85 / 118
第八十五話
しおりを挟むエレナとアリウスが敵陣を荒らし回っている一方その頃。
エラトール軍は、見捨てられ孤立した冒険者たちと戦っていた。
後衛からの援護を失った冒険者たちは失速し、1人又1人と倒れていき、ついに最後の1人になった。
「ぐ…ここまでか…」
そしてついに最後の1人が騎士に胸を穿たれて絶命する。
「はぁ…はぁ…」
「これで最後か…」
「こっちも結構やられたな…」
「しぶとい奴らだった…」
冒険者たちを殲滅した騎士たちは周囲を見渡す。
血に染められた大地には、自軍の騎士も相当数横たわっている。
日々モンスターと鎬を削っている冒険者の戦闘力は凄まじいものがあり、こちらにもかなりの犠牲が出てしまった。
「よし…このままカラレス陣まで突撃だ…!!」
「ああ…カラレス側は今、相当混乱しているはず…」
「数で劣る俺たちがこの機を逃せば、勝ちはない…!」
「全員で突撃し、奴らを殲滅する!!」
「エラトール家に勝利を!!」
「「「おおおおおおお!!!」」」
雄叫びが上がる。
冒険者たちの死体を踏み越えて、エラトール軍はカラレス陣へと突撃していった。
大地を踏み鳴らし、勇猛果敢に前へと進む。
連日連夜の戦いでエラトール軍も相当疲弊していたが、しかし指揮は落ちるどころかむしろ高まっていた。
カラレス兵駆逐し領地を守る。
エラトール側の騎士一人一人が、固い決意を胸の内に秘めていた。
「なんだこれ…?」
「カラレス軍が…壊滅寸前?」
「立て直しどころか…統率すら取れてないぞ!!」
「どう言うことだ?」
だが、いざカラレス陣へと踏み入った彼らは拍子抜けすることになる。
てっきりカラレス軍に迎え撃たれると思っていたのだが、実際は彼らはあっさりとカラレス陣の懐に侵入することに成功していた。
周囲にはカラレス兵の死体が大量に転がり、敵は戦意を喪失して四方八方に逃げ回っていた。
「一体何が…」
予想外の事態に騎士たちが首を傾げる中、1人が前方を指差して声を上げる。
「あ、あれを見ろ…!!」
「「「「…?」」」」
騎士たちが一斉にそちらをみる。
「あれは…!!」
「まさか…!!」
「アリウス様だ…!!」
騎士たちの視線の先では、次期領主の青年が、黒いモンスターの背中に乗って逃げるカラレス兵たちを圧倒的な魔法で蹂躙していた。
「「「うわぁああああああ!?!?」」」
「「「ぎゃぁああああああ!?!?」」」
あたりにカラレス兵たちの悲鳴が響き渡る。
クロスケ、クロコに乗った俺とエレナとルーシェは、魔法と魔剣を駆使して逃げるカラレス兵に追い討ちをかけていた。
「随分片付いてきましたね」
「そうだな」
時間が経てば向こうも体勢を立て直し、再び大勢で反撃してくるかと思ったが、もう完全に敵軍は統率を失っていた。
もう生きている兵士もまばらで、大地のあちこちにカラレス兵たちの死体が転がっていた。
「もはや敵は再起不能でしょう」
「そうだな」
「敵将はどこでしょう?」
「ガレス・カラレス……あいつがここにきている可能性があるか…?それともすでに領地に逃れたか?」
この侵攻を企てたのは明らかにガレス・カラレスだろう。
だが奴が直接ここに乗り込んで指揮をとっているかはわからない。
兵士たちのみを送り込んで自分は領地の屋敷に引っ込んでいるかもしれない。
もしそうならかなり厄介だ。
今回の件でカラレス家とエラトール家には決定的な溝ができた。
両家はどちらかが滅ぼされない限り永遠に敵対することになるだろうし、そうなれば兵力増強のために互いの領地が疲弊する。
欲を言えばここでガレス・カラレスを打ち、カラレス領を併合したい。
帝国全土に適応される帝国法では、領地を収める貴族領主一家を滅ぼせばその領地を収めてもいいと言うことになっているからな。
「探しましょうか、敵将を。逃げられる前に殺してしまいましょう」
クロスケから降りたエレナが周囲を見渡す。
俺もガレス・カラレスを探すためにクロスケを降りようとしたその時だった。
「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」
遠くから雄叫びが聞こえてきた。
「あれは…」
「エラトール軍です!!」
ルーシェが嬉しげに声を上げた。
大地を踏みならす行進と共に進んできたのは、エラトールの騎士たちだった。
冒険者たちを倒し終えて、カラレス陣へと進軍してきたらしい。
「終わったな」
チェックメイトだ。
あとは放っておいても、彼らがカラレス兵の残党を全て狩殺してくれるだろう。
「我々の勝ちのようですね」
「そうだな」
大地に降りた俺にエレナが言ってきた。
俺は勝利を確信し、ほっと安堵の息を吐いたのだった。
3
お気に入りに追加
2,858
あなたにおすすめの小説
私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ
Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」
結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。
「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」
とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。
リリーナは結界魔術師2級を所持している。
ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。
……本当なら……ね。
※完結まで執筆済み
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。
ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。
高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。
そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。
そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。
弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。
※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。
※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。
Hotランキング 1位
ファンタジーランキング 1位
人気ランキング 2位
100000Pt達成!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる