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第三十話

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「やった…!ぐ、グレン…!勝った…!勝ったぞ俺は…!!」

ルクス王子を下したアレルが俺の元に駆け寄ってきた。

「ああ、見てたよアレル。すごいな、お前」

俺は興奮したアレルを褒める。

「何言ってんだよ!!お前のおかげだ…!!お前が俺の力を引き出してくれたんだ…!!」

アレルが俺の肩を揺らしながら言った。

「…どういうこと?」

アンナが横から怪訝そうな目を向けてくる。

「あー…そのなんだ…ちょっとこいつの訓練に付き合ってやったというか…」

俺は内心不味いぞと思いながらそう言った。

俺がアレルを訓練して強くしたことをあまり広められては困る。

俺はあくまで勇者の希望でこの城についてきただけの金魚の糞でありたいのだ。

目立つことはなるべく避けたい。

「訓練…?グレンが…?グレンってアレルより弱かったよね?」

「そ、そうなんだ…!そうなんだが…なんていうか…俺なりにアレルを励まそうとした結果…思いついたことなんだ。実は昨日の夜から今朝までアレルと剣の打ち合いをしてな…それで少しでもアレルが元気になればいいと思って…結果的にアレルの力を引き出す結果になったんだったら嬉しいぞ…ははは」

俺は乾いた笑いを漏らす。

「え…あれ…いや、でも…俺はグレンに何度もやられたような…」

アレルが首を傾げる。

「つ、疲れてたんだろ…?ほら、お前部屋に引きこもってたから…流石の俺でも疲れた俺には勝てるって…」

「けど…な、なんか今戦ったルクス王子よりも遥かに数時間前のお前の方が…」

「そ、そりゃそうだろう…!!だってお前はたった今、勇者の力を目覚めさせたんだから…!!」

もうこの路線で行くしかない。

勢いに任せて俺は捲し立てる。

「さっきのお前…まるであの時みたいだったぞ…!!ま、魔族を倒した時みたいな…」

「そう…なのか?」

「あ、あぁ…!!そうだ…!あの時お前は魔族を倒した後すぐに気絶したから記憶がないかもしれんが…俺はちゃんと見てたぜ…!!あの時のお前は今みたいに、確かにいつもとは違う動きをしていたんだ…!!」

「うーん…まぁ、そういうことになるのか」

俺の必死の力説の甲斐あってか、段々と満更でもなさそうになってくるアレル。

「悪いなグレン。なんかお前を踏み台にするみたいな感じにしちまって…とにかくお前のおかげでルクス王子に勝てたぜ…!!」

「ははは…別にいいんだ。だってお前は勇者だろ?世界を救うことになる英雄だろ?俺なんかどんどん踏み台にしてくれよ…ははは…」

俺は苦笑いを浮かべる。

アレルは褒められてかなり嬉しそうだ。

「むー…なんか納得がいかないような…」

ただ、完全に言いくるめられたアレルと違い、アンナは、何かが引っかかると言わんばかりの表情で俺をみている。

「…っ」

…なかなか鋭いなアンナ。

俺が、魔族討伐の功績をアレルに押し付けた時も似たような反応をしてたよな。

多分お前が抱いている違和感は正しいぞ。

ただな…確証が得られなければお前だってあれはアレルがやったって信じざるを得ないだろ?

「なんだよ、アンナ」

「…」

「まさか…アレルやルクス王子よりも俺の方が強いなんて思ってないよな?そんなの絶対にあり得ないぜ?」

「…そ、それはそうだけど」

「俺はただの村人だ。ルクス王子や、勇者のアレルには敵わない。そうだろ?」

「う、うん…」

渋々と言ったように頷くアンナ。

アンナは俺を疑っている。

だが確たる証拠がない今、断定はできない状態なのだろう。

…今後はアンナに確信を与えないように注意する必要があるな。

「勇者様…疑ってすみませんでした…」

「勇者様…あなたの実力は本物だ…私たちはあなたの実力を見誤っていました…」

「勇者様…ご無礼をお許しください…あなたは間違いなく世界を救う英雄だ…」

そうこうしていると、勇者の実力を疑っていた者たちが、アレルの元に次々に謝りにくる。

「ははは。全然いいですよ…!!俺は気にしてないですから!!」

アレルはちょっと照れたように頭をかいて、彼らに笑いかける。

…ともかくそんな感じで、俺はアレルをなんとかルクスに勝たせて物語の軌道に乗せることに成功したのだった。


だが、それから三日後、事件が起こることになる。


「ぐ、グレン…!!大変…!!すぐに来て…!!」

「アンナ?どうかしたのか?」

早朝、俺の部屋にアンナが駆け込んできた。

眠い目を擦りながら何事かと尋ねる俺に、顔面蒼白のアンナが言った。

「アレルが…アレルが突然倒れたの…」

「は…?冗談だろ?」

「け、今朝…朝食を食べた直後に……急に…」

「…マジで?」

「…も、もしかしたら毒を盛られたかもしれないって…」

「毒……毒か……って、あ」

「え…?どうしたの、グレン」

俺は再び自分が重大なイベントを失念していたことを悟るのだった。


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