段階までクリアしている状態だ」

「第二段階…?」

「そうだ」

ディンは首肯して説明を続ける。

「入団テストの第一段階は、ターゲットであるジュースの情報を得ること。要するに情報収集能力だ」

「…」

「さまざまな勢力の入り乱れる帝都には無数に情報筋が存在する。そのどれか一つを使い、ターゲットであるジュースの情報を手に入れる。これが第一段階の試練だね。君たち3人は、この第一段階の試験をここを出て数時間以内にそれぞれクリアしている」

「…」

俺はシスティ、ヴィクトリア、そしてジュースに移した。

「「「…っ」」」

3人とも拘束され、身動きを封じられた状態で心配そうに状況を見守っている。

怪我をしているような形跡はない。

そのことにひとまず俺は安心する。

「第二の試練は、僕らがあらかじめ雇っておいた殺し屋に打ち勝つことだ。君たちが今回使うことになるであろう情報筋には、僕らが先回りして殺し屋を配置しておいた。ここに辿り着いたということは、3人とも僕たちが雇った殺し屋と戦って生還しているはずだ」

「…そうなのか?」

俺はシスティとヴィクトリアを見る。

二人が恐る恐ると言った感じで頷いた。

「なるほどな…」

少しずつ話が理解できてきた。

どうやらディンたちは、帝都に存在する情報筋をあらかじめ掌握し、俺たちが向かう先に雇った殺し屋を配置したようだ。

そんな手の込んだ真似を入団テストのためにやったようだ。

おそらく俺と同じような状況で、システィとヴィクトリアもディンたちが雇われた殺し屋と戦い、ここに辿り着いた。

俺がここへやってきた時、ディンは俺がビリだと言った。

つまりシスティとヴィクトリアの二人は、俺よりも早く何らかの手段でジュースの情報に辿り着き、自分が騙されていたことを知り、ここへ来たのだろう。

だとすれば残りの疑問は一つだ。

つまり……どうして第二段階をクリアしたはずのシスティとヴィクトリアが拘束されているのか。

「状況が段々とわかってきたかな?アリウス・エラトール」

ディンは、まるで混乱する俺を観察し、楽しんでいるかのように聞いてくる。

「…っ」

今すぐに襲い掛かってやりたい衝動に駆られた俺は、なんとか自分を抑えて先を促す。

「それで……第三段階は?」

「もちろん今から説明する。ちなみに何だが……そこの二人が拘束されている理由は、第三段階の試練に合格できなかったからだ」

ディンがシスティとヴィクトリアを指差していった。

「…どういうことだ?」

「第三段階の試練……それはね、そこにいるジュースを殺すことなんだよ」

「…っ!?」

驚いてジュースを見る。

「うぅ…やだよぉ…死にたくないよぉ…」

ジュースがポロポロと涙を流す。

「どういうことだ?」

俺は警戒度を増しながら、ディンに尋ねる。

ディンがその表情から笑顔を消し、真っ直ぐに俺を見据えながら言った。

「命令だ、アリウス・エラトール。そこにいる少年……ジュースを殺せ。そうすれば君は晴れて帝国魔道士団の一員となる」

「意味がわからない。どうしてターゲットを殺さなくてはならない?」

「口答えは良くないなぁ」

ディンの頬が引き攣った。

放たれる殺気が強まる。

一触即発といった空気が室内を満たす。

「命令されたら、即座に実行する。帝国魔道士団としての心構えだよ?」

「冗談いうな。たとえ命令だとしても、こんな幼子をはいそうですかと殺せるわけがないだろうが」

俺が帝国魔道士団に入る理由は単にもっと強い魔法使いになりたいからだ。

子供を訳もなく殺すような殺人者になりたいからじゃない。

「…はぁ、残念だよ、アリウス・エラトール。君もそこの二人と同様、不合格だ。子供一人殺せないようじゃ、帝国魔道士団に入ることはできない」

「そんなもの、こっちから願い下げだ。優れた魔法使いが集まる帝国の最高魔法機関だと思ってたが、単なる殺人者の集まりだったとはな」

俺はディン以外の魔法使いにも目を向ける。

ジーク、ファウマ、グリル。

3人は殺気を放ち、俺を油断なく観察している。

ただ一人ネフィアだけがぎゅっと目を瞑って、「すみません…すみません…」と何に対してかひたすらに謝っている。

何かが妙だ。

俺は脳裏をよぎった違和感に首を傾げる。

「残念だなぁ」

そんな中、ディンが言った。

「優秀な君と仕事がしたかったのに。アリウス・エラトール。君は非常に優秀な魔法使いだ。まだ若いし伸び代もある。絶対に帝国魔道士団に引き入れたい人材だ。ゆえに……もう一度チャンスをやる。ジュースを殺せ」

「何度命令されようが従う気はないぞ。俺は理由も無く子供を殺すような外道には成り下がらない」

「…聞き分けがない男だな。やっぱり僕は君が嫌いだ」

「お前に嫌われようが関係がない。俺に命令を実行させたいのなら、どうしてその子供を殺さないといけないのか、説明しろ」

俺がそういうと、ディンが「はぁ」とあからさまなため息をついた後に説明し出した。

「わかった。そこまでいうなら説明しよう」

ディンが足元に転がって泣いているジュースをポンポンと軽く蹴りながら語り出す。

「ジュースを殺さなくちゃいけない理由……それはね、こいつの親父が反逆者だからだよ」
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