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第七十八話
しおりを挟む「あ、アリウス様…!!」
「ああ…近いな…」
ルーシェと並んで俺は領地を疾駆している。
聞こえてくる戦闘音が着実に近づいていた。
オォオオオオオオオ…という両者の雄叫びが空気を震わせてここまで届いてきている。
「あそこに登って見てみよう」
「わ、わかりました」
何も考えずに両陣営がぶつかっているど真ん中に突っ込むのは流石に危険だろう。
俺は近くにあった小高い丘に登って、まずは両者衝突の全体を把握することにした。
「お、見えたぞ…」
「あ、あれは…!」
俺とルーシェは眼科で繰り広げられている戦闘に息を呑む。
そこでは数千人の人間たちが実際に武器を手に取って戦っていた。
あちこちに死体が転がっている。
痛々しい悲鳴が聞こえてくる。
魔法団による爆発音が断続的に響いている。
「…っ」
「アリウス様…」
この目で見るまでなかなか信じることは出来なかった。
だが戦いは実際に起こっていた。
圧倒的物量で領内に押し入るカラレス兵。
それを数で劣るエラトール兵が勇猛果敢に戦って食い止めていた。
「押されているな…」
「そ、そのようですね…」
戦局はエラトール側の劣勢と言ってよかった。
エラトール側の能力が劣っているという話ではない。
むしろ二倍以上の兵力さでここまで持ち堪えてくれているのだから、彼らは当初カラレス側が予測していた以上の力を発揮しているのだろう。
だが、このような平地での戦いとなるとどうしても数が多い方が有利となる。
エラトール側の奮闘虚しく、徐々に戦線は後退して行っていた。
「なんだあいつら…」
「か、カラレスの兵士でしょうか…それにしては統率が取れていないというか…兵装もまばらで…」
「いいや、違うな…」
そしてエラトール側が押されている原因は単純な兵力さだけではないようだった。
「あれは…冒険者か!!」
「え…冒険者…!?」
「どうやらカラレス側が冒険者を雇って前線に投入したようだな」
両陣営の最前線。
そのカラレス側に、明らかに騎士ではない見た目の男たちがいる。
装備もまばらで、騎士に比べ見た目も戦い方も粗暴な彼らはおそらく冒険者。
カラレス家が、なんらかの手段を使ってこの戦いに動員したものと思われた。
「金で雇われたのか…?わからんが……そういやカラレス家は領内にダンジョンがあるのだったな…」
ダンジョンは危険だが同時に資源の宝庫だ。
領内にダンジョンを一つでも持っていると、攻略のために大陸各地から屈強な冒険者たちが集まってくる。
これは俺の想像に過ぎないが、おそらく侵攻に苦戦したカラレス家が自領にいる冒険者たちをなんらかの褒章で釣って戦いに参加させているのだろう。
日々モンスターとしのぎを削っている荒くれ者の冒険者たちは、統率こそ取れないものの正面戦闘では騎士を遥かに凌ぐ。
このような多人数同士での混戦で前線に投入すれば、十分に戦力として機能するということなのだろう。
「まずいな…一刻も早く支援が必要だ」
このままではエラトール側が押されるばかりだ。
俺はすでに魔法の射程内に入っているカラレス兵たちに向けて腕を構える。
「いや…待てよ…」
だが次の瞬間、あるひらめきが俺の頭の中を過った。
「アリウス様…?戦闘には参加しないのですか?」
異変に気づいたルーシェが恐る恐る訪ねてくる中、俺はカラレス軍の背後にある森の方を見ながら言った。
「もちろん参加する。だが今じゃない……ルーシェ…着いてきてくれ。少し遠回りをするぞ」
「え…?」
「ん…?」
エラトール家の屋敷の執務室。
エレナの魔法によって爆睡していたアイギスは、遠くから聞こえてくる戦闘音によって目を覚ました。
「はっ…!!私としたことが…!!」
バッと跳ね起きて、あたりを見渡す。
執務机の上に広げられた自領の地図と騎士に見立てた駒。
どうやら自分は昨日の夜寝ないと決めていたにも関わらず爆睡してしまったのだとアイギスは気づいた。
「また戦いが始まったのか…騎士たちが命をかけてくれている大事な時に私は何を1人で…」
罪悪感に苛まれアイギスは頭を抱える。
と、その時だった。
「あ、アイギス様…!!」
バァンと乱暴にドアを開けて1人の騎士がノックもなしに執務室に姿を現した。
平時であれば礼儀もクソもない無礼な行為だが、今はアイギスはそんなこと気にもならなかった。
「どうした?」
寝癖をなで付け、涎を拭きながらアイギスはただならぬ様子の騎士に尋ねる。
「た、大変です…カラレス家が……冒険者たちを戦闘に投入しました!!」
「何…だと…?」
その後騎士からの報告により、アイギスは、カラレスが大量の冒険者を前線に投入し、自軍が押されていることを知ることになるのだった。
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